16話 エピローグいつか海へ
「ほれほれ、はやくはやく」
「……大丈夫なのか?」
それから少し経って、待望の水槽が完成した。
あの殺人未遂犯は、あおきが買収した会社の前の持ち主だったらしい。能力も勉強する気力も無いのに、親から引き継いだ事業を駄目にして、立ち行かなくさせて売りに出した。
それでいて、あおきが直ぐに業績を回復させたのを逆恨みしたんだって。買収するためになんか手を回したんだろうって、思い込みらしい。
「私が居るんだから、溺れさせないって」
「そうじゃなくて、傷が」
「へいきへいき~もう表面は塞がってるから、マジであの胡散臭いペット屋の薬効いたよね」
下の階で大規模な工事を急がしていたから、その隙に乗じて忍び込んたのだろうだってさ。
ふてぇ野郎だよ。
でも捕まって、何年も出てくることはないって、後警備も見直したそうよ。
そうよ、お金持ちなんだから、しっかり守らなきゃ。
「……うっ」
「本当に泳げないんだ、ふふ……」
水着姿で怯えてるあおきは、小さい時と変わらない。
私は腕を絡めて、水中に引きずり込んだ。目をぎゅっと瞑って可愛い。あおきを沈めながら、唇を合せて息を吹き込む。
すると眼を開けて、抱き返してくる。
「観賞用なんじゃなかったのか」
「あおきはいいーの」
本気で泳げないんだね。息が出来るのに、沈んでくなぁあおき。
面白い、ちょっと慌ててる。
「へ、変な感じだ水の中なのに」
「ふふ……」
「どうかしたのか」
「私の鱗、範囲広がってる。そのうちあおきは、魚人になっちゃわない……」
ペット屋が言うには、寿命も延びただろうって。
「そうなのか」
「いや、わからないけど」
傷は塞がってる、ならこの鱗は引っぺがした方がいいんじゃないかな、人じゃなくなっちゃう。
人として生き辛くなる。そんなことがしたかった訳じゃないから。
「なら、準備しよう」
「準備?」
「そうだな、いつか南の島を買って、二人で海で暮らすのはどうだろう?」
それまでに、十分な資産を形成して、働かなくても良くするとか言ってる。そんな夢みたいな話し、岩みたいに水槽に沈みながら言っている。
「いいけど、また刺されるわよ」
「それは二度と無いようにする、約束する」
お揃いのネックレスと指輪が漂う。
泳げない王子様を引っ張り上げて、囓り痕だらけの人魚姫の私はまた口付ける。
あおきなら叶えてくれるのかもしれない、二人なら初めての海でも大丈夫。
「あ、でもテレビは見たい」
「大丈夫だ契約する。あと新しいゲームのハードを買ったぞ」
「本当に! あーでももう少し、泳ぐ練習してからね」
「うぐっ……」
行くのでしょう、いつか海に……。




