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ある少女の思惑(2)


お茶会の当日、ルーナはウキウキしながら身支度に勤しんでいた。ちなみに父は商談のため午前中は不在だ。


(目一杯お洒落して可愛くなって、今日こそは皇太子さまと親密になるんだから)


まだ使用人が少ないため支度を手伝っているメイドは一人だけで、少し時間がかかっているがそこはまだ仕方ないと目をつぶる。そのうちたくさんの使用人に傅かれる予定なのだから。

髪型を整えられながら、鏡に映るドレス姿の自分を見つめる。買ってもらったばかりの黄色いドレスは袖や裾など随所にレースのフリルがあしらわれた非常に可愛らしいものだ。自分の黒髪にも映えて我ながらとても似合っていると思う。

子供の頃は自分の黒髪黒目があまり好きではなかった。理由は単純に地味だからだ。もっと綺麗な色を持つ他の子達が羨ましかった。しかし父親に、色のある人間は合う色合わない色というものがあるが、ルーナのような色ならば何色の服でも装飾でも似合うから得だと言われて、その通りだと思うようになった。何でも似合う自分は他の子よりも特別なのだ。


「あ、髪飾りにはこれを使ってちょうだい」


メイドに渡したのはドレスと一緒に父が買ってくれた蝶の髪飾りだ。精巧な造りでいろんな色の宝石が使われておりとても華やかで、ルーナが一目ぼれしたものである。メイドはそれを編み込んだ髪の上から付けてくれた。

鏡の前でくるりと回って自分の姿を眺め、ルーナは満足げに頷いた。


「うん、我ながらすごく可愛いわ!服も飾りも高級品だし、注目間違いなしね。これなら皇太子さまもすぐに私に気づいてくれるはず」


靴もドレスと同じ色でツヤツヤと輝いている。つま先部分には大ぶりのダイヤが付いていて存在感もバッチリだ。


「そういえば頼んでおいたものはできてる?」


「はい、こちらに」


後片付けをしていたメイドを振り返ると、彼女は手を止めて机の上に置いてあった小ぶりな籠を持ってくる。受け取って中身を確認したルーナはにんまりと笑みを浮かべた。


「これで準備は万端ね。きっと最高の一日になるわ」


ルーナは上機嫌で部屋を出ると、城に向かうため待機している馬車の方へと歩き出した。




◇◇◇




城へ着くと案内の係りの者がいて、ルーナは導かれるままに付いて行った。自分の他にも着飾った同年代らしき令嬢がチラホラといるので、同じようにお茶会に参加するために来たのだろう。彼女達もなかなかの華やかな装いをしているが、やはり自分が一番だと感じる。他の令嬢達は自分に比べて少々地味だ。

良い気分のまま足を踏み入れたお茶会の会場は、色とりどりの花々が咲き乱れたとても美しい庭園だった。余計な装飾はなく、自然の色だけで飾り付けられた空間は幻想的で、ルーナも思わず見入ってしまう。


(お城の庭に来たのは初めてだけど素敵……!)


ほんのりと花の良い香りが漂う中、周囲を見回しながらルーナは庭の中を進んでいく。そして少しだけ違和感を覚えた。お茶会と聞いてイメージしていた豪華なテーブルセットや茶器、たくさんのスイーツといったものがないのだ。所々邪魔にならない位置に小さなテーブルが置かれ、グラスに入った何種類かの飲み物が用意されてはいるが、非常にささやかなものだ。あとは広い空間とたくさんの植物しかない。


(え、どういうこと?お城のお茶会なのにこんなに質素なの?でも他の人達は気にしてないみたいだし……)


実のところ今日のお茶会というのはいつもの皇后や皇女が主催するようなものではなく、普段あまり入れない庭園を開放して貴族達に楽しんでもらおうというものだった。飲み物を用意してあるのは一応のおもてなしであり、目的は皇后自慢の庭を各自自由に見て楽しんでもらうことである。そのため皇族は直接この場には来ないのだが、ルーナには知る由もなかった。ルーナの父は商売に関係する話題以外はあまり興味がないので、お茶会のことも適当に小耳に挟んだだけで、詳しい内容までは知らなかったのだ。

令嬢達の装いが控えめなのも、花を楽しむことが目的なのでそれを邪魔しないための暗黙の了解のようなものだが、新参者のルーナはそれを知らない。結果。彼女は周囲からだいぶ浮いていた。注目を集めるという点ではある意味成功かもしれないが。


「皇后陛下ご自慢のお庭をこうして楽しめるなんて夢のようですわ」


「本当に。花が見ごろの季節になるとこうして皆が楽しめるように開放して下さるなんて、お心が広くていらっしゃるわ」


ルーナが戸惑ってキョロキョロと周囲を伺っていると、近くで花を観賞していたらしい令嬢達の会話が聞こえてきた。


「ですが、やはり皇族の方々がいらっしゃらないとこんなに花が咲いていても少々華やかさに欠けている気がしてしまいますわね」


「本日はお庭の自由解放の日ですもの。仕方ありませんわ」


「ルルアンナ様も今回はお越しにならないのでしょう?ならば皇太子殿下もいらっしゃることはないでしょうし、少し残念ですわ」


「お二人並んでいる姿はとても絵になりますものね」


少しでも情報を得ようと耳を傾けていたルーナは、彼女達の言葉に首を傾げた。


(ルルアンナ?…って誰?皇太子さまといるならお付きか何かかしら)


いまいち良く分からないものの、今日ここに皇太子が来ないらしいということはルーナにも分かった。他の皇族とも顔見知りになれれば有利だと思ったのだが、来ないものは仕方がない。せっかくの手土産も無駄になってしまった。


(あ!だったらお城の人にお願いして渡してもらえばいいじゃない!)


今日いるのは怖そうな側近や騎士ではなく、城仕えのメイド達だ。貴族令嬢である自分の頼みを断ったりしないだろう。

さっそくルーナは近くにいたメイドに声をかけた。


「ちょっといいかしら」


「はい、どうなさいましたか?」


恭しく頭を下げるメイドに、ルーナは笑顔で手に持っていた籠を押し付ける。


「これ差し入れなんだけど、皇太子さまに渡しておいてほしいの」


「はい……?」


思わず籠を受け取ったメイドは、ルーナの言葉に戸惑った表情を浮かべる。


「だから、皇太子さまに後でこれを渡してちょうだい。ちゃんと私からだって言うのも忘れないでね」


構わず続けるルーナの所に、戸惑っていたメイドの後ろから別のメイドがやってくる。


「申し訳ありませんが、皇族の方々への贈り物はこういった形では受け付けておりません。ですので私どもの方では対応できかねます」


「は?何でよ。ただ代わりに渡してくれってお願いしてるだけじゃない」


不機嫌に返すルーナにも怯むことなく、そのメイドは丁寧に、しかしきっぱりと彼女に告げた。


「皇族の方々に届く贈り物は、危険な物が無いように全て厳しく調べられます。そもそもしかるべき方法以外で皇家に贈り物をすることはできません。ですので個人的な贈り物を我々が仲介することはできかねます。どうかご了承くださいませ」


「なにそれ、頭が固いのね!危険な物なんて入ってないわよ!ただの手作りクッキーなんだから!」


作ったのは本人ではなく男爵家の料理人ではあるものの、差し入れを危険物扱いされてルーナは憤るが、メイドの態度は変わらなかった。さらには騒ぎを聞きつけた周囲の令嬢達が遠巻きにしながらひそひそと話をしている。


「皇太子殿下に直接贈り物をしようとしたんですって」


「しかも手作りのクッキーを贈ろうとしたらしいですわ」


「まあ、お城には専属の料理人がいて、管理された食材と環境で作られたものしか皇族の方々は召し上がらないというのに」


「最近貴族になったばかりの、しかも男爵令嬢の身でなんて身の程しらずなのかしら」


いつかの夜会を彷彿とさせる状況に、ルーナはますます苛立った。断片的に聞こえてくる内容も不快だ。そうやって陰で内緒話をするしか能がないくせに。

メイドに付き返された籠をギュッと握りしめ、もう一度強引にでも渡そうとルーナが口を開きかけた時。


「あなたかしら?さっきから無粋な騒ぎを起こしているのは」


振り返ると、控えめながらも質が良いと分かるドレスを身に纏った四人ほどの令嬢がルーナを値踏みするかのように見ていた。



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