惚れ直したよ
引っ越しの片付けは大方済んだ。
同棲して三年、お世話になった部屋はがらんとしていた。
新生活に向けて嬉しいと思う反面、名残り惜しい部屋を眺める。
夕暮れに照らされるベランダは何もない。
わたしと彼は隣同士に座る。
桜並木の紅葉が一段と色づいた。
ベランダから景色を眺めながら彼はビール、わたしは酎ハイで乾杯する。
デリバリーのピザを取り分けてくれた。
「惚れ直したよ……」
何気ないことなのかもしれないが、彼がわたしに気遣ってくれるなんて出会った頃には考えられない。
「何?聞こえない」
きょとんとした顔でわたしの顔を見る。
「惚れ直したよ」
ピザを取り分けるなんて、今までの彼からは想像出来ない。
付き合った当初なんて我先に食べてわたしの分がなくなってよく喧嘩したのに。
「何だって?」
彼は訝しむように眉根を寄せる。
「惚れ直したよ!?」
人間、変われば変わるものなんだな。
しみじみと今まで付き合ってきた日々を思い出す。
今まで彼女いない歴イコール自分年齢の彼は、色々と不器用だった。
「何…………!?」
彼はカッと赤面した。
「惚れ直したよ!」
しかし、わたしはどうしてこんな彼がよかったのか。
もっとイケメンだったり、秀才だったり、面白い男友達はいたのに。
「ごめん、聞こえなかった」
「惚れ直したよ!!」
「…………もう一回言ってくれる?」
いい加減聞こえてるよね!?
何回言わせるのさ。
絶対……聞こえてるでしょう。
何この五段活用。
思わず溜め息がでる。
もう一生言ってやらない。
まぁ、彼が一番いいと思えた理由は自分を大切にしてくれている所だからかな。
明日から新居で新婚生活が始まるのだ。
喧嘩せず、温かい目で旦那様をみなくては。
「また夜にね」
彼は照れくさそうに頭をポリポリかくのだった。