第2話 ジェットコースター展開で、予測不可能だぜ!!
「ちくしょう…!! どうすりゃ、いいんだよ?」
タツヤは、途方に暮れていた。
座り込んだまま、呆然と、目の前の滅亡風景を眺める。
人間の死体だらけ。
左も人間の死体だらけ。
右も人間の死体だらけ。
大火災。
爆発音。
黒煙。
有害な煙。
崩壊した建物。
瓦礫の山。
異世界の象徴である、教会、城、塔、城下町は、全て崩壊して、瓦礫となった…。
「あー、もう嫌だ!! 家に帰りたい…」
タツヤは塞ぎ込む。
うっとしい有害な煙を吸い込みすぎたのか、急に気持ちが悪くなって、タツヤは嘔吐する。
爆発音が鳴り響く。
タツヤは、また吹き飛ばされそうになる。
爆風で、たくさんの細かいガラスの破片が飛んできて、タツヤの体に当たる。
タツヤは、体中至る所、流血する。
うっとしい有害な煙のせいか、今度は目の充血が止まらず、激痛で、目を開けるのが辛くなってくる。
さらに、うっとしい有害な煙のせいか、「ゴホッ、ゴホッ」と、咳き込む回数が多くなってきた。
タツヤは、再び塞ぎ込む。
ーこれは、やばいな。俺、もしかして、ここで死ぬ?
タツヤは、絶望感に襲われた。
ーとりあえず、どうする? 生存者は、いなさそうだし。でも、誰かが、俺を、この『異世界』に召喚したんだよな。そいつも、死んでるのか? そもそも、誰なんだよ? 俺をこんな『異世界』に召喚した奴は? 一体、何が目的なんだよ?
タツヤは、溜め息をつく。
「せめて、滅亡する前に、戻れたらなぁー…滅亡する前の世界に行きたい…」
タツヤは倒れて、暗黒に染まった空を見上げる。
目の充血からなのか、絶望の憂鬱な気持ちからなのか、涙が止まらず流れる。
激しい疲労により、そのまま、タツヤは寝込んでしまった。
タツヤのポケットが、眩しいほどに光り輝いて、青い光がタツヤを包み込んでいく。
そして、タツヤは消えた。
「…あっ、目が覚めた?」
と、女の声がする。
タツヤは目を開けた。
目の前に、金髪の若い女が立っていた。
髪型は、ミディアムヘア(肩から鎖骨くらいまでの長さ)で、波のようにウェーブしている。
見た目は、十代後半から二十代前半ぐらい。
キリッとした顔立ちで、欧米の美女を彷彿とさせる。
服装は、RPGで、庶民が着ていそうな、黒色のワンピースドレス。
「ここは…?」
タツヤは自分の状況を確かめる。
どうやら、ベッドで寝ているようだ。
周りを見渡すと、ここは部屋の中のようであった。
白いテーブルと白い椅子のみが置かれていて、他は特に何も置かれていない。
窓が開いていて、太陽の光と、気持ちの良い涼しい風が、入って来る。
外からの賑やかな声も聞こえてくる。
「ここ? ここは宿屋よ」
金髪の女が答える。
「宿屋? あぁ、そうか。夢だったのか。そうか、そうだよなぁ。あぁ、良かった…本当に良かった…」
タツヤの目から、涙が流れる。
「ちょ、ちょっと…大丈夫?」
金髪の女は、心配そうにタツヤを見る。
「それで、あなたは? 欧米の人ですよね? 日本語、わかるんですか?」
タツヤは聞いた。
「私はジェシカ」
金髪の女は続けて、
「欧米って何? 私、フランシス人だけど。日本語なんて知らないわ」
と、答える。
「欧米って、ヨーロッパとアメリカのことです。フランシス人? 名前と発音からして、フランス人ってことかな? 今、俺が喋ってるのが日本語です。意味、理解できてるでしょ?」
タツヤは言った。
「あなたが喋っているのは、フランシス語よ。日本語じゃないわ。名前、教えて。あなた、何人なの? どうして、傷だらけで、道端に倒れてたの?」
ジェシカは言った。
「フランシス語? 日本語とフランシス語って、似ているってことか? 名前はタツヤ。日本人です。俺、道端で倒れてたんですか?」
タツヤは言った。
「そうよ。それで、ここまで運んで来たの。大変だったわ。よろしくね、タツヤ。日本人って聞いたことないけど…。その日本って国から、来たってことね?」
ジェシカは言った。
「そうです。日本から来たんですよ。たぶん『異世界召喚』されて…あっ、ここって、何処の国の宿屋ですか?」
タツヤは言った。
「『フランシス王国』の宿屋よ。『異世界召喚』? あなた、『異世界召喚』されたの?」
ジェシカは驚く。
「そうですよ。『異世界召喚』を、知ってるんですか?」
タツヤは言った。
「知ってるわよ。馬鹿にしないで」
ジェシカはムッとする。
「すみません。あの、俺を『異世界召喚』した人、誰か、わかりますか?」
タツヤは言った。
「知らないわ。でも、『異世界召喚』されることは、名誉なことよ。選ばれし勇者として、国を救うために、呼ばれてるんだから」
ジェシカは言った。
「えっ!? ってことは、この世界ってー」
タツヤは、口元が緩む。
ー『異世界ファンタジー』の世界なのか?
「あの、この世界って、剣や魔法や城や魔王とか、そういうのって、ありますか?」
タツヤは言った。
「ええ。あるわよ。変な質問ね」
ジェシカはクスッと笑う。
「よっしゃぁぁぁぁぁ!!」
タツヤは、嬉しさのあまり、ガッツポーズをした。
ーやったぁぁぁ!! 『異世界ファンタジー』だぁぁぁ!! ついに来たぁぁぁ!!
「変な人ね。日本人って、みんな、タツヤみたいな変な人ばかりなの?」
ジェシカはキョトンとしている。
タツヤは、
「いや、そんなことないですよ。俺が変なだけです。よろしく、ジェシカさん!! 一緒に魔王を倒しましょう!! えっと、俺の能力は…何か最強とかあるのかな? あるよな?」
と、テンション上がりまくりで言った。
「ジェシカでいいわ。魔王って…もういないわよ」
ジェシカは言った。
「えっ?」
タツヤは驚く。
「魔王って、ずいぶん昔に、『異世界召喚』された勇者に、倒されたわよ。その後、その勇者は、『レッドブラッド教団』に殺されたわ。その後も、勇者と呼ばれる人は、みんな殺された。『レッドブラッド教団』に」
ジェシカは、淡々と言った。
「は? 『レッドブラッド教団』?」
タツヤはキョトンとする。
「知ってるでしょ。もう、とぼけなくていいわよ」
ジェシカのタツヤへと向ける視線が、攻撃的な視線へと急に変わる。
「あなた、『レッドブラッド教団』のメンバーでしょ? 手の込んだことするわね。あなたはね、道端ではなく、私の家の前に倒れてたの。最近、そうやって油断させて、メンバーを殺してるって報告が入ってるわ。クリスティーナも、そうやって殺したんでしょ? 私が『フランシス王国騎士団』のメンバーだから、慎重に殺そうという計画なんでしょうけど、やり方が汚ないわ。正々堂々と来なさいよ」
ジェシカはそう言って、懐から、暗殺用ナイフを取り出す。
「えっ、お、おいっ!? 何、言ってるんだ? ちょ、ちょっと待ってー」
いきなりの急展開に、タツヤは慌てふためく。
「待つわけないでしょ、バカ。作り話、おもしろかったわよ」
ジェシカは、タツヤの腹に、ナイフを突き刺した。