5話 自己紹介からやり直そう
意気込んでいたんだけれど、長距離移動とか諸々の疲れで、あいつが戻って来るまでに眠ってしまったみたい。気が付くと水槽の底の砂に埋もれてた。
「んん~」
伸びをして目を開くと、水槽のガラスにあいつが張り付いて見ていて、ビックリする。
うわぁ!
「な、なに!?」
「見ていた、観賞用なんだろう」
「……」
そうだけど、そうじゃなくない……?
もっと確り砂被っとくんだった。次からは口と鼻だけ出して寝ようかな。
「その、昨日はすまなかった。やっとその……少し浮かれすぎていた」
「そう……」
ふ、ふーんちゃんと謝るんだ。そこはみくびり過ぎていたかもしれないわね。そんなに直ぐ許す訳でも、気安くする訳でもないけどさ。
「あんたなんて名前なの?」
「俺は……三木本碧輝だ」
「私は」
「真珠だろう?」
知ってたのか、あ、競売の時のデータで見たのかな?
確かに私が届くのを、浮かれるくらい楽しみにはしてたのかな。
「うん、そうだけど」
「真珠と呼んでいいか? 俺の事もご主人様とかではなくて、碧輝と呼んでくれていい」
「あーいいけど」
「そうか、有り難う」
おお、イケメンスマイル、何時もそうしていれば感じもいいのに。
あおき、あおき、あおきね。うん覚えた、あお……くん?
何か、口にも馴染むし、いいんじゃない。
「お礼を言われる事じゃないよ、私としてもなんかまだ、ご主人様って言うと……前のご主人様を思い出しちゃうし」
初めて会った時からお爺ちゃんだったから、常々覚悟はしてたんだけどね。
相手が何歳だって、何時も一緒にいた人がいなくなると寂しい。人間は結局幻獣ほど長生きしないんだ。強くていっぱいいて、この世を支配しているみたいに何でも出来るのに。
「その前のご主人とは……真珠は観賞用なんだよな?」
「だからそうだって、お触りは禁止だよ」
なに? 急にまた機嫌が悪くなったな、もしかして前のご主人様に嫉妬してんのかな?
あーあ呆れちゃうわね。
でも嫉妬しているなら……
「前のご主人様は、そこのところちゃんと配慮してくれたよ?」
「……そうか」
何とも言えない表情してる、でもこうやって煽っておけば、変な事しようとはしない……かな?
是非対抗意識燃やして、お爺ちゃんご主人以上に紳士的に私を飼って欲しいな。
ペットに求めるのなんて、側に置きたいエゴ以上は駄目だからね。
私が果たすのはそれだけだよ、後は私に貢いで常に綺麗な水槽と、新鮮な魚介類を持ってくること!
ぐうぅぅ……。
う、ご飯の事考えたら、お腹が鳴っちゃた。
「お腹が空いたのか、昨日起きなかったから、夕飯食べてないしな」
そう、そうだった、夕ご飯食べてないからね。朝ご飯もまだだし、お腹の一つくらい鳴るわよね。
「そうね、お腹空いたかも」
もう、恥ずかしい~私のお腹めぇ~。