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ド田舎の村娘ですが、成り上がるために国中の猛者たちを下しに行きます  作者: 今江彰人
第2章《愛も蝕むポイズンロード》

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26/75

26:お風呂に入りたい!

今回は羽休め回です。

「徒歩四日半か……」


果てしなく続く草原を眺めながら、フレイング・ダイナはか細い声で言った。眺めているといっても、焦点はあまり合っていない。半ば現実逃避に近かった。


「おい、止まるなよフレー」


そう口にして振り返ったのは、誰よりも多くの荷物を運びつつ、先頭を歩いて汗一つかいていないザン・セイヴィアだ。相変わらず恐るべき体力である。


「そ、そうです……はあっ、フレー、ここで疲れてたらこの先、はぁっ……」

「……エーネがやばそうだから、休憩にしない?」


横で汗だくになりながら虚ろな目をするエディネア・モイスティを見やって、フレーはため息交じりに言った。


グレイザーが旅立った次の日。彼とほぼ同時刻にビートグラウズを後にしてから、約半日が経過していた。もう日も落ち、辺りは薄暗くなっている。


「本当はもう少し歩きたかったんだが……」

「そうはいうけどさ、ザンの体力と一緒にしないでよ。荷物持ってくれてるのはありがたいけど」

「仕方ない。少し早いが野宿の準備と行こうか」


野宿。待ちに待った休憩ではあるが、いざその言葉を聞くと、フレーとエーネの間に何とも言えない緊張が走った。

王都へ旅立つと決めた時から全員が予感していた展開だ。しかしビートグラウズでの暮らしが案外快適だったのもあって、今まであまり実感が湧かなかったのである。


「よ、よし……まずは場所取りだね。岩とかがあって、色々遮られるところにしよう!」

「洞窟! 洞窟があれば最高! あとなるべく平らな場所がいいです!」

「……急に元気になったな」


ザンは不思議そうに首をかしげたが、こちらはある意味必死だった。

男女での野宿……幼少期から共に過ごし、フレーたちのザンに対する信頼は絶大なものである。彼が邪な気持ちで二人のいずれかに手を出すことなど、天地がひっくり返ってもありえないだろう。

しかしその一方で、彼が男性であるという意識はどうしても拭えないのだ。


「エーネ、お願いがあるんだけど……三人で並んで寝ることになったら、エーネが真ん中でいい?」

「えっ!? それは……えっと、私には荷が重いような……フレーの方がいいんじゃ? 同居してますし、実質兄妹だし」

「で、でも血は繋がってないしやっぱ抵抗あるよ。寝顔見られるのやだし……。え、エーネは昨日、私たちの仲だから今更平気だって言ってたじゃん。その、間接……の話で……」

「だ、だから何で赤くなるの。それとこれとは全然話が別です!」


周囲の岩場を探りつつ、ザンには聞こえないようエーネと言い争う。大した問題ではないとわかってはいるが、両者とも若干意地になっていた。


「よし、ここにしよう」


結局洞窟は見つけられなかった。街道を逸れたフレーたちが辿り着いたのは、周囲に点々と岩が並ぶ荒地だ。

手分けをして設営を終えると、それに呼応するように小さく腹の虫が鳴った。そろそろ夕飯の時間である。


「あー、旅って感じする!」


フレーは満面の笑みで質素な携帯食を頬張る。質だけで言ったらビートグラウズどころかホメルンにも劣るものであるが、こうして野外で三人で食事をしているという事実が、それを何倍も美味しくさせた。


「フレー、本当に美味しそうに食べますね」

「なんかこういうの楽しくて……ねえ、もうちょっと無いの?」

「これ以上は明日以降だ。全員同じ量だからな……相対的に一番辛いのが誰かはわかるだろ」


しんみりとしたザンの態度に、「確かに」と口を次いで出た。贅沢は言っていられない。


「さて、明日に備えてさっさと寝るわけだが……」

「うっ」

「見張りが要るな。どういう制度にする?」


ザンはフレーに問いかけていた。実質物事を取り仕切っているのは彼だが、リーダーである自分に決定権は委ねてくれるようだ。

それよりも……


「見張り?」

「当たり前だ。こんな草原の真ん中で、三人全員が寝てるなんてあり得ないだろ」


また「確かに」だ。誰か一人は起きて、不意の襲撃などに備えなければならない。


「普通に考えれば交代制になるけど……」


言いながら、フレーは二人を見やる。ザンは何も考えていなさそうな表情だったが、エーネは俯いて思案顔だった。


「ねえ、ザン。やっぱり最初に見張りを終えて、後で寝る方が良いですよね」

「ん? それはまあそうだな」

「……シュレッケンに着くまで、その役はザンに譲ります」


フレーが目を丸くすると、エーネはどこか切羽詰まった表情でこちらに言い募った。


「フレー、私たちはやるべきことがあるはずです! だってこのままじゃ……」


早速見張りの準備をするザンに隠れ、エーネは服の襟をパタパタと動かした。少し香った汗の匂いに、フレーはその意味を察する。思えば自分も……


「で、でもそれは……私も考えたけど……」

「魔法使える私たちの特権です! 気持ちはすごくわかるけど、お願い……!」

「う、うぅ……わかったよ……」


手を合わせて頼み込んでくるエーネ。羞恥心と彼女への愛情を天秤に賭け、フレーは渋々頷いた。


この返事を、フレーはすぐに後悔することとなる。


─────────────────────────


「ザン、ぜ、絶対こっち見ないでよ……!」

「わかったって。お前ら、そっちの警戒は怠るなよ。その方がよっぽど大事なんだ」

「こっちも一大事です……! ほ、ほんとのほんとに、絶対だから!」

「しつこいな……頼むからさっさと済ませてくれ」


こちらに背を向けたザンが辟易したように耳を塞ぐ。先ほどから彼を少し仲間外れにしすぎかもしれないが、こちらとてそれどころではないのだ。


夜間の少し冷えた風が二人の体を伝う。落ち着かない様子のエーネが、それに反応してさっと鳥肌を立てた。

そう、今のフレーには彼女の鳥肌が見えるのだ。そしてそれは、向こうも同じである。


危険に溢れた草原の中心。フレイング・ダイナとエディネア・モイスティは、一糸纏わぬ全裸の状態だった。


「フレー、早く、早くしてっ!」

「ま、待って、集中しないとっ……ああああ、人いないよねっ、見られてないよね!?」


綺麗好きのエーネたっての頼みで、現在は水浴びの準備中である。旅中では乾かすのが大変なので、体にタオルを巻くわけにもいかない。よってこんな場所で互いに全裸という、泣きたくなるような状況になってしまったのだ。


「だ、だから嫌だったの! 蒸したタオルで体拭くだけで良いじゃん!」

「これからずっとそれなの!? あ、明日、明日はそれでいいから! お願いフレー、早く火出してください!」


頭上で巨大な水の塊を漂わせながら、エーネが鬼気迫る表情で言う。

何度も周囲を確認しながら、フレーはやっとのことで生み出した炎を水塊に突っ込んだ。


「お湯用意してから服脱げば良かった……」


それにしても、エーネは相変わらずストレスに弱い。気にならないかと問われれば当然そんなことはないが、多少汗臭いのなんて仕方ないのに。

と、彼女がじっと自分の体を見つめていることに気づいた。


「え、エーネ。そんなじっと見ないでよ」

「あ、ごめんなさい。その……何か久しぶりだなって思って。一緒にお風呂なんて」

「全然お風呂じゃないし、できればこんな形じゃなくてシュレッケンの温泉でゆっくりしたかったけどね!」


今は死都と呼ばれるシュレッケンだが、以前は音楽などの他に温泉も栄えていたようだ。色々と開放的な街なのだとハンガーズから耳にしている。


「というかエーネはさ、シュレッケンにも行ったことあるの?」

「…………え?」

「どのくらい知ってるの? ホメルンの外のこと。というか、エーネは結局どこから来────」

「わ、わ……脇の下綺麗ですねっ、フレー!」

「へっ!? ちょっ、どこ見てんの!」


こっちが腕を下ろせないのをいいことに……!

仕返しがしたくなって、フレーの方もエーネの体をガン見した。年上なだけあって、全体的に少しサイズが大きい。どんなコメントを発してやろうか考えていると、彼女は再び謝りながら体を隠す。


ちょうど水も煮立って音を立て始めた頃。


「……ん?」


中途半端な高さの岩の向こうから、これまで静かだったザンの声が聞こえてきた。まさかという思いに、フレーもエーネも身を縮こまらせる。


「な、何、ザン? もしかして、ひ、人……」

「違う」


険しい声でそう言う彼は、暗闇のある一点を見つめていた。こちらに背中を向けているが、じっと目を細めているであろうことが窺える。


「……おかしいよな、明らかに」

「だ、だから、何が」

「地形だ。俺たちが今日歩いていた街道の一部分……妙に凹んでいると思わないか?」


全く思わないし、そもそも見えすらしない。ザンは特殊な力が無い代わりに、フレーたちにできない多くのことに精通しすぎている。


「あれは戦いの跡だ」


ザンは重々しい口調で言い放った。


「道に差し掛かった時は気付かなかったが……あそこで戦闘が行われていたんだ。痕跡は意図的に抑えられてはいるが、それでも地形が変わるほどの激しいもの……」

「ザン、そ、それ今じゃないとダメですか? 私たち今……」


フレーたちは彼の話の半分も耳に入っていなかった。エーネは体を両腕で覆いながら身じろぎしているし、フレーも腕を水に入れつつ、できる限り前のめりになっている。

正直、彼がそのままのテンションでいつか振り返らないか、気が気ではないのだ。


「当たり前だ。この道はグレイザーも通ったはずなんだ」


そんな二人の思いを知る由もなく、ザンの声は真剣そのものだ。


「もし戦ったのがあいつなら……あいつがこれだけ激しい痕跡を作るほどの、凶悪な相手ってことに────」


「ふ、フレー、お湯が!!」


ザンを遮る形でエーネが大声を上げる。

慌てて見ると、用意した水の塊が激しく泡を吹きながら沸騰していた。炎を出している手は温度感覚が鈍るが、この場合は見ただけで高温だとわかる。


「し、しまった! 何回か集中切れて、かえって強めに……!」

「ど、どうします!? もう一回待つなら流石に服着たいっていうか、もう心臓がずっとバクバクいってて……!」

「もう待ちたくない! こ、こうなったら一思いに浴びようよ。外だし案外気持ちいいかも!」

「は、ちょっと……!? どう見ても人肌に合う温度じゃ……!」


エーネが言い終える頃には、フレーは両腕で思い切り塊の一部を引き裂いていた。固まっていた水が分離し、新鮮なお湯が平等に二人に降り注ぐ。

そして───


「あっっっっっっっつ!!??」

「ぎゃっっ!!?? バカッ、フレーのバカッ!!」

「お前らなぁ……」


もし今賊が来たら全滅だな、と虚ろな。声で嘆くザンの背中で、フレーとエーネはバタバタと暴れ回る。

お湯が良い感じに冷めて二人が体を清め終える頃には、心身共に疲れ切っており、寝る並び順などどうでも良くなっていた。

第二章、開始です! これからもよろしくお願いします。

二章は一章よりもちょっとギャグ多めになる気がします。

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