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レナート父、嫌い

 夕方、寮監から「来客ですよ」と呼び出された。

 誰だろう、来客って。レナートの学外の知り合いを相手に、上手く話なんてできるかしら。

 ドキドキしながら来客室へ入ると―――壮年の美形なおじ様が。

 ?!

 こ、この顔には見覚えがある!ま、まさかダンジェロ公爵?!

「突然、すまないな、レナート」

「あ……はい……」

 えーと、えーと、“お父様”って呼びかけたらいいのかな?あ、“父上”かな。ど、どうしよう……。

「お前の様子が少しおかしいという話を聞いてな」

「……僕は別に普通ですけど」

「授業で解答をきちんと答えられない、下位貴族や平民にも笑顔を振りまいている、さらに今日の剣術の授業では自ら成績不良組へ移動したとか」

 ふおおお、わたしがレナートになってたった3日目なのに、全部把握されてるぅ。怖っ、レナート父の息子愛、怖っ!!

「お前は我が公爵家の大事な跡継ぎだ。下々の人間に安易に愛想など振りまくな。成績も落とすな。常に頂点に立ち続けろ。良いか、我々は選ばれた人間なんだ。決して、己の価値を落としてはいけない。分かっているな?」

 …………は?

 言われた言葉は聞き取れるんだけど、意味が分からない。いや、意味は分かる。分かるけどさぁ……はあ?!何言ってんの、この人って感じ。

 公爵家の人間だからって、ちょっと、自分たちのこと特別視しすぎじゃない?

 おんなじ人間なのにさぁ。

 なんだか、ムカムカしてきた。

 生まれたときから何もかも出来て、完璧な人間なんていないよ。少しずつ時間をかけて、いろんなことを学んで練習して、成長していくんだよ。そのための努力を、レナートはずっとやっている。それ、ちゃんと知ってるの?!

 レナートが周りに弱音を吐けないのは、この人のこういう思考のせいだ。友達があまりいない風なのも、もしかして?

 バカバカしい。

「笑っただけで落ちるような価値なんて、たいしたことないでしょう。ちゃんと僕は僕自身の価値を理解しています。その使い方を、あなたにあれこれ言われたくない」

「っ?!な、なにを言い出すんだ、レナート!」

「僕がおかしいのではなく、あなたの感覚がおかしいって話です。心配するところがずれていますよ。……じゃ、もう夕飯の時間なので失礼します」

 遅くなると、牛肉メニューが品切れになっちゃうんだよね。

 酸欠の魚みたいに口をパクパクさせてる公爵閣下を置いて、わたしはさっさと来客室を出た。


 翌日は、半日野外実習だ。

 学校の裏手に広がる魔法樹の森で、班別に魔法薬の調合に使う草や実などを採取する。

 レナートはいつもディエゴと、パオロという伯爵令息とよく組んでいた。今日もその顔ぶれになるかな?と思っていたら……レアンドロとジョナから「一緒に組みませんか」と声を掛けられた。

「うん、いいよ!」

 わたしが喜んで承諾したら、ジョナは本当に嬉しそうに笑う。

「ダンジェロ様とこうしてお話できるなんて、夢みたいです」

「そんな、同じクラスの人間じゃないか」

「そうですけど……ボクなんかとは次元が違う世界におられるというか……」

 ああ~、それはレナート父の洗脳教育の成果ね。

「そんなワケないよ。僕にだって苦手なことはあるし、失敗だってする。勉強や練習もいっぱいしなくちゃいけないしさ。君と同じ人間だよ」

「ふふ、たくさん努力できるダンジェロ様を尊敬します」

 うんうん、それはわたしも、そう思う!

 影で努力するって、根性いるよね。

 ―――さて今日は、回復薬に使うキュアラ草と、腹痛のときに飲む薬ストムの原料ストークという花を探す課題が出た。

 レアンドロとジョナの三人で、雑談をしながら森を歩く。

 剣術授業のあるある話は、わたしには耳新しいので、ついついたくさん笑ってしまう。レアンドロから

「ダンジェロ様ってそんなに笑うんですね!」

とかなり驚かれてしまった。

 あちゃあ。

 ちょっと笑い過ぎたかしらん。でも、話が面白いんだもの~。

 私―――マルティナにだって、最初はそれなりに友達もいた。だけど、同じクラスに妹のミアがいるせいで、全部、距離を置かれるようになっちゃったんだよね。おかげで、このところずっと“ぼっち生活”。会話に飢えているのよぅ。仲がいいのは薬草師のダンじいちゃんくらいって、やっぱり悲しすぎるってば。

 そんなことを思っていたら、女子二人組とかち合った。

 エスタとイレーネ。

 わたしの以前のお友達だ。今は挨拶すらしない。だけどたぶん……二人ともわたしを無視するのは心苦しく思っているんじゃないかな?だっていつも、申し訳なさそうだもん。きっとミアが裏でいろいろと脅しているんだろうなぁ……。

「あ!ダンジェロ様」

 エスタがこちらに気付いて、頬を赤く染めてオロオロする。

 そういえばエスタは、レナートのことが好きだった気がする。

 はっ!ここでこの二人に会ったのは、運が良いかも。

「やあ、ストークの花は見つけた?あの茂みにたくさん咲いていたから、行ってくるといいよ」

「まあ、ありがとうございます」

「そういえば……カルーソ子爵令嬢、えっと、マルティナ嬢だったっけ?彼女、休んでいるけれど、病気なの?」

「え?!」

 この二人から“わたし”のことを聞き出せるかも知れないと聞いてみたけれど。

 ものすごく驚かれてしまった。やっぱり、レナートがわたしのことを聞くっておかしいかしらん。

 でも、ジョナが横で「うんうん、もう三日くらいだっけ?大丈夫なの?」と合いの手を入れてくれた。よ、良かった。ジョナもそう言ってくれたら、そんなに変に思われないよね……?

 それにしても、ジョナがわたしのことを気にしてくれてるって、ちょっとうれしいかも。クラスの誰もがわたしのことを忘れていたら悲しいなと思ってたんだ。

 エスタとイレーネは顔を見合わせ、しばらく小さな声でやり取りしていたけれど……イレーネがこちらを向いて、眉を下げた。

「実は……マルティナ、ずっと意識不明らしいんです。倒れて頭を打ったとかで。今、医務室の特別室にいて、一度、お見舞いへ行ったんですけれど……養護の先生いわく、体と魂をつなぐ線が細くなってて危ないって……」

 えええっ。わたし、危ないの?!

 ど、どうしよう。早く戻るべきなのかしら。ただ、元の体にいるより魂はめっちゃ元気なんだよね(美味しいものをいっぱい食べてるし)。それでもダメなのかな。

 あと、やっぱりレナートはわたしの体に入ってるわけじゃないようだ。じゃあ、レナートの魂はどこへ行ったんだろう。お亡くなりになったのかなぁ。

 ということは。

 このまま、わたしはレナートとして生きるしかないのか、それともわたしの体が死んだら魂のわたしも死んじゃうのか。わたしが死ねば、レナートも完全に死んじゃうのか……?謎がいっぱいだ。

 ……養護のアンナ先生にちゃんと話をして、きちんと診てもらった方がいいかも。

明日以降、更新は17時頃になります。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 厳しい状態ですね。 結局入れ替わりではなくただ一方的に憑依ってことでしょうか?
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