最終話 「彼と彼女」
弟と別れた後、俺は駅前の駐輪場に自転車を置いて、待ち合わせの公園へと歩いて来た。
その途中、
「あれ?」
と思って、今しがた公園を出ていったカップルを見送る。
あれ、弟じゃないか?
「そうか」
彼女が出来てたんだな、あいつ。
この事を種に、後でからかってやろうと思いつつ、同時に必ず一言伝えなければならないな、そう思う。
彼女、ちゃんと大事にしてやんだぞ。
振り返る。
公園の奥のほうに、俺の彼女は立っていた。
「よう」
「うん。こんにちは」
彼女は、そこから動かない。
だから、俺のほうから歩み寄るんだ。
「ごめんな」
言葉――気持ちでも、先に歩み寄ってきてくれたのは、彼女だった。
俺は、それを無視してきたんだ。
今度はこっちの番。
その結果として、彼女が離れていってしまったとしても仕方ない。俺が遅かったのだから。
「どうして、かな?」
彼女が口を開く。
「いつの間にか、変わっちゃった」
何が? とは聞かない。
そのかわりに、俺達は互いに一歩を踏み出した。
俺の目の前に、彼女がいる。
彼女の目の前に、俺がいる。
「話し合わないか?」
「納得のいくまで?」
「もちろん」
二人して笑ったのは何時以来か。
さて、何から話そうか。




