9話 水替え
悪い奴じゃないって言ったけど、あれは嘘。
ううんうん、私の勘違いだったみたい。
「ああ、そうだ。いらない人員は全部切れ。……駄目だ。だから売却されたんだろう、そうだ……当たり前だろう……」
あおきはよく電話したり、相談に来る人が居るんだけれど、だいたいしょんぼりして帰って行く。怒鳴ったりして所は見たこと無いけど、凄く冷たいって事は、見ていて解る。
お金を稼がなくっちゃいけないのは解るんだけど、それでも何か強引にしてるみたいなんだよね。
「駄目な所を無くすのではなく、使えるところだけ残せ……わかったな……」
いや、私に人間の会社の事なんて、しかも漏れ聞こえるだけの事なんて解りようもないんだけどね!
電話が終わってため息を吐くと、あおきはこっちにやって来る。
それから、じーーーと私を眺めるのだ。
「……」
「……な、なに?」
「鑑賞している、ネックレスよさそうだな」
「……そ、そう」
なに、なんなの、恥ずかしい。
私が観賞用って言ったからかしょっちゅう見つめてくる、無駄に触ろうとはしてこない。けど、こんな小さい水槽で穴が開くほど眺められるのも、ストレスなんだけど。
「……そろそろ水が、濁ってきたか?」
「は? まだ平気だし、フィルターも付いてるじゃん」
「いや、変えた方がいいな、よし!」
いや、よしじゃないが?
ただ私に構いたいだけでしょ、やーめーてー。
……小さい盥に移された。
あおき? 水槽の水抜いて磨いてるよ。
「……あおき仕事はいいの?」
「今は連絡待ちの待機中」
「ふーん」
暇じゃ無さそうなのに、まめすぎる。
確かにちょっとヌメヌメしては来てたけど、気になる程じゃ無かったのに。滅茶苦茶丁寧に擦って掃除すると、取っていた水を半分戻して新しい水を入れた。
温度もしっかり調整してくれたから、冷たいって事もなさそう。
「どうした?」
私が尾びれをベチベチ打ち付けていると、何か不快なことでもあるかと聞かれてしまう。
「別に何も無いけど」
また抱き上げられて、水槽に戻される。
「なんでそんな、触りたがるのよ。濡れるしベタベタするでしょ」
セクハラだし、とは言わないけど。
「……ごめん」
なによ……いやに素直に謝るじゃない。
「真珠がちゃっんとここに居る実感が、まだ湧かなくて」
「?」
「夢が叶った実感だ」
「ふうん?」
どうもあおきは小さい頃から、大金持ちになって大きな水槽で、人魚を飼うのが夢だったらしい。
まあ~大層な夢ですこと、へっ。
大きな水槽の方は、今作らせてるんだって、人魚が売りに出されるのもそうないからね。先に買ったんだって。まあ何時でも売ってるような、レア度じゃ無いのよ。
「逃せないと思ったからな」
ぎゅってするな、体温が熱い。