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終わり良ければ


その後、尋問によって得た情報をもとに襲撃犯達のアジトやトライオン男爵家の邸に大規模な調査が入った。その結果、両者の繋がりや今回の事件に関する契約書類など多くの証拠が発見された。

さらにトライオン男爵にいたっては彼らを使っての脅迫や強引な取引など、商会での数多の不正も発覚した。皇太子の婚約者の暗殺未遂だけでなく数々の余罪が明らかとなり、皇室は酌量の余地なしとして彼らに極刑を言い渡した。

この件は大々的に発表され、トライオン男爵家の罪状と下された刑の内容は全帝国民の知るところとなった。しかし、帝国では公開処刑は倫理的理由からも行っていないため、外部には発表だけに留め、刑は関係者のみが立ち会い粛々と実行された。

ちなみに、ルルアンナを聖女と慕っている多くの帝国民はこの件に怒り、トライオン男爵一家を激しく非難した。極刑に処されると聞いても、その中にまだ成人前の少女が含まれていると知っても、同情する者は誰もいなかった。

ルルアンナはフェリオルドと共に、事件で心配をかけたことや騒がせたことへのお詫びも込めて貴族や国民達に顔を見せて回り、この件の幕引きとしたのだった。




◇◇◇




「ようやく一段落して少しホッとしたわ」


「余計な憂いが無くなってようございました」


一連の出来事から三日後、ルルアンナはミレットを連れてエーデルシュタイン城の回廊を歩いていた。城のメイドに連れられ目指しているのは第三応接間である。城に三つある応接間は第一から順に部屋の規模が小さくなっていき、向かっている第三応接間は個人的な話し合いや商談に使われる一番小さな部屋だ。


「本日は殿下がお呼びとのことですが、お茶会でもないようですしどのようなご用件なのでしょうか」


「私にも詳しいことは分からないわ。応接間に来てほしいとしか聞いていないから」


城からの使いがシャレット侯爵家に来たのは朝の早い時間だった。都合がつくなら城へ来てほしいとフェリオルドに呼ばれ、勿論断る理由もないルルアンナはすぐに準備をして登城してきた次第である。


「こちらでお待ちでございます」


「案内どうもありがとう」


一礼した城のメイドが開けた扉から中へと入ると、すぐに声がかかった。


「ルルアンナ、来てくれてありがとう。急に呼び立ててすまなかったね」


「とんでもございません。フェリオルド様がお呼びとあらばいつでも参りますわ」


ソファに座るフェリオルドに招かれその隣に腰を下ろしたルルアンナは、向かい側に座っている人物に目を向けた。


「御機嫌よう、ベルガード様」


「……お元気そうで何よりです」


応接間にいたのはフェリオルドだけではなかった。客人として城に滞在しているベルガードもこの場に同席するようだ。


「実は今日来てもらったのは、彼から話があると言われたからなんだ」


「まあ、ベルガード様が?私も聞いてよろしいのでしょうか」


「ええ、お二人に聞いて頂きたい」


そう言うベルガードはいつになく真剣な表情で、自然とフェリオルドとルルアンナも姿勢を正して聞く態勢に入った。


「まずは、私がこの国に来ることになった経緯について話をさせて頂きたい」


そうして生まれ育った自国の事、騎士時代の事、どんな経緯で国を出て帝国へ来ることになったのかという事をベルガードは淡々と語った。その内容に、二人は顔を顰めながらも最後まで黙って聞いていた。


「そうか。そのようなことが……」


「ベルガード様は大変な思いをされてきたのですね」


話を聞き終えたフェリオルドとルルアンナは、揃って何とも言えない顔をしながらもベルガードのことを労った。


「そのような王族が隣国にいたとはね。自治権を認めているとはいえ、今は我が帝国の属国だ。国が立ち行かなくなる前に対策をしておかなければならないな。いずれクーデターでも起きかねない」


「そうですね。国民あっての国です。王族としての権利を享受するならば、同時にその義務も果たさなければなりませんもの」


「……あなた達のような誠実さが少しでも彼らにあったなら、あの国ももう少しマシなものになっていたでしょうに」


ルルアンナ達の会話を聞いて、改めて自国の王族との違いにベルガードは肩を落とした。


「私は王族とはどこの国も彼らのような人間達ばかりなのだろうと思っていました。今思えば自国の王達の姿しか知らないというのに、それで全てを決めつけるなど浅はかであったと恥じ入るばかりですが、当時の私はそう思い込んでいたのです。ですから、この国に来てお二人や両陛下を見て本当に驚いたのです。王族、皇族にもこのような優れた人格者がいるのかと。そしてむしろこの姿こそが、国を治める者としての本来の姿なのだと」


ベルガードは真っすぐに目の前に並ぶ二人を見つめる。自然と敬意を抱かせるような、自ら頭を垂れたくなるような、威厳と慈悲を兼ね備えたまさに国を率いるにふさわしい存在。


「そこで、過分な願いであるとは承知の上でお二人にお願い申し上げます。どうか私をこの国の騎士として雇って頂けないでしょうか」


その言葉に二人は驚いたように目を見開いた。ベルガードの過去の話を聞いた後ではそれも当然の反応だろう。


「この国の騎士にか?こちらにとっては良い話だが、隣国の王族達がした仕打ちを思えば君にとっては我々はあまり良い感情を抱かない相手では?」


「いえ、あなた方と彼らを同一の存在だなどとは到底思えませんので、その心配は無用です。滞在させて頂いた期間はそう長くありませんが、この国の皇族の方々は本当に素晴らしく尊敬の念を抱かずにはいられませんでした。私はあなた方のような存在にこそ騎士としてお仕えしたい」


自分の価値観を根底から覆した存在。己の騎士としての人生を捧げるならば彼らしかいないとベルガードは強く感じたのだ。

そんな彼の様子に、固い決意の上での申し出なのだと察したフェリオルドとルルアンナは、一瞬だけ視線を合わせるとベルガードへと向き直った。


「君の想いはよく分かった。そこまで言ってくれるのならば、君を我が国の騎士として迎え入れよう。その実力も、騎士としての誠実さも素晴らしいものだ。君が忠義を捧げるに足る相手であるよう、私も次期皇帝として務めを果たし続けると約束する」


「私にとってあなたは恩人です。あなたのような優秀な騎士がこの国の一員になってくれるならばこんなに嬉しいことはありません。これからはどうか私達と共に帝国をより良い国へとしていきましょう」


慈悲さえ感じさせるような優しい笑みで言葉を紡ぐ二人に、ベルガードは改めて強く感謝の念を抱いた。熱くなりそうな目頭をグッと力を入れて堪え、深々と頭を下げる。


「願いを聞き入れて下さり感謝致します。この命尽きるまで我が忠義はあなた方へ捧げ、帝国のためにこの身を尽くしていくと誓います」


身も心も捧げられる真の主に巡り会えることは、騎士にとってどんなに幸せな事であるか。

数々の苦難に見舞われ、国さえも追われた孤独な騎士は、新たな地で自分の生きる意味を見つけることができた。のちに、誰より忠義を尽くして主を支え続けた存在として国中に名を馳せることになる帝国一の騎士の誕生であった。




◇◇◇




後日改めてベルガードを帝国騎士に任命する旨を伝え、その後は三人でお茶をして過ごした。以前よりもさらに縮まったであろう距離に、充実した時間を過ごすことができた。


「それにしても、ベルガード様のお申し出には驚きましたね」


「そうね。でも国にとっても私達にとっても喜ばしいことだわ」


城からの帰り道、馬車の中でポツリと零したミレットの言葉にルルアンナも同意するように頷く。

驚きも確かにあったが、内心で半分くらいはそうなればいいなと思ってもいた。彼はルルアンナの命の恩人であり、その実力も人柄も本物であると間近で見た彼女は知っている。純粋に人として気に入ったのもあるが、その力を自分やフェリオルドのために発揮してほしいと思ったのだ。


「色々と大変な目にはあったけど、結果を見れば収穫もあったわね」


「あの愚か者達の暴挙を大変なことで済ませてはなりません。本当に危険だったのですから」


「そうね。ミレットにもたくさん迷惑をかけてしまったし。いつも私を助けてくれて本当にありがとう。これからもどうか傍にいてね」


「もちろんでございます。これからもルルアンナ様の御身は私が守ります」


どこかいつもより気合の入っているその様子に、もしかしてベルガードに対抗意識でも持っているのだろうかと小さく笑う。

今回の件は本当に散々ではあったが、予定通りに邪魔な女は排除することができた。その過程でのアクシデントは、少々あの女の非常識さを甘く見てしまっていたせいもある。しかし目障りな存在は消え、さらに新たな騎士として優秀な人材を迎えることもできた。結果としては上々と言えるだろう。


「これからもあの方のために精進していきますわ」


光に透けるプラチナブロンドの髪を揺らして、ルルアンナは美しく微笑んだ。



これにて第三章は終了です。なかなか自分が書きたいものを上手く表現できず安定しない書き方となってしまいましたが、それでもここまで読んでくださった読者の皆様には感謝の気持ちでいっぱいです。拙いながらにも少しでも楽しんで頂けていますでしょうか……。

残りあと二章となりましたが、どうか最後までお付き合い頂ければ幸いです。

ここまで目を通して頂きありがとうございました。

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