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変化  作者: かさのきず
4/5

第二話 「彼と弟」

 玄関に行くと、ちょうど弟が靴を履いているところだった。

「あれ? 兄貴も出かけるの?」

「……まあ、ちょっとな」

 うちの玄関は狭い。二人並んで靴を履くスペースなんてないから、自然と弟が靴を履き終えるまで俺は少しの間待つ。

「ほら、兄貴。空いたよ」

「おう」

 俺が靴を履いている間、弟は外にも出ずにドアにもたれかかったままで俺を見ていた。

「なんだよ」

「いや、途中まで一緒に行こうかな、とか考えてたり」

 まあ、別におかしな話じゃない。俺と弟は周りの兄弟に比べても仲のいいほうだと思う。

 実際は、兄弟としてというより、友達としてのほうが感覚的にはしっくりくるんだけど。でも、昔からそんな風に接してきたおかげで、俺とこの弟との仲は俺が大学に入って、あまり喋らなくなった今も続いているんだと思う。

「それじゃ行くか」

 立ち上がった俺は弟に言った。



 外に出ると、俺はまず先に空を見上げた。

 憎たらしいほどの青い空。快晴だ、雲一つない。

絶好の振られ日和ってやつか? これは……。

 自嘲気味に考えてると、弟が自転車のベルを鳴らした。

 チリン。チリン。

「早くしてよ」

「悪い。ちょっと待ってくれ」

 家の前に置いてある、高校時代から使っている自転車。

 色はだいぶ剥げてしまってはいるが、今だ薄く残るオレンジ色の塗料で目立つ自転車だ。

 もう高校生にもなっていたというのに、どうせならかっこいいのがいいと、馬鹿なことを思って買ったことは、いまだに後悔している。

「駅の方面でいいよな?」

「うん。僕もそっちに用事があるから」

 用事って一体何だろうと思いながらも、俺はペダルを力を込めて踏む。

 いつ切れてもおかしくないほどに錆び付いてしまったチェーンが、それに抗議をあげながらもタイヤを回す。

「いい加減、その自転車修理しなよ」

「一万五千円。お前が出してくれるならな」

 たしか、チェーンで二千円。その他に、両方のタイヤが歪んでいるから、その交換で一万二千円。さらにはペダルの軸で千円ほどかかるなだ。

 これじゃあ、

「買い換えたほうが早いよね……」

「だろ?」

 だから俺は、こいつを寿命が切れるまで乗り潰すことに決めたんだ。


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