14話 指輪
「うぐわっ!」
顔から落ちた。わかってたのに、手で受けきれなかった結構痛い。
床に絨毯が無かったら死んでた。
「いてて……私が先に死ぬ訳に行かないじゃない」
ぐいっと上体を起して、尾びれで押して進む。
水の外は、思うように動けない。重力ってやつが邪魔なのよ。
スクリーンを頭で引っ掛けて、捲ってくぐり抜けた。部屋は変わらず暗い、扉は開けっ放しだけど、侵入者は居なかった。
それと、倒れたあおきが見える。
耳を澄ますと、苦しそうな呼吸が聞こえた。良かったまだ生きてる。
早く行きたいのに、もどかしい。
ずりずりと這って近付いた。
「はぁ……はぁ……」
あおき、あおき、どうしよう。
あおきは血溜まりの中に、横たわっていた。ぱっと見だけでも、何カ所も刺されて、血が噴き出しているんだよ。
「ひどい……」
どうしよう、どうしよう……ドラマでは、女医は、えっとこういう時は、し、止血。
そうだ、止血だよ。血を止めなきゃ。
「なんで……でてきた……」
私が身体に触ると、苦しそうに掠れる声で、あおきが言った。
苦しいんでしょう、喋らない方がいいのよ。
ああ、でも手で押さえても血が止まりそうにない。それにやっぱり箇所が多すぎる。
何か、そうだ映画とかでは、服を裂いて縛って止血してた。
私は、爪と牙で容赦なくあおきのシャツを切り裂く、裂いて引っ張って、胸や腹の傷を覆うように巻き付ける。
「どうしよう、これでも全然止まらない」
「……大丈夫だ、心配ない」
ゼイゼイ言いながら、何を言っているんだこいつ。
これが、これが心配しないでいられるかってんのよ!
助けって来ないの、警備とかって居ないの?
「俺は夢を……叶えた……から……」
「なに言ってんのよ、まだでっかい水槽出来てないでしょうが!」
顔を覗き込み、声を掛ける。きっと意識を失わせたら、駄目だと思って。
「あそこで一緒に泳ぐのよ」
「おれ……泳げないんだ……すま……」
「大丈夫よ、人魚の息を吸えば、水中で呼吸出来るようになるんだから!」
泳げないヤツでも、溺れない。
そのくらいの魔法なら、使ってあげられる。
「そ……たのしそうだ……」
「でしょう!」
覆い被さる私から、ポタポタと水の雫が落ちて行く。
その先に視線を落すと、キラキラ光るものが見えた。ああ、ネックレスお揃いだったの……。
でも、その先に同じ指輪が吊されているのを見て、ビックリする。
同じだ、でもすり切れ方が違う。
だけど、これもずっと大事にされていたのがわかる。
「なんで、これ?」
頭の中に木霊する「人魚姫」って声と、黒髪の可愛い少年。
「いつか……俺が……って言っただろ」
「ばか、ばかばかばかばか! なんで言わないのよ!!」
え、なになんで……あおきがあの子だったの?
え、なのに死ぬのあおき。
「嘘でしょ! いやだいやだよぉ……」




