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目覚めれば、レナート

 わたし、マルティナ・カルーソ(女/9才)は、ある日、目覚めたらレナート・ダンジェロ公爵令息(男/9才)になっていた。

 ……ん?んんんっ?

 一体、どうしてだろ?!意味が分からない。


 見慣れない広い部屋、寝心地のいいふかふかベッド。

 目覚めてすぐに部屋をウロウロして、どうやらここはネル・ミリオーレ学園男子寮のレナートの部屋だとわかった。机の上のレポートにはレナートの名前が書かれているし、鏡をのぞきこめば、レナートの愛らしい整った顔がこちらを見返したからだ。

 おかしい。

 わたしは、妹に階段から突き落とされて気を失った気がするんだけど。

 そのときに頭をひどく打って、今、変な夢でも見ているのかな?別に“レナートになりたい”と憧れたことは一度もないはずなのになー。

 鏡の中のレナートを見ながら、頬をつねってみる。鏡のレナートも頬をつねる。

 痛い。

 うん、わたしがレナートになってるのは間違いないらしい。

 まいったね、これ。どうしたらいいんだろう?

 悩んでいたら、部屋の扉が開いて侍従っぽい青年がハッと立ち尽くした。

「レナート様!良かった、目覚められたのですね……!」

「えっと……」

 青年が駆け寄り、わたしの(レナートの)両手をがしっと握る。

「何故……何故、自殺しようとなさったんですか。それほどお悩みのことがあるのなら、このジルドに一言でもご相談くだされば良かったのに……!」

 ほえっ?!

 自殺?!

 レナートは自殺したの?

 ……こんなに、いろいろと恵まれた環境にいるのに?

「どうして自殺なんて……?」

「いや、だからそれは自分が聞きたいです。今朝はいつも通りでしたのに。……あれ?レナート様、まだ混乱されていますか?」

「あー……うん」

「そ、そうですよね。目覚めたばかりですもんね。あ!お身体の具合は大丈夫ですか。ひとまずベッドへ戻ってください。もう一度、医師を呼んできます。地面に激突する前にぎりぎりお助けできたので、大丈夫とは思うのですが、念のため」

 侍従は早口で説明し、わたしをベッドに押し込んだ。

 現状を把握するためにいろいろ聞きたいけど……聞くヒマがない!地面に激突とか、すっごく不穏な単語が聞こえたよ?どういうこと?

 ますます混乱するわたしを置いて、侍従は外へ飛び出して行った。


 レナート・ダンジェロはわたしと同じクラスの男子だ。だけど、わたしとはほぼ、関わりが無い。

 向こうは眉目秀麗、成績優秀、身分も高い公爵令息。

 こっちはごく平凡な容姿に成績中程度、貧乏な地方の子爵の娘だ。接点なんか、あるはずがない。というか、絡んだら確実に取り巻き女子に呪われイジメられる。なるべく距離を置きたい相手だ。

 大体、彼の顔も気に食わないんだよね。

 少しくせっ毛の蜂蜜色の髪、明るい若草色の瞳。抜けるように白い肌、華奢な手足。そこら辺の女子顔負けの可愛さをしているのだ。横に並んだら、劣等感で落ちこんでしまう。

 でもまあ……ふにふにと柔らかい頬っぺたを触りながら、わたしは考えた。

 せっかくレナートになれたのなら、レナート生活は味わってみたいかなぁ。

 だって貧乏子爵のわたしでは、食べたことのない物を食べられそうだもん。わたし、高位者が利用する食堂は入ったことがないんだよね~。

 あと、人生で一度くらいはチヤホヤされてみたい。家族からも冷遇されている身には、想像もつかない世界だ。

 あ。

 その前に自分の身体がどうなったかは、確認しておかないと。

 もしかして、レナートと入れ替わってるのかしら?わたしの身体にレナートが入っちゃったんなら、申し訳ないなぁ。今頃、階段から落ちてあちこち痛いだろうし、ここ数日、ろくに食べれてないから空腹もひどいと思うんだ。

 それとも……わたしは死んじゃって、死にかけていた(もしくは死んだ)レナートに魂が入ったのかな?

 元に戻る方法はあるのかしら?

 ま、ベッドで考えてたって答えは出ないし。

 とりあえず、レナート生活を味わいつつ、わたしの状態を確認して、今後どうするか考えよう。


 医師の診察を受けつつ、それとなーく現状確認をする。

 レナートは、寮の屋上から飛び降りたらしい。ちなみに寮の屋上は普通は立ち入り禁止で、柵もない。

 侍従のジルドは、日が暮れる頃になってもレナートが寮の自室に戻って来ないので心配になり、学園へ探しに行ったそうだ。その途中、屋上に立っているレナートを見つけた。驚いてそちらへ行きかけたら、急に、ふらりと落ちてきて―――慌てて受け止めたのだとか。

 すごいなぁ、ジルド。

 侍従で間違いないようだけど、かなり鍛え上げられた肉体をしている。きっと、護衛も兼ねているんだろう。レナートがひょろっとしているとはいえ、上から落ちてきた人間を無事に受け止められるなんて、優秀だ。

 さて、医師の診察の結果、身体に特に問題はなかった(いや、中身は大いに問題アリなんだけどね)。

 ジルドはホッとしたように何度も頭を下げて医師を見送った。

 レナートが飛び降り自殺した件は、運が良かったのか、周囲には気付かれていなかったようだ(夕暮れどきだったことと、ちょうど夕食の時間だったことが作用したのかも?)。ということで、ジルドにも医師にも、そのまま隠すようお願いした。というより、自殺しようとしたんじゃない、気分転換に屋上へ出て足を滑らせただけだと力説した。

 ……本当のところは良く分からないけれど。ひとまず、今のところレナートと入れ替わってるわたしは、死ぬつもりないし。

 医師を見送って部屋に戻ってきたジルドは、まだ心配そうな顔をしながらわたしの顔を覗きこんできた。

「お食事は、摂られますか?」

「うん。お腹減った」

「では、こちらにお持ちします」

「え、いいよ。食堂に行く」

「しかし……」

「もう、大丈夫だから。心配かけて、ごめんね」

「レ、レナート様、やはり具合が良くないのでは?!」

 あれ?

 あ、そっか。レナートっていつも態度悪かったっけ。“ごめん”とか、言わなさそう。

「ジルド。うるさいよ。僕は食堂に行きたいから、行く。お前は心配しすぎだ」

「は。申し訳ありません」

 よし、正解だったみたい。

 じゃあ、美味しいご飯を食べに行こう~!


 ウッキウキで寮の食堂へ。

 男子寮は初めてだけど、女子寮と同じような造りをしているから迷わずに食堂まで行けた。もちろん、王族や高位貴族専用の食堂の方だ。

 遅い時間なので、食堂内に人影はまばらだった。

「あ、レナート様。申し訳ありません、お出しできる料理がもう限られているのですが」

「構わないよ。何があるの?」

 わたし、普段はパンか野菜スープしか食べてないから、どんなものでも歓待するわ!

「野菜と仔羊の煮込み、焼き野菜と魚のポワレのどちらかです。牛肉のワイン煮込みやステーキの方は、品切れです」

「ふうん。……どっちも食べたいから、両方お願い」

「えっ。だ、大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。じゃ、よろしく」

 驚いた顔をしている料理人を置いて、窓際の席の方へ行く。

 どうして驚かれたのかな?大丈夫ってどういう意味だろう?

 そんなことを考えているうちに、スープや前菜が運ばれてきた。

 おおお、すごい!こっちの食堂は給仕してくれるって聞いてたけど、本当なんだぁ。わたしが普段利用している一般食堂は、自分で棚に並んでいる料理をトレイに取って運ばなければならない。まあ、パンかスープだけだから、給仕されるとかえって惨めになるだろうけれど。

 さて、上機嫌で夕飯を食べ出したわたしだけど……料理人が「大丈夫ですか?」と聞いてきた意味が半分もいかないうちに分かった。

 ……レナート、めちゃくちゃ食が細い!

 うおお、メイン料理をちょっと食べただけでお腹がいっぱいだよ!もったいないよ、このあとデザートもあるのに!!

 くっ……お腹が痛い。

 いや、でも、こんなに美味しいものを残すなんて出来ない。

 わたしは涙目になりながら、必死で夕食を口に運んだ―――。


 フラフラで部屋に戻る。

 結局、夕食は完食できなかった。料理人さんに申し訳なくって仕方がない。せめて包んで持って帰ると言ったら、ダメだって。あああ、もったいない……。

 部屋に入ると、ジルドがまた心配そうにオロオロした。これ、ただの食べ過ぎだから、問題ないよ?

 そして、ジルドに手伝ってもらって隣の部屋で湯浴みする。

 ううーん、レナートは自室の隣にそういう部屋が付いてるのね。贅沢~。

 ちなみに。

 湯浴みもだけど、湯浴み前にトイレに行きたくなったので。ばっちり、“あれ”、見ちゃいました。

 いやぁ、わたしも一応、貴族の令嬢だしね。どうしようかと悩んだのよ。でも、お漏らしするワケにいかないし。かといって、自分は目を閉じてジルドにやってもらうっていうのもどうかと思うし。

 仕方ないよね?

 それにさ、子供の頃、平民の子供たちが裸で水浴びしているのを何度も見たことあるしね。

 ほほーう、男子ってやっぱり体の作りが女子とは違うのねーと思ったのでした。

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