第7話 暗い酒場に行って、水を注文してやるぜ!! 飲まなきゃやってられないぜ!! そして、急転直下の選択だぜ!! ~この世界、予測不可能だぜ!!~
タツヤとジェシカは、無我夢中で、夜の街中を駆け抜けてゆく!!
しばらく走り続けて、タツヤは、呼吸が乱れ、苦しくなり、走るスピードが、徐々に落ちていく。
さらに、ジェシカに刺された、腹の傷の痛みが再発する。
ジェシカは、『フランシス王国騎士団』で、鍛えられているだけあって、まだ、余力がありそうであった。
「ハァ…ハァ…ハァ…少し、休もう」
タツヤは苦しそうに言った。
「ハァ…ハァ…ハァ…そうね」
ジェシカは承諾した。
タツヤとジェシカは、立ち止まる。
タツヤは、辺りを見回す。
とにかく、暗い…!!
街灯の明りが、うっすらと、灯っている程度で、道が暗くて見えにくい…!!
店も、屋内照明が、僅かに灯っているだけで、中の様子が暗くて見えにくい…!!
家も、蝋燭の火が、僅かに灯っているだけで、暗い…!!
人が、数人、行き交う程度で、昼の賑やかさとは違って、静寂な闇に包まれている…!!
ー中世のヨーロッパだからな。仕方ないか。でも、こんなに暗いとは…!! 昼と夜で、ずいぶんと印象が違うな。
そんなことを思いながら、タツヤは、ゆっくりと、呼吸を整えていく。
ジェシカは、もう、呼吸が整っている。
「ジェシカさん、こんな所で、何やっているんですか?」
五十代の騎士の格好をした中年男が、ジェシカに話し掛けてきた。
「マルコ。あなたこそ、街の門番の仕事をせずに、こんな所で何やっているの?」
ジェシカは言った。
「今日は、休みですよ。『フランシス王国剣士大会』に、出場してたんですよ。ジェシカさん、出場してなかったですよね? 去年、負けた借りを返したかったのに」
マルコは言った。
「いろいろあって、忙しくて。それで、どうだったの?」
ジェシカは言った。
マルコは、嬉しそうに、
「三位でした!! 銅メダルですよ」
と、言った。
「すごいじゃない。強くなったわね」
ジェシカは言った。
「でも、去年、優勝したジェシカさんが、出場してなかったし、今年の優勝候補のクリスティーナも、出場してませんでしたし、嬉しいですけど、複雑ですよ」
マルコは言った。
ージェシカって、そんなに、すごい剣士だったのか…!!
横で、呼吸を整えながら、話を聞いてたタツヤは、尊敬のまなざしで、ジェシカを見た。
「クリスティーナは殺されたわ。『レッドブラッド教団』の手によって」
ジェシカは言った。
「ええっ!? クリスティーナは、やられるわけないと思ってたんだけどなぁー!! こりゃ、ショックだぁー!! 飲むしかねぇ。ジェシカさんもどうです? 一杯ぐらい」
マルコは言った。
「私はー」
ジェシカはタツヤを見る。
「ここまで来れば、大丈夫だと思うし。飲もう」
タツヤは言った。
タツヤは、『異世界ファンタジー』の酒場に、興味津々だった。
それに、喉も、かなり乾いていた。
マルコは、タツヤを見て、
「君は誰だい? 名を聞こう」
と、言った。
「タツヤだ。よろしく」
タツヤは言った。
マルコは、
「マルコだ。よろしく。」
と、言って、握手を求めてきた。
タツヤは、それに応じ、マルコと握手をした。
タツヤとジェシカとマルコは、酒場に入る。
店内は暗く、木のテーブルと椅子のセットが、複数置かれており、屋内照明には、ランプを使っていた。
そのランプが、それぞれのテーブルに置かれている。
タツヤとジェシカは、席に座って、水を注文して、水を飲む。
マルコも、席に座って、ワインを注文して、ワインを飲む。
ー俺、未成年だけど、酒、頼んでいいのかな? ここ、日本じゃないし、中世ヨーロッパだし、いいよな? いや、まずいかな?
タツヤは迷った。
ジェシカは、ワインを注文する。
ーそういえば、ジェシカって何歳だろう? 俺と、そんなに変わらなそうだけど。
「ジェシカって、何歳?」
タツヤは聞いた。
「十九歳」
ジェシカは、ワインを飲みながら、
「タツヤは、酒を注文しないの?」
と、不思議そうに聞く。
「俺は未成年だから、止めとくよ」
タツヤは言った。
ジェシカは驚いて、
「タツヤの国では、未成年だと酒が飲めないの?」
と、聞く。
「そうだ」
タツヤは答えた。
「タツヤは、『フランシス王国』の人間じゃないのか?」
マルコは言った。
「俺は、日本という国から、『異世界召喚』で、来たんですよ」
タツヤは言った。
「へぇー、そうか。そういえば、最近、同じようなことを言ってた女に会ったな。その女も、日本という国から、『異世界召喚』で、来たんだってよ」
マルコは言った。
タツヤは、
「ええっ!?」
と、驚き、
「その女は、今、何処にいるんですか?」
と、マルコに聞く。
「さぁな。ただ、『飛空艇』を探してるとか、言ってたような。あと、『この世界は、もうすぐ滅亡するから、また、日本に戻る』とか、変なこと言ってたな」
マルコは言った。
タツヤは、
「えええっ!?」
と、再び驚く。
ーその女に会えば、いろいろと、わかりそうだ。その女を探そう。
タツヤは決心した。
その後も、話が弾み、夜も更けてゆき、タツヤとジェシカは、マルコの家へと泊まることになった。
マルコは結婚しており、妻と二人暮らしで、息子がいたが、『レッドブラッド教団』に殺されていた。
その死んだ息子の部屋を、タツヤとジェシカの寝床として、使うことになった。
ジェシカは、
「私、パトロールがあるから。帰ったら、宿屋の件、ちゃんと説明してもらうから」
と、言って、部屋から出て行こうとする。
「ああ。わかったよ。行ってらっしゃい」
タツヤは見送る。
ジェシカは、振り返って、
「ねぇ、日本って、どんな所? 私、ちょっと行ってみたくなった」
と、言った。
「いい所だよ。帰ったら、いろいろと聞かせてやるよ」
タツヤは言った。
「それは楽しみだわ」
ジェシカは、部屋から出て行く。
タツヤは寝転んだ。
ーさすがに疲れたな。
タツヤは寝入ってしまった。
ドサッ。
ドサッ。
ー何の音だ?
タツヤは、目を覚まして、起き上がる。
そこには、全身赤い色で覆われた、『赤魔導士』のデルタがいた!!
「なっ、何!? 何で? そんな!?」
タツヤは、激しく動揺する!!
デルタは、「クククッ」と不気味な笑みを浮かべている。
左横には、苦しそうに、目を見開いて死んでいる、マルコの死体が!!
右横にも、同じように、苦しそうに、目を見開いて死んでいる、マルコの妻の死体が!!
ージェシカは? ジェシカはどうなった?
タツヤは、強い恐怖感を感じながら、
「おいっ!! ジェシカは? ジェシカはどうした?」
と、デルタに聞く。
「殺してはいない。これから殺す。だが、ひとつ、取り引きをしないか? その返答次第では、生かしておいてもいい」
デルタは言った。
デルタの意外な申し出に驚きながら、
「何だ?」
と、タツヤは聞いた。
「『レッドブラッド教団』に入れ。そして、この国の王を暗殺するから、その手助けをしろ。そうすれば、ジェシカは生かしておいてやる。断れば、殺す。どうする?」
デルタは言った。