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ド田舎の村娘ですが、成り上がるために国中の猛者たちを下しに行きます  作者: 今江彰人
第1章《侵略の守護者》

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22/75

22:全て超えるべくして

「はあああああっ!!」


力の限りの咆哮と共に、フレーは炎を総動員する。


「甘いぞ、ダイナ!」

「っ……ラン・フレイム!!」


次々とけしかけた赤き渦を、グレイザーは巧みに避け続けた。一瞬の隙を縫って彼のナイフが飛び出してくる。宙を走る炎で迎撃すると、衝撃で目も眩むような閃光が走った。


「うっっ……!!」


視界を奪われたそのタイミングで、グレイザーが前方から消えた。気配がした背後を見ると、彼が複数のナイフをこちらに投げる準備をしている。


「食らえ!!」


飛んできた数は、四本。しかし先ほど彼が持っていた数は────


「やばいっ……!」

「ぜあああッッ!!」


回避を終えて隙ができたフレーの懐に、最後のナイフを手にしたグレイザーが疾風のごとき速さで潜り込んできた。


「フレイム・バリアッッ!!」


瞬時に腕を突き出し、防御を展開するが、


「無駄だ! 射撃を防いでいた時に、おおよその硬度はわかっている!」


殺意のこもった刺突の次に、彼は凄まじい威力の蹴りを繰り出した。まさかの攻撃に、フレーの集中が大きく揺らぐ。

バリアが崩壊するのに時間はかからなかった。


「嘘っ!? っ、ふ、フレイム────」

「消えろッッ!!」

「────バリア・アタック!!」


致命傷を受ける前に、残っていた炎の壁をそのまま彼にぶつける。本能で危険を察知したグレイザーは、すんでのところで攻撃を止め、大きく跳んで後ろに退いた。


「仕損じたか……だが、やはりお前には近接の方が有効だな」

「っ……はああっ、はあっ…………!!」


戦況が煮詰まってくるにつれ、フレーの体力は大きく削られていた。何度かナイフが掠り、頬が少し切れている。

しかし、消耗しているのは向こうも同じはずだ。


「……感じるでしょ、グレイザー。下の階……エルドさんとザンがいたところに、エーネの気配もする」

「あァ、そしてもう一人……あの男か」

「もうあの二人の決着はついてるよ! 降参して! これ以上戦う意味はない!!」


雨に打たれながらも、煌々と輝き続けるノーブルタワーの灯火。ビートグラウズの全ての人間が、今起きている異変を認識し────

そして、偉大な守護者の無事を祈っていた。


「……退く道など存在しねェ。お前が仮に化け物であろうとも、俺は全てを賭して立ち向かわねばならん」

「どうして……っ!?」

「もはや遠い記憶となった、あいつとの約束。それを果たすことが、俺の揺るぎない使命だからだ……!」


所々破れたグレイザーの衣服の奥に、何やら黒光りするものが見えた。

どうやら機械のようだ。体に何かを装着している。彼の動きは鍛錬の賜物でも、先ほどの蹴りの異常な強さはそれに由来するものであると気付いた。


(あれもランドマシーネの技術? グレイザー、どこまで……!!)


銃器や機械に頼らずとも、彼ならばその身だけで王国軍の第一線でも活躍できるに違いない。

にも関わらず、グレイザーは貪欲に力を求める。リアンのために。エルドのために。


最強の街を、造り上げるために。


「俺たちの脅威となりうるものは、全て排除しなければならん! シュレッケンも、フレイング・ダイナ、お前も!!」

「…………ッ!!」

「ようやくここまで来た……あァ、そうだ。これから造る街は、安寧のためでもあり、俺の野望でもある。全てを叶えるべく、俺はエルドと共にランドマシーネに赴く!! あらゆる存在の抑止力たる『機人』を手に入れ、そしていずれ────」


蒼色の眼光を放ち、グレイザーは天高く吼えた。



「俺は、テンメイ王をも超える────!!!」



フレーは思い知った。守護者グレイザーの決意の強さを。群都市の長たる所以を。


そして彼が、今ここで倒すべき「敵」であるということを。


「グレイザー」


名を呼ぶと、彼は無言で武器を構えた。なんとはなしに胸が詰まって、掠れた声になる。


「行くよ」


フレーが腕を振るう直前、グレイザーがニヤリと笑った気がした。その意味を確かめる間も無く、頂上を包む炎が再び暴れ出す。


「フレイム・グランドウェーーーーブッッ!!」


ナイフは飛んでこない。次々と襲い来る赤波を一身に受け、グレイザーは業火の中に消える。

役目を終えた炎は一斉にその姿を消し、後には視界を覆う黒煙だけが残った。


「やった…………」


グレイザーを仕留めた。喪失感と達成感がごちゃ混ぜになった複雑な感情を抱きながら、フレーは脱力する。

この先のビジョンなんて無い。ゼノイにどう伝えれば良いかもわからない。

けれど、今は────


「────────え」


瞬間、強烈な痛みが走った。到底無視なんてできない、刺すような苦痛が右手を支配する。

呆然と下を見たフレーの視界に映ったのは、真紅だった。それが自分の血液だと気づくのには、だいぶ間が要った。


「……これが不意打ちの手本だ、ダイナ」


煙が晴れ、倒したはずの男が姿を現す。服が煤だらけになった彼はしかし、体に装着した機器の助けを得て、巧みに炎を退けていた。


ナイフによる投擲だったら気付けたはずだ。けれど彼の手にあったのは、未だフレーの見たことのない武器。小型で持ち手があり、先端に穴の空いた鉄製のそれは────


「拳銃……こいつはそういう名前だそうだ」

「────────ッッ!!」


声にならない悲鳴を上げ、右手を押さえて膝をつく。出血が止まらない。人生で初めての出来事に、驚きの感情で涙が溢れてきた。

まさか、まだ武器を隠し持っていたとは。


「視界が良ければ心臓を撃ち抜けたはずだが……いずれにせよ、片手が封じられれば魔法は上手く使えまい」

「うっっ、ぐうっっっ……!!」

「ここは俺の本拠地……手段など、いくらでも用意してきた」


彼の言うように、左手だけではコントロールができない。一帯を取り囲んでいた炎も、先ほどの攻撃で全て消えてしまった。


(殺される……っ!)


あの飛び蹴りが決まったのは本当に奇跡だったのだ。彼がフレーの実力を測っている段階だったというだけのこと。

数々の政敵を欺き、今の地位を手にした男が本気を出せば……一介の少女は容易に出し抜かれる。


「……グレイザーッッ……!」

「お前は強い。だから、確実に仕留めさせてもらう」


フレーの額に銃口が向けられる。ナイフと違い一切隙の無いその武器は、決して回避を許してくれないだろう。

ならば、せめて……!


「はああっ……!!」


フレーは左手で最後の壁を張った。両手を使ったものと違い、到底全身を守れるものではない。しかし銃弾を防ぐことくらいは────


「っ────!?」

「さあ、退場の時間だ」


痛みに気を取られ、目を細めたその一瞬で。いつの間にか銃を下ろしていたグレイザーはフレーの眼前にまで接近していた。

繰り出されるのは蹴り。それも真上に向けてだ。急いでバリアの向きを変え、同時に噴射で離脱の準備をする。


そして……



「この街に────お前の居場所は無い!!」



グレイザーから繰り出された渾身の一撃は、身を守る壁ごとフレーを捉えた。体を捩ると手のひらが下に向き、炎が暴発する。

機器により増強された圧倒的な力になす術もなく……


「うああああああっっっっ!!!???」


自身の噴射も相まって、フレーは天高く吹き飛ばされた。


「さあ、パーティの終幕だ!」


空中で錐揉みする少女に向け、グレイザーは怒号を放った。

それに呼応するように、先ほどまで戦場だった頂上の地形が、みるみるうちに変化していく。


─────────────────────────


「────!? みんな、あれを!!」

「んぅ……何ですか、ザン? まだ若干目眩が……珍しい鳥でもいたの……?」

「そんなわけあるか! 上だ!」


ザンが指し示したのは、先ほどまで真っ黒な天井に覆われていた場所だ。それが今では徐々に開いていき、完全に空を一望できる状態となる。

いつの間にか雨は止んでいた。次第に空が晴れる中、エーネは忘れ難い男の背中を見つけた。


「あああっ!? グレイザー!! グレイザーが端に立ってます!」

「どういうことだ!? ダイナ嬢は!」


静かに決着の時を待っていた一向は、予想だにしていなかった事態に驚愕していた。

守護者グレイザーは、足場の残された頂上の端部分に仁王立ちしている。一方で、肝心のフレーの姿は見つけられない。


これから何が起こるか察しのついてしまった、彼以外は。


「……上だ」

「上……? 上も何も、今まさに……!」

「違う、空だ。空にいる」


エルドが言い終えると同時に、突如全方位の壁から無数の金属が飛び出してきた。

先端が鋭く尖ったそれらは、まるで巨大な針のような様相で、その全てが上に向けて伸びていく。


「な、あっ!?」

「仕留める気だ……」


ザンたちの上方が大針によって埋め尽くされ、外の様子が認識できなくなってから、エルドは震える声で告げた。


「グレイザーは上から落ちてくる彼女を……音速で放たれるこの大針で、串刺しにする気だ!!」

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