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身の丈に合わない恋(1)


冷たさを含んだ風が吹き、日増しに秋の深まりを感じさせる中、ルルアンナはフェリオルドの妹でもある第一皇女のミュリエルとティータイムを過ごしていた。


「お姉様の手作りのパンプキンパイ、とっても美味しい!」


「ふふ、お口に合ったようで良かったです」


ルルアンナが持参したお菓子をミュリエルは美味しそうに頬張る。その様子にルルアンナも嬉しそうに微笑んだ。


「ルルお姉様の手作りお菓子はどれも美味しいから、手土産がある日はいつも楽しみなの。たまになのが惜しいくらいよ」


「そう言って頂けると私も作ってきた甲斐があります」


「お兄様より先に食べたって知られたら嫉妬されちゃうかしら」


「まあ……ふふ、この後ちゃんとフェリオ様にも持っていくから大丈夫ですよ」


「あら、なら安心ね」


悪戯っ子のように笑っていたミュリエルは、何かを思い出したように急にギュッと顔を歪めた。相変わらず感情表現の豊かな少女である。


「お菓子と言えば……お姉様、先日のお城の庭園の開放日のことはもう聞いたかしら?」


「ああ、例のご令嬢のことでしょうか?」


「やっぱり耳に入っちゃってたのね。全く、本当に信じられないわ!婚約者でも親しい友人でもない異性にいきなり手作りの食べ物を贈ろうとするなんて。しかも相手は国の皇太子なのよ!?皇族をなんだと思っているのかしら!貴族入りして日が浅かろうが許されない非常識さだわ!」


ルルアンナ以上に憤っているらしい義妹の様子に、内心で嬉しく思いつつもルルアンナは憂いの表情を浮かべる。


「私も驚いてしまいました。以前にも何度か騒ぎがあったようですが、二度も厳重に注意を受けたのだからこれ以上はないだろうとフェリオ様が仰っていたので安心していたもので……」


「お兄様は甘すぎるのよ!分け隔てなく親切なのは結構だけど、場合によっては時と相手を考えないと今回みたいな面倒なことになるんだから。優しさと甘さは違うんだって厳しく言っておかなくちゃ!」


「ふふ、ミュリエル様はなかなか手厳しいですね」


「当然よ!お姉様を悲しませるなんてたとえお兄様でも許せないわ。それにまだ貴族になったばかりだからなんて甘い顔をしたせいで、たかが男爵家の令嬢を調子に乗らせてしまったのはお兄様の責任よ。この世界に入ったらどんな言い訳だって通じないのだから」


皇族として貴族の立場を冷静に考えながらも、どうやらルルアンナのことを思って怒ってくれている様子のミュリエルに、つい口元が緩んでしまう。


「私のことを気遣って下さってありがとうございます。本当にその通りですね。社交界で勝手な振る舞いをすれば、やがてそれは自分に返ってきますから。時には厳しく対応することも相手のためですわ」


「さすが、お姉様はちゃんと分かってるわね。殿方は単純だからしおらしくされるとすぐ騙されちゃって嫌になっちゃうわ。女の怖さを知らないのよね。まあ、お兄様は側近達にも散々言われて結構反省してるみたいだから、お姉様は優しく慰めてあげるだけでいいと思うけど」


「まあ、これではどちらが年上か分かりませんわね」


ミュリエルの言い様に、ルルアンナは思わずクスクスと笑ってしまった。可愛い年下の少女はいつの間にか随分と頼もしくなっていたようだ。

ルルアンナが優しく見つめる前で、ミュリエルは2個目のパイへと手を伸ばす。


「う~、お姉様のお菓子が美味しくて手が止まらないわ。後でちょっと運動しなきゃドレスが入らなくなっちゃう」


そう言いつつも食べる表情は幸せそうだ。


「お兄様はお仕事が終わったら迎えに来るんでしょう?」


「ええ、ここにいることは伝えてありますので」


「まあ遅くなっても、その分私がルルお姉様と一緒に過ごせるから別にいいけどね。なんなら今日はずっと私が――」



「ルルアンナとの時間を譲る気は、たとえお前相手でも微塵もないからな」



ミュリエルの軽口を遮るように聞こえた声に、ルルアンナはパッと振り返る。


「フェリオ様!」


「やあ、ルル。待たせてしまってすまないね」


ルルアンナの顔を見た途端、柔らかく表情を緩ませる兄の姿にミュリエルはわざとらしくため息を吐いた。


「なぁんだ、もう来ちゃったの?もっとゆっくりお仕事しててもよかったのに」


「ルルと約束があるのにそんなのんびりしてるわけないだろう。貴重な時間がもったいない」


そう言ってフェリオルドはルルアンナに改めて向き直り、手を差し伸べる。


「この後の時間は私に頂けますか?」


その芝居がかった口調と仕草に、ルルアンナもクスリと笑って合わせる。


「ええ、喜んで」


優しく手を引かれて立ち上がったルルアンナは、申し訳なさそうにミュリエルを振り返る。


「すみません、ミュリエル様。せっかくお招き頂いたのにこのように慌ただしく退席をしてしまって」


「大丈夫よ。ちょっぴり残念だけど、また今度改めて付き合ってもらうから。その時はキルシュ漬けフルーツのパウンドケーキが食べたいわ」


ニコリと笑って堂々と次回のリクエストをするミュリエルに、ルルアンナは目を丸くしてから嬉しそうに微笑んだ。


「ええ、心を込めて作らせて頂きますね」


「……我が妹ながらなかなか図々しいな」


兄の呟きを黙殺してひらひらと手を振る彼女に一度会釈をして、そのままルルアンナはフェリオルドのエスコートでその場を後にした。



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