表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ド田舎の村娘ですが、成り上がるために国中の猛者たちを下しに行きます  作者: 今江彰人
第1章《侵略の守護者》

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/75

20:食らえ渾身の!

「……いっ、今だ!」

「遅い!」

「どわああっ!?」


自らを守る炎の壁の中、フレイング・ダイナは窮地に陥っていた。

グレイザーが意のままに操る、ランドマシーネの銃器。それらが絶え間なく駆動している今、外に出て攻撃することすら叶わない。わずかな隙をついて炎を飛ばそうにも、彼のナイフによる正確な狙撃がそれを許さないのだ。


「あれだけ啖呵を切った割りに、防戦一方だな? 隠れてばかりではジリ貧だぞ!」

(じ、自分でもそう思ってるから言わないで……!)


戦況が傾くのは、戦いが始まってからほんの一瞬だった。フレーは手始めに自分を取り囲む銃器を破壊しようとしたが、グレイザーによる怒涛の投擲に阻まれたのだ。

それを避けようとすると、今度は四方八方から正確無比な射撃が襲ってきた。両者に対応しきれず冷静さを失い、守りに入ってから今に至る。


(ザンの嘘つき! 多分、そっちがグレイザーの相手した方が良かったって!)

「……守りが薄れたな。やはりそうか!」

「えっ────ちょっ!?」


慌てて気合いを入れ、体感では音速を超えているナイフをなんとか防ぐ。炎とは本来何かを守るものではないのに、こんな使い方しかできないのがとても歯痒かった。

とはいえ、硬化させることが可能で本当に良かったのだが。


「見切ったぞダイナ。お前、集中が切れると炎の形が揺らぐな?」

「あ……」

「二つのことが同時にできねェ……防御しながらの、銃器の各個撃破や突撃といった、有効な手段が取れねェのはそのためか」


全くもってその通りである。村が襲われた時だって、ボウガンを突き付けられ、口を塞がれただけで身動きできなくなったのだ。

グレイザーのしたり顔を想像して歯軋りする思いだったが、この状態ではそれを拝むこともできない。


「それに、どうやらお前は両手からしか炎を生産できないらしい。あのモイスティは遠隔からでも可能だったようだが……魔法使いの中にも格差があるのか?」

「っ……私はエーネと比べないの! お互い良い所がある! 例えば私は、ああああっっ!?」

(話途中を狙うとかやばすぎ……! でも、それも戦法か……)


確かに遠距離主体の戦いにおいて、もしエーネのような遠隔攻撃があれば大きなアドバンテージだっただろう。

しかしフレーにはそれができない。よって予め頂上を自分の炎で覆い尽くし、一斉に動かしてグレイザーを取り囲む算段だったが、今やただの飾りと化していた。


「この雨も、お前の魔法には向かい風か? 知らんだろうが、機械も水には弱い……だがこの街の武器は特に高性能な特注品。力尽きるのはお前が先だ!」

「な、舐められてる……!」


煽るような口調に、ふつふつと怒りが湧いてくる。しかし彼のことだ、我を失った相手ほど仕留めやすい敵はいないだろう。

せめてグレイザーのように、こちらも隙を作らせることができれば……


「…………隙……」

「……? どうした、投降する気になったか?」

「ううん。考えてただけ。何がグレイザーを……ここまで強くしたのかなって」


炎の壁を維持しつつ、フレーはゆっくり立ち上がる。集中力は限られており、話しながらでは歩くこともままならない。ギリギリの状態だ。


「はっ……俺の考えが、お前に理解できるはずもねェ。リアンのことなら、どうせあの人から聞いたんだろう? それ以上語ることはねェさ」

「ほんとにそうかな?」


出しうる限りの低い声で、フレーは問いかけた。


「グレイザーは結局……野心を抑えられないだけでしょ?」

「…………何?」


彼の声色が明らかに冷たいものになる。向こうとて、これが挑発だとわかっているはずだ。しかしその上で、無視できていない。

これは、いける。


「シュレッケンに挑んで街を守るだけじゃ、この先に進めない。自分たちが強くなることも大事。だからどっちも達成するために、敢えてランドマシーネに軍を送る……」


そこまで話し終えてから、フレーは小さく笑った。


「結局、それは自分が人の上に立ちたいだけじゃないの? すごい技術を手に入れて、誰も逆らえないくらい強くなるのが目標なんだよね」

「……あまり俺を怒らせないほうが良い」

「怒らないでよ。グレイザーが夢や目標は否定しないって言ってくれたみたいに、私も否定してるわけじゃない」


壁越しに、真っ直ぐグレイザーの方を向く。


「正直に言うと、私はその気持ち結構わかる。鉄の饗炎に参加して、大事な幼馴染を巻き込んで王都を目指してるくらいだから……」


フレーの言葉に偽りは無かった。グレイザーがただ黙っているだけなのが、こちらの言葉が響いている証拠である。


「でも、リアンさんの願いはそうじゃないよね?」


「────!」


一歩踏み出す。炎の壁が揺らいでも、グレイザーは攻撃を仕掛けてこなかった。


「最強の街……ゼノイさんから聞いたよ。あれって、本当にそんな意味なのかな」

「…………」

「強い軍。強い兵器。それはグレイザー自身の望み。きっとね、グレイザー……リアンさんはもっと────」

「黙れ」


フレーが炎であるのに対し、今の彼は氷そのものだった。こんなに凍えるような声を、人が出せるのだろうか。

けれどこの声こそが、フレーが待っていたものだ。


「わかるはずがねェ……たかが村娘のお前に。今は亡き、俺たちの友の願いなんざ。さしたる決意も無いお前に……!」

「わかるよ。だって、私の決意はここにある。ここに……ずっと、ずっと」


そっと胸を押さえて、フレーは目を閉じた。愛しい声が聞こえるような気がして、心が温かになる。

さて、もう十分だろう。


「まあ、時間稼ぎはこのくらいにしてさ」

「…………?」

「グレイザー。私の力ちょっと見くびってるでしょ」


グレイザーが顔を顰める気配がした。フレーは構わず続ける。


「攻撃は確かに、私の手のひらからしか出せない。でも逆に言うと、『手のひらから』なら、なんとでもなるの」

「…………ちっ、お前……!」

「気付くのが遅かったね……私の炎は、地面も伝うよ。もうこのタワーに逃げ場は無い!」


満を持し、フレーは炎の壁を解除する。下を警戒していたグレイザーは案の定反応が遅れた。

投擲も、銃器による射撃も間に合わない。今こそ下から突き上げる火柱が彼を────



「……………………なんてねっ、ラン・フレイム!!」



フレーは右手のひらを前方に突き出し、全神経を集中させる。下を向くグレイザーの中心を捉え、最速で炎の弾丸を放った。


「ッッ!?」

「外した……!」


すんでのところで炎を躱し、体を捻らせたグレイザーが、目を見開いて凄んだ。


「ハッタリか……! 小賢しい!!」

「そうだよ! そんな器用なことできるなら、最初からやってるっ!」


間髪入れず、神速のナイフがフレーの額を目掛けて飛んできた。けれど先ほどの不意打ちにより彼の行動が遅れている。

ナイフが届く頃にはもう、フレーは体の左側に向けた強い噴射によって、弾き飛ばされるように脇に逸れていた。


「馬鹿な……!」


柵に激突してしまう前に足をかけ、再び跳躍する。外に飛び出さぬよう低空を意識しながら、彼の視界から逃れるように高速で移動する。


「いや、構造上空は飛べねェ……射程範囲内だ!」

「残念ながらねっ……! でも、数回くらいなら跳べる!」


そう、フレーに飛行は不可能だ。一見容易そうだが、手からの噴射だけでバランスを取ることは難しいし、何より長時間の噴射は、力の残量に関わらず大きな負担となるようなのだ。

せいぜい柵を使っての跳躍が限界である。だが動きを読まれることがなく、銃器の照準も追いついていない今……それで十分だった。


「食らえ、グレイザー!! 私の渾身のっっ…………!」

「ッ……その距離からの攻撃など────!!」


再び彼の真正面に位置し、宙を舞いながら手のひらを向ける。何かの攻撃が来ると察した彼は、即座に回避態勢を取った。

しかし飛び道具だけが全てではない。最後に信じられるのは、そう────


「飛び蹴りーーーーーーーーーーッッッ!!!」


己の肉体だけである。


「なっ────!!??」


攻撃すると見せかけ、フレーは最後の噴射を行った。向きはグレイザーとは逆側……つまり、彼に突撃する形でのものだ。

散々遠距離主体であることを意識させた結果である。もしグレイザーが少しでも肉弾戦を想定していれば、あっさりと防がれただろう。


たった一度しか通じない、フレーの会心の一撃。


「ぐあ……ッ!!」


防御の遅れたグレイザーの身体に、フレーの全力の右足が叩き込まれる。突然の攻撃こうしてもなく、彼は呻き声を上げながら後方の柵へと吹き飛ばされた。

そうして華麗に着地したフレーは、


「いっっつううううう…………っっっ!!」


涙目になりながら足を押さえていた。


(お、折れて……ないよね? エーネってこういう怪我も治してくれるんだっけ……?)


ザンのように鍛えているわけではないヤワな肉体は、噴射を利用した高速の飛び蹴りに耐えられるようにできていない。実を言うと、グレイザーの吹き飛び方こそ派手だが、衝撃自体は到底致命傷にはならないものだ。


こうして互いに傷を負ったものの、どちらが先に動けるかは考えるまでもない。

今こそが好機だ。立ち上がったフレーは両腕を広げ、天高く叫んだ。彼への直接攻撃は間に合わなくとも────


「フレイム・ウェーーーーーブッッ!!!」


フレーに呼応し、ノーブルタワーの頂上を包み込んでいた炎の波が一斉に動き始めた。全ては使い手の意のままに、十数個あった銃器を次々と飲み込んでいき……


それらの全てを、再起不能になるまで焼き尽くした。


「げほっ……やってくれたな、ダイナ……!」

「ふ、ふふっ……これでやっと、一対一だね」


立ち上がり、服の汚れを払うグレイザーは、多少の傷はあれどピンピンしている。対するフレーは足の痛みが治まらず、涙声だった。

しかしこれで勝機が見えた。この街の守護者を打ち倒し、前へと進むためのチャンスが。


「お前はやはり、『魔法使い』なんだな」


グレイザーは顎を引き、徐に言った。


「とぼけているかと思えば、群衆の前で俺に刃向かい……ただの小娘かと思えば、常人では考えられねェ威圧感を醸し出す。おまけにこの俺に一撃入れるとは……油断ならねェ相手だ」


彼が長髪を揺らしたその時、フレーはまるで地鳴りのようなものを感じた。グレイザーから、あたかも闘気のようなものが生まれている。

フレーには見える……蒼色に輝く、彼の信念の塊が。


「本気ってわけか……」

「今ここでお前を下し、未来への糧としよう。友との別れを済ませておけ」

「必要ないよ」


フレーは両腕に力を込め、頂上の炎に更なる勢いを与えた。鍛え上げられた異能は、守護者の気迫をも退ける。


「仮にこの身を貫かれても、私は決して倒れない。最後に勝つのは、絶対に私だよ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ