2話 幻獣ペット屋と競売
中が見えないように小さな水槽は梱包され、トラックに乗せられて私は移動していく。
外の世界は知らないけれど、お爺ちゃんご主人と一日中ドラマ見てた勢を舐めるなよ。うん、何処に運ばれているかはさっぱりだ。
1時間、2時間くらい走ってたかな?
凄い山奥とかに運ばれるのかと思っていたのだけれど、アパートとかビルとかに囲まれているのが見えた。
「ほら、隙間から覗かないよ」
「んー」
一般人に見付かると大変だもんね、ちゃんと解ってるよ。でも気になるじゃない。
お店の中に運ばれて、目隠しのシートを外される。そこは、元は狭くないのかも知れないけれど、大量に置かれたケージや水槽に圧迫された場所だった。
「うわ、私居るところあるのこれ?」
「ああ、大丈夫大丈夫、君は直ぐに買い手が見付かるから」
胡散臭い長髪のペット屋はそう言った。
幻獣ペット縁結びとか店名も嘘くさいし、本当に大丈夫なのかな?
「取りあえずお風呂にいて貰える」
「はぁ! 嘘でしょう!?」
本当だった。本当にお風呂の浴槽で過ごすことになった。
食事はお爺ちゃんご主人のところと変らず、新鮮な海鮮だったのは良かったけれどね。住処がこうだからゴミみたいなもの食べさせられるかと、疑ったのは私悪くないと思う。
私全長そんなに長くないし、全体が浴槽に沈みはするけど、泳げないのよ。流石にちょっとストレスだわ。まともじゃないんじゃん、このペット屋。
何を考えて生前のお爺ちゃんご主人は、ここを指名していたんだろう。
騙されたのだろうか?
尾鰭を外に出して、浴槽の底からお風呂場の狭い天井を見上げる。
口から泡を輪っかにして出していると、あの胡散臭いペット屋が覗き込んできた。
「ご飯ですよ?」
頭をずり上げ、尾鰭を下げる。
「尾鰭乾燥しないんですか?」
「ここ、湿気ぽいからね、それよりあんたはお風呂入らないの?」
「近くに銭湯があるんですよ」
「へぇ~銭湯」
知ってる、富士山が描いてある、でっかいお風呂のお店だよね。
女医が活躍するドラマで見たことある。全部テレビでしか知らないけれど。あーここはテレビが見られないのもストレスなんだよね。
頼めば居間のをつけてくれるけど、音しか聞こえない。
「ゆっくり食べなよ」
お風呂の蓋を湯船に一つ乗せて机にすると切り身の乗ったトレーをそこに置いて、ペット屋はお風呂場から出て行った。
食べている姿をまじまじ観察しないくらいの、デリカシーはあるらしい。
「ごはんごはん」
こんな状態だから、ご飯しか楽しみがないもの。マグロ、ホタテ、イカタコ、サーモンいえーい!
っと、いけない。
彼奴が戻ってこない事を確認して、口の中に仕舞っておいたモノを取り出す。
大事なもの、小さい頃の貰った指輪。
真珠の指輪とか言ってたけれど、プラスチックにそれっぽいオーロラ光沢が出るコーティングがされている子供の玩具。
もう小さくて指には入らないし、そのコーティングさえ剥げてきてるけど、捨てられたくないから、隠してる。
お爺ちゃんご主人は捨てたりしなかったけど、ここはいまいち信用できないから……。
お風呂の蓋の上に、隠すように置いてから、ご飯を食べてる。
「ううーん、美味しい~」
プリップリの貝柱を味わっていると、外からペット屋の騒ぐ声が聞こえた。
「おお、やったー!!」
そしてそれが、ドタバタと近付いてくる。
やっばい! 私は急いで残りを口の中に突っ込むと、指輪を掴んで湯船の下に下ろした。
「見て下さい、やっと競売の審査が下りて、売りに出されましたよ!」
ガラッとお風呂場の引き戸を開けて、見せてきたのはノートパソコンの画面だ。
なんか裏のネットの、競売サイトらしい。
私の写真と説明文が載せてある、そして見る間に金額が上がっていっているのが解る。もう一千万超えたよ、というか。
「こんな金額なのに、私の扱い悪くない?」
「いや、だから直ぐにお金持ちに買って貰えて、良い環境にいけますから、今だけ今だけ」
「こいつ……」