6話 ご飯
その後、あおきが朝ご飯だと持って来たのは、凍った魚の切り身だった。
いや、いいのよいろんな種類あるし、量もいっぱい。だけどね。
「凍ってて食べられない!」
「え、そうなのか」
「冷たいぐらいならいいけど、これは氷」
いや、歯が立たない訳じゃないけど、美味しくないじゃない。
切り身同士をぶつけて、コンコンと音を鳴らすと、確かにと納得してくれたようだ。そして納得した上で、氷を溶かすためにと、電気ケトルで湧かしたお湯を持って来た。
「これで溶かせば良いか?」
「ちょっとちょっと、待って!」
それを切り身が入ったタッパーに注ぐんじゃない!
「旨味が流れちゃうでしょー」
「駄目なのか?」
こ、こいつ私の世話が出来ないって言うか、生活能力がないタイプの男だ。
今日はまだハウスキーパーが来てないんだそうだ、そう言えばお腹が空きすぎて、早く起きすぎたんだ。
ここから数時間待つのは、苦痛だよぉ……。
「だめ。せめて流水で解凍して、はっ直接水につけるんじゃないからね!」
「流水で直接では無く……ちょっと待て調べる」
この部屋は所謂書斎って奴らしく、大きな仕事机がこっちに向いて設置されている。仕事しながら、熱帯魚眺める感じで、私を置いてるんだ。
あおきはその机の上のパソコンに電源入れて、調べる事にしたみたい。
最初からそうして。
「魚の解凍……流水でも結構時間掛かるぞ」
「ええー」
そんなに掛かるの、お腹が空いて待てない。
「今まで私の世話をしてくれてた人たちは、私がお腹空く時間に合せて、解凍しといてくれてたのか」
あの適当そうなペット屋でさえ、マグロが凍ってたなんて事無かったからね。
適当に見えて、押さえるところは押さえててのか~。
待つか、諦めて氷囓るか、なんかお腹空きすぎて、具合悪くなってきた。
「……電子レンジでも出来るらしい、そっちだと4から5分だ」
「本当に出来るの?」
ネットに書いてある事を疑っているんじゃないよ。あおきに出来るかどうか、疑ってるんだ。
「俺にも電子レンジくらいは使える」
そう言うとあおきは凍った切り身を乗せたトレーを持って行く。
確かに電気ケトルは使えてたけど、怪しいなぁ……。
「そのトレーごと電子レンジに入れたら駄目だからね」
「流石にそれは解ってる」
本当かなぁ。
……あーっと、口の中の指輪を水槽の端っこの砂の中に隠しておこうっと。
暫く戻ってこなくて、最悪味の抜けた切り身か、氷を食べる覚悟を決めて待っていると、暫くしてあおきが戻ってきた。
「やってみたが、どうだろうか?」
失敗するかもしれないからと、三分の一だけやってみたようだけど……。
「ちょっと、むらっぽい」
生温いところと、ジャリッと半分凍っている所とあるね。
「まあ、食べられなくはない、かな」
「そうか、良かった」
あおきは嬉しそうに言うと、残りも解凍してくると調理場に戻っていった。
残りも三分の一づつレンジに入れたみたいだけど、だんだん上手くなってた。やれば出来るタイプなのかな?
実業家だし、いやそれは関係ないか?
取りあえず食事は、何とかなった。
いや、そもそもハウスキーパーが来るから問題ないんだけどね。でも何故かその後、魚を解凍するのが楽しかったのか、私の食事の用意はあおきがするようになった。
忙しいんじゃないの?
って思うんだけど、仕事で出掛けていても、お昼に態々帰って来てやっていくので、かなり填まっているみたいだ。