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秋の収穫祭(3)


パーティはすでに多くの人々が集まり、踊ったり談笑したりと大いに賑わっていた。

今夜のパーティ会場となった広間は城の中では中規模の広さで、広間の奥にある開かれた扉の向こうにはさらに一回り小さな部屋が続いていた。メイン会場の広間には簡単な軽食とアルコールが並び、奥の小さな部屋にはまだお酒が飲めない令息や令嬢達のためにノンアルコールドリンクやスイーツが用意されている。何人かはたまに飲み物を取りに来たりスイーツを摘まんでいくことがあったが、多くは社交のために広間の方に留まっている者がほとんどだった。

ルルアンナとフェリオルドが入場すると、それまでの騒めきが一層大きくなり、皆小さく頭を下げて略式の挨拶をした。二人の後に間を置かず両陛下も現れ、簡単に秋の収穫祭の祝いを述べた。そして何人かの貴族と少し話をすると、すぐに会場を出ていってしまった。一応皇室主催のパーティのため顔は出したが、自分達がいては気を遣うだろうと皆が気兼ねなく楽しめるようにすぐに戻ったのだ。ルルアンナ達は様子を見つつ終盤あたりまでいる予定である。

両陛下が退場すると緩やかに音楽が流れだす。始まりを告げるダンスの演奏に、フェリオルドが笑顔でルルアンナに手を差し伸べた。格式ばったパーティではないため、皇族のみのファーストダンスはなく、それぞれ思い思いに男女が手を取り合って中央へと進み出てくる。ルルアンナもフェリオルドに手を引かれながら広間の中央へと移動した。


「こうして君と踊るのは久々だね」


「そうですね。ご一緒出来てとても嬉しいです」


音楽に合わせ、緩やかにステップを踏み出す。乱れることなく、お互いを活かす息の合った洗練された動き。意識せずともそれができるのは、二人が常に相手を誰よりも見て感じているからに他ならなかった。


「ルルとこうして何にも邪魔されずに踊れるなら、面倒な行事でもいくらでも出たいと思えるよ」


「まあ、ふふ。面倒だと思っていらっしゃるのですか?」


「お偉いさんを接待する夜会なんかはね。今日は気楽なものだ。君を堂々と見つめていられる」


「……そんなに見られると、恥ずかしいですわ」


そう言いつつも、二人とも相手から一時も視線を逸らさない。まるでこの世界にお互いしかいないかのように。

輝くような美男美女の優雅で品のあるダンスは、多くの人間が踊る中でも人々の視線を引き寄せた。そこだけ空気が違うかのように、魅せられつつもどこか近寄りがたさも感じさせる、神聖な儀式のようだった。光を受けた二人の衣装の煌めきが、余計にそれを強くしている。

数多の視線を集める中、一曲を踊り終えた二人は演奏の終了と共に向かい合ってお辞儀をする。寄り添い合っていた体は名残惜しそうに静かに離れた。


「少し休んだら、もう一度踊って頂けますか?」


どこか芝居がかった仕草でお伺いを立てるフェリオルドに、ルルアンナはクスリと笑みを浮かべた。


「もちろんです。何度でもお付き合いいたします」


ルルアンナの答えに嬉しそうに頷き、フェリオルドは華奢な手をそのまま引いてダンスフロアの外へと彼女をエスコートする。

中央から外れ人混みを抜けると、待っていたかのように新たな人の波がやってきた。


「殿下、こうしてお目にかかれて光栄です」


「今宵のパーティも実に素晴らしいもので」


歩き出せば周囲の者達が次々と声をかけてくる。そしていくらも進まないうちに囲まれてしまったが、こういった対応をするのも皇族の務めである。


「楽しんでもらえているようで何よりだ。今年は特に実りが良かったようで、献上された物の量も質も素晴らしかった」


フェリオルドが会話に応じ始めると、周囲にはさらに男性貴族達が集まってくる。ルルアンナは邪魔にならないよう一時この場を離れることにした。


「フェリオルド様、私はあちらの方でお話していますね」


「ああ、すまないね。なるべくすぐ行くよ」


フェリオルドの耳元で小さく囁いてから、ルルアンナは集まっている周囲に笑顔でお辞儀をした。彼らがお辞儀を返してルルアンナの行く先をスッと空ける中を品良く歩いて行く。

ルルアンナが一人になると、今度は貴婦人や令嬢達が彼女のもとへと近づいてきた。


「ごきげんよう、ルルアンナ様」


「先ほどの殿下とのダンス、とても素敵でしたわ」


「お召しのドレスも本当に美しいです」


ルルアンナを称賛する彼女達に、ふんわりと微笑む。純粋に友好関係を築きたい相手でも、何か打算がある相手でも、笑顔で対応するのは変わらないのだ。


「まあ、ありがとうございます。皆様の装いもとても可憐ですね。パーティはお楽しみ頂けていますでしょうか?」


「はい、お料理も美味しいですし、所々に飾ってある秋の植物というのも風情があって素敵ですわ」


秋の収穫祭らしく季節特有の花や植物を一部の装飾に使用したのだが、普通の花々に比べて派手さはないもののかえって秋らしい風情を感じて好評だったようだ。


「お料理の方は生産者の方々が丹精込めて作ってくださったおかげでとても良い食材が集まったそうです。ぜひこの時期の味覚を楽しんでいってくださいね」


そうして声を掛けられるたびに少し話をしながら会場を移動していると、見覚えのある令嬢が向かいから歩いてきた。


「お久しぶりですわね」


「ええ、お元気でしたか?アマンダ様」


ブラウンの波打つ髪を高く結い上げ、ダークレッドのドレスに身を包んだアマンダ・フォンテーヌは相変わらず華やかな存在感を放っていた。同じ侯爵令嬢で、かつては皇太子の婚約者候補同士のライバルでもあった相手だ。

少しきつめの目元をさらにきりりと吊り上げて、アマンダはツンとすました顔でルルアンナを見た。


「あれからも色々と噂を聞きましてよ。あまり要領を得ないものも多いので、どうしたかしらと思っていましたの」


「そうでしたか。ご心配をおかけしたようで申し訳ありません」


「し、心配なんてしていませんわ!あなたの対応をもどかしく思っていただけです!」


顔を赤くしてキッと視線を強めるアマンダに、ルルアンナはニコニコとした笑みを崩さない。なんだかんだ言いながら面倒見の良い彼女をルルアンナは気に入っているのだ。

そんなルルアンナの様子に、睨むように見ていたアマンダは毒気を抜かれたように溜息を吐いた。


「あなたもつくづく面倒な女に絡まれますわね。春の感謝祭の伯爵令嬢といい、今回の男爵家の小娘といい。少々隙があり過ぎなのではなくて?」


よほど気に食わないのか、ルーナを指す言葉により棘を感じる。平民上がりが上位貴族に楯突くことが不愉快なのだろう。


「仰る通り、少し楽観視していたのかもしれません。ですが、きちんとこの件には対処致しますのでご安心くださいね」


「だから心配してないと言っているでしょう!…まあ、貴族社会の秩序が保たれるのなら、私は何も言いませんわ。あなたも皇太子妃としての自覚を今まで以上にきちんと持つことね。でなければ同じ候補であった私の立つ瀬がありませんわ」


「はい、ご忠告感謝いたします。アマンダ様も何か困ったことなどありましたらいつでもご相談くださいね」


「この私に隙などなくてよ。まあ……機会があれば考えておきますわ」


そして来た時同様、颯爽と去っていくアマンダを笑顔で見送る。素直ではないが彼女の喝はルルアンナにとってもいい刺激だ。

寄ってくる人の波が一段落したところで、ルルアンナは飲み物を取りに扉から続きになっている小部屋へと向かった。皆ダンスとおしゃべりに夢中のようで、スイーツやドリンクが並ぶ部屋に人気はない。ルルアンナは葡萄サワーを手に取って少量を口に含んだ。その味に満足し、部屋を出ようと数歩進んだところで、入り口に誰かが立っていることに気づく。


「あら、あなたは……」


そこにいたのは、最近何かと噂が付いて回る、件の男爵令嬢ルーナ・トライオンだった。



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