秋の収穫祭(1)
あっという間に日々は過ぎ、爽やかな秋晴れの日に待ちに待った収穫祭を迎えた。街はいつもより早い時間から活気づき始めている。
ルルアンナも朝早くから支度を済ませ、兄のフィニアンと共にエーデルシュタイン城を訪れていた。
「おはよう、ルルアンナ。朝早くから大変だっただろう。今日のドレスも秋らしくて良く似合っている」
「おはようございます。フェリオルド様の装いもとても素敵です」
出迎えたフェリオルドが開口一番にルルアンナを褒める。それにルルアンナが少し照れたように返事を返した。ちなみに良くある光景なので皆スルーして眺めている。
ルルアンナのドレスは色味を抑えたワインレッドで、胸元や袖、スカートの裾に金糸で華やかな刺繍が入っている。フェリオルドは深みのあるダークグリーンで、襟や長めの上着の裾に同じように金糸で刺繍が施されていた。今日は街中を移動するためどちらの服もいつもよりは控えめな服装だが、きちんと品があり皇族や貴族としての威厳は損なわれていない。
「フィニアンも今日はよろしく頼むよ」
「夜のパーティまでにやることは山積みですからね。こちらのことはお任せください。それよりルルアンナのエスコートをよろしくお願いしますよ」
ルルアンナと見つめ合った後、ようやく顔を向けたフェリオルドに怒るでもなく、むしろ同じようにシスコンを発揮しながらフィニアンは答えた。
ルルアンナ達はこれから今回の収穫祭で選ばれた店を回るが、フィニアン達側近や他の城の者達は夜に行われるパーティの準備がある。せっかくの収穫祭をあまり楽しめないのは少し申し訳ないが、夜はフィニアン達もパーティに出席するし、城の係りの者達も収穫祭用の豪華な料理を同じように振る舞われる。彼らにはその時に気兼ねなく楽しんでもらえればよい。
「ルルお姉様!」
そこへ元気よく声がかかる。三人が視線を向けると、第一皇女であるミュリエルがやや駆け足でこちらへと向かっており、その後ろからは皇帝陛下と皇后陛下が二人並んでゆっくりと歩いてきていた。
「ミュリエル様、おはようございます」
「おはよう!朝からお姉様とご一緒できるなんて嬉しいわ。とっても楽しみにしていたの」
「ええ、私もです」
「……ミュリエル、お前はもう少し落ち着きなさい。小さい子供じゃないんだぞ」
「む、別にいいじゃない。外ではちゃんと皇女らしく振る舞ってるんだから。お兄様は真面目過ぎ。感情表現は大事なのよ!フィニアンもそう思うでしょ?」
「ええと、まあ……」
はしゃいでいるミュリエルを窘めるフェリオルドとそれにむくれるミュリエル、何故か巻き込まれているフィニアンを微笑ましく眺めていると、両陛下もその場へと到着した。
「まあまあ、皆元気ね」
「……街ではきちんとするのだぞ」
正反対な二人の反応にクスリと笑いながら、ルルアンナは二人へとスカートを持ち上げて挨拶をした。
「今日は一日よろしくお願い致します」
「こちらこそ。せっかくの収穫祭ですもの。あまり固くならず楽しんでちょうだいね」
「うむ。我々は店を回り終えれば引き上げるが、お前たちは色々楽しんできなさい」
「はい、ありがとうございます」
そこへ侍従が馬車の準備ができたと呼びに来たため、フィニアンと別れてルルアンナ達は再び移動した。両陛下とミュリエル、フェリオルドとルルアンナに分かれてそれぞれ乗り込むと、すでに賑わいを見せている城下へと馬車は緩やかに走り始めた。
◇◇◇
皇族の乗った馬車が走る道の両脇には多くの人々が集まり、歓声を上げて手を振っていた。ルルアンナとフェリオルドも時折それに応え、笑顔で手を振り返す。
「朝からすごい賑わいですね」
「ああ、それだけ皆も祭りを待ち望んでいたのだろう」
「それももちろんありますが、皇族の方々を尊敬し心から感謝しているからこそ、こんなにも歓迎してくれるのだと思います」
「そうだろうか。それなら嬉しいことだ。それとルルももう僕達皇族と同じようなものだからな」
「ふふ、はい。ありがとうございます」
軽く会話をしているうちに、あっという間に一軒目のお店へと到着した。
「本日はようこそお越し下さいました!皇族の皆様を我が店にお招きできるなど恐悦至極の極みです!」
緊張のあまりかおかしな言葉遣いになって妻らしき女性にどつかれている店主の様子に、ルルアンナは控えめにフフッと笑みを零した。
その後も緊張気味の店主に案内され、年季を感じさせつつも清潔な店内でこの時期自慢の料理を堪能した。シンプルで素朴な味付けは城や侯爵家で出る料理とは全く違うものだが、どこかほっこりとした優しい味わいを感じさせるもので皆にも好評だった。
次の店はスイーツ専門のお洒落なカフェ店だった。木造のナチュラルな雰囲気の店内に甘い香りが漂い、ミュリエルなどはワクワク感を隠し切れずに視線だけで周囲を伺っている。
少しして運ばれてきたのは、見た目にもフワフワなのが分かるシフォンケーキだった。二段にカットされたスポンジの間にたっぷりと生クリームが挟まれており、ケーキの上にも生クリームといちごが飾り付けられている。シフォンケーキを囲むように皿の周囲にも様々なフルーツが盛り付けられ、チョコレートソースとベリーソースで可愛らしくデコレーションされていた。
当然女性陣のテンションは爆上がりである。味は見た目の美しさに劣らず美味であり、可愛らしさに少し恥ずかしそうにしていた男性陣も満足そうに完食した。
最後の店は、新鮮なフルーツをふんだんに使ったフレッシュジュースやスムージーの専門店で、こじんまりとした可愛らしいお店には溢れるほどの多種多様なフルーツが揃えられていた。その場で注文を受けてから作るスタイルらしく、それぞれ好きなものを頼むと数分で透明のカップに入ったものを渡される。ガラスよりも軽く割れにくい素材を使っているとのことで、フルーツのカラフルな色をそのまま楽しむことができる。カップには様々なデザインがあり、そのまま持ち帰れるとのことだった。
「お店の食事の内容の順番も量も丁度良かったですね」
「そうだな。きっとその点も色々吟味しているのだろう」
「貴族特有の派手さとか豪華さはないけど、こいうのも私は好き!それに全部美味しかったわ」
「ええ、あまりこってりとした物や味の濃いものもなくて、美味しくて健康的に感じたわ」
「こちらの店にはこちら特有の良さがあるということだな。素晴らしい店だった」
予定していた三軒の店をすべて回り終えたルルアンナ達はのんびりとお店を離れ馬車へと向かう。今日訪れた店には皇族が訪れた証として皇家の紋章が入った盾飾りが贈られている。店先にそれを飾れば大変なステータスになるだろう。
「私達はこれで城に戻るが、お前たちは街中を見て回るか?」
「私はせっかくだからあちこち覗いていくわ」
「ちゃんと護衛を連れて行くのよ。置いて行かないように」
「はあい」
その様子を少し呆れたように見てから、フェリオルドはルルアンナを振り返った。
「僕達はどうしようか。どこか寄りたいところはあるかい?」
「特にここと決めてはいませんが、私もせっかくなので少し見て行きたいです」
「そうか。じゃあ散歩がてら街中を見てから戻ろう」
「ありがとうございます。ミュリエル様も一緒に回りますか?」
「やだ、お姉様ったら。いくら私でもそんな空気の読めない事しないわ。二人のジャマになっちゃうもの」
「まあ、そんなこと……」
にんまりと笑って手を振るミュリエルに、ルルアンナは恥ずかしそうにうっすら頬を染める。
そんないつも通りのやりとりをした後、それぞれの目的に合わせその場で解散となった。両陛下は馬車で城へ戻り、ミュリエルは付いてきていた護衛のうち二人ほど連れて街中へと消えていく。
「それじゃあ、僕達も行こうか。夜の準備もあるからあまりゆっくりはできないけど、いくつかの店や屋台を回る時間くらいはあるからね」
「はい、孤児院の子達のお土産を買いたいんです。あと家族の分も」
「ルルらしい。僕にも何か買ってくれる?僕もルルに贈るから」
「ふふ、嬉しいです。でもフェリオ様に似合うものを見つけられるでしょうか」
「大丈夫、君がくれる物なら木の枝一本でも嬉しいよ」
「まあ……フェリオ様ったら。ふふ、多分木の枝なんて売っていませんわ」
ミュリエル同様少しの護衛を連れ、仲良く手を繋ぎながらルルアンナとフェリオルドも賑やかな街の中へと歩き出した。




