4話 観賞用だから
じゃあねっとペット屋が手を振って、出て行った。
これでお別れだけど、軽いもんだね~。ま、売り物に一々感情移入もしていないか、これで三千万とかぼろい商売なのかもね。
「お前を……買ったぞ?」
「うん、そうだね。今日から貴方が私のご主人様だよ」
確認する事もないと思うけど。
ん? もしかして私の態度が悪いから、立場を弁えろ的な事言われてる?
カッと目を見開いたと思うと、何故か其奴はメンテナンス用の梯子を急いで登ってくる。なに、なになに!?
本格的に怒ったの?
「ちょ、何するの! 触らないでっ!」
信じられない、掴み掛かってきやがった!
「離して、離して! 嫌!!」
私が暴れると、水槽から水が大量に溢れる。もー噛みついてやろうかしら!
すると流石に拙いと思ったのか、びしょ濡れになって頭が冷えたのか、手が離れる。私は急いで水槽の反対側に移動した。
「あんた、どういうつもりだ変態!」
「へんっ」
「買ったからって、何してもいいと思ってるの!? あんたみたいな成り上がりは、私みたいなのは初めてかもしれないけど、私は観賞用だから!」
「観賞用……」
「そうよ、必要ない時に触るな!」
大人しく飼われてるけどね、人魚だって本当は人一人ぐらい噛み殺す事も、溺れさせる事も、出来るんだからね。
それをすると、暮らす環境が悪くなるからしないだけ。
最悪処分されちゃうだろうし、私だってばかじゃない。気分良くご機嫌に世話されて暮らしたいもの。
「ふーー!」
「そうか……」
新しいご主人様は、それだけ言って、ムッとしてそっぽを向いた。
それって、困った時の癖なのかしらね。実業家とか偉ぶってて、ガキっぽーい。
私もそっぽ向いてやろ。
「ふんっだ!」
それから、少し気まずそうに黙っていたけれど、暫くすると服を着替えると言って、新しいご主人様は部屋を出て行った。
「はぁ~こんなんで大丈夫なんだろうか、私の新生活は……」
あー若い男だって聞いて、嫌な予感はしてたのよ。
好きでもない奴に、そういう対象にされても困るのよね。だいたい幻獣だよ私、人魚。
買っていきなりそういう事しようとするとか、どうなってんでしょうね!
ペットにだって愛護法があるんだから!
闇取引されてる幻獣には適用されてないって? 知るかー!
私にだって選ぶ権利ぐらいあるんだから、いや、厳密には無いのかもしれないけれど、私には指輪をくれたこが居るんだもの。
次に襲って来たら、尊厳を掛けて噛み殺してやる。