15話 人魚姫
「……真珠」
それだけ言うと、あおきは目をつぶった。
赤い血と一緒に、彼の命が流れ出てしまう。
「やだ……どう、どうしたら」
……そうだ。
私は、人魚だ。
人を不死にした、伝説もある幻獣なのよ!
不死にしてしまえば、死ぬことはない。
彼への思いは大丈夫だろうか?
全部上げられるだろうか?
ちゃんと出来るのだろうか?
私は水槽産まれ水槽育ち……。
「言ってられるか!」
時間が無い。今にも死んでしまう。あおきが死んでしまう。
自分の尾びれを引き寄せて、噛みつく、痛い。当然だけど滅茶苦茶痛い。
でも肉を食べさせるなら、こうするしかない。
自分の血肉だ、気分も悪い。でも思いっきり食いちぎった。
鱗が硬いな、これはあおき飲み込めるだろうか?
ガリッぐじゅぐじゅう……
口の中で噛んで、柔らかくする。
青白くなっている彼の顔を掴んで、固定する。ああ、初めてのキスが血塗れだよ。
仕様が無いな私の王子様は。
口付けるが、唇も冷たい、意識がないからかあおきの口に入っていかない。
飲み込んで、飲んで……。
「ぐっ……ごほっ……」
お願い……。
私を食べて……。
「あいっててて……」
「おい、真珠が痛がってる」
「当たり前じゃないですか、こんなあちこち齧り取っちゃって」
あの胡散臭い、縁結びのペット屋が、薬のついたガーゼを私の尾鰭に当てて言う。
仕方ないじゃない、なかなか効果が現れなかったんだもん。
なんでも試さなきゃって、腕やら、腿やらお腹は流石に噛めなかったから、自分の爪で抉った。
だんだん私も貧血か何かで弱って、あおきを抱きしめて寝ちゃって。
いつの間にか助かってたみたい。
「ちゃんと治るのか?」
「これでちゃんと幻獣ですから、少し時間はかかると思いますが、綺麗さっぱり治りますよ」
「そうか……よかった」
別に、転売しないんだから、痕くらい残ってもよくない?
「痛~染みるって~」
「それよりも、貴方の方は大丈夫なんですか、三木本様」
あおきは重傷だった。
10カ所以上刺されて、出血多量。普通は助からない怪我だったそうだよ。それでも今ピンピンしているのは。
「真珠のお陰で助かった」
シャツをめくると、私の鱗と同じ色の小さな鱗が、傷口を塞いでいる。
「あおきは、どうなったの? 不死身になったの?」
「まさか、でも普通の人よりは死に難くはなったとは、思いますよ」
「そう、なら良かった」
私の力が弱かったのかと思ったんだけど、完全に不死身にした場合私は死んでいたそうだ。
そうしなければ助けられないならするけど、折角助かっても、一緒に過ごせないならつまらないものね。
上手くいって良かった。




