2/5
プロローグ side 彼
◆2
「もしもし」
電話の向こうの彼女の声。
瞬間的に俺は電話を切ってしまいたい衝動に駆られる。
でも、じっとこらえ、ただ黙った。
「えっと、聞こえてる?」
「……ああ」
本当は返事なんてしたくない。返事さえしなければこれから彼女
の言う話を聞かなかったことにできたんじゃないかってありえない
ことまで、僕は考えてしまっていた。
そして、彼女は言う。
「あのさ、今外に出れる」
胸にナイフ。いや、これは槍だな。槍が刺さったようだった。
「無理」
俺には、無理だよ。待っているのが別れ話と知りながら、わざわ
ざ君に会いに行くなんて。
しばらくの沈黙を俺たちの携帯電話はつないでいた。
その沈黙の中で、ようやく僕は気づく。
「……わかったよ。どこ行けばいいんだ?」
これは僕の責任だ。責任は果たさなければならない。
「駅の近くのマンションの脇。そこの公園で待ってる」
そしてできるなら、彼女にさようならと言わせたくない。
「じゃあね。また」
会って、話して、そして、またと言えるように。
僕は歩きだした。




