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ある少女の思惑(1)


ルーナ・トライオンは不機嫌だった。

帝都に移ってきてからというもの、ちっとも自分の思い通りにならない。

ドキドキしながら精一杯のお洒落をして参加した初めての夜会は、思ったほど歓迎されなかった。こちらを遠巻きにしてひそひそ話をするだけでむしろ気分が悪かった。そんな中で素敵な出会いがあり、物語の王子様のような人とお近づきになれると思ったのにあれから全然会えない。何もかもに苛々した。


あの日、王子様のようだと思った相手は本当にこの国の皇太子だった。夜会から戻った後、それとなく助けてもらった件を父親に話したところ、興奮したように教えられたのだ。どこかの良い家柄の貴族令息かと思っていたルーナもまさかの身分に驚いた。それと同時にとても気分が高揚した。

周囲の態度には腹が立ったが、それがなければルーナは会場から出て行こうなどとは思わなかっただろう。もし出ていかなければ皇太子との出会いもなかったはずだ。そう考えると、会場で嫌な思いをしたのも皇太子と自分が運命的な出会いを果たすための試練だったのだと思える。自分が昔から夢見ていた通り、やはり王子様が迎えに来てくれたのだ。平民から貴族令嬢へとのし上がった自分はいずれ皆から愛される幸せなお姫様になるのだ。


(なのに何でこんなことになったのよ)


ここ数日の出来事を思い出しルーナはまた苛々と爪を噛んだ。

出会ったはいいがどうやってこの国の皇太子と距離を縮めようかと考えたルーナは、とにかくたくさん彼と会って話をすることにした。そうすれば自然と仲も深まり、相手のことも知ることができて、皇太子もやがてルーナの魅力に気づくだろう。

タイミング良く父が城に用があるというのでそれに便乗してルーナも付いて行った。父と別れたあと慣れない城をうろうろと歩き回っていたところに聞き覚えのある声を耳にし、陰から覗いてみればまさに探していた人物の姿があった。こんなにすぐに会えるなんてやはりこれは運命だと喜んで皇太子の元へ駆け出したルーナは、しかし彼の周りにいる人間によって止められてしまった。皇太子の側近だとかいう彼らは初対面の時からルーナに対して冷たかった。お礼をしたいだけだと言っているのに仕舞いにはルーナを処罰するなどと言い出す始末だ。

しかしそんな理不尽な状況から再び助けてくれたのは皇太子殿下だった。彼はあの夜と同じ優しい表情でルーナのことを庇い、酷いことを言う側近達を制止してくれた。やはりルーナの王子様は彼だけだ。きっと彼もルーナのことをあの日から想ってくれているのだろう。でなければ、あんなに温かい目でルーナを見つめて仲間から庇うなんてしないはずだ。

その日はそれ以上一緒にいることはできず、警備の騎士に城の出入り口まで戻されてしまったし、合流して事情を知った父から叱られてしまった。貴族入りしたばかりであまり騒ぎを起こすな、もっと上手くやれと言われたが、ならどうすればいいのかルーナには分からない。取り入って運よく寵愛を得られれば妃に、それが無理でも秘密の愛人くらいにはなれるかもしれないと父も背中を押したから頑張っているのに。もちろん愛人などで終わる気はないが。

だから次の日も皇太子に会うために再びわざわざ城まで行ったのに、正式な訪問理由も書状もないからとなんと門前払いをされたのだ。ルーナにとってとんでもない屈辱だった。彼はあんなにも優しかったのに、その周囲にいる男性達はなんて酷い人間達なのか。

それでも何とか抵抗して踏みとどまっていると、大きな門の向こうに待ち焦がれていた人物の姿が見えた。すぐに大きな声で呼んだが、ルーナに気づいた側近によって彼はそのままどこかへと連れられて行ってしまった。またもや皇太子の周囲の人間によって邪魔をされたのだ。こちらを睨みつける側近達の姿を思い出し、さらに苛々が募った。

そしてその日のこともなぜかすぐ父の耳に入り、さらに叱責をされた。しかし上手く取り入れと言いながら具体的な方法は何も示してくれないくせに、小言ばかりの父親にルーナは納得がいかなかった。だったら手本でも見せてみろと思う。不満げにむくれるルーナに父親は少しは貴族令嬢らしいことをしろとお茶会だかの招待状をいくつか寄こしたが、興味がなくて机に放ってある。


「皆して勝手な事ばっかり言って私に押し付けて……!やっぱり私をちゃんと見て分かってくれるのは皇太子さまだけなんだわ!」


彼の美しい顔と優しい瞳を思い出してルーナはうっとりする。しかし、どんなに彼に近づきたくとも彼の周囲には常に人がおり、ルーナのことを邪魔してくる。これでは全然彼との仲を深められないではないか。

何か、邪魔されずに彼と会える方法はないだろうか。いきなり二人きりとはいかなくても、お城に入れる口実だけでも欲しい。


「あ、そういえばパパがお城でお茶会があるとか言ってなかったっけ?」


いつだかの食事の時にそんなことをチラッと言っていたような気がする。これを利用しない手はないだろう。

ルーナはすぐに父親がいる書斎へと向かった。


「パパ!この前お城でお茶会があるって言ってたよね?」


「……急にどうした?」


何かの書類を見ていたらしい彼は勢いよく現れた娘に少し驚いたように目を向けた。


「お城でやるっていうお茶会に行こうと思って。それっていつなの?」


「確か明後日の午後からのはずだが……。本当に行くのか?」


「もちろん!お城に堂々と行けるチャンスなんだから行くわ」


やる気に満ちている娘の様子にトライオン男爵はふむ、と頷いた。


「そうか。なら新しい装飾品を買ってやろう。城に行くのなら身なりはきちんとせねばな。ただしもう騒ぎは起こすなよ」


「ふふ、ありがとうパパ!ちゃんと分かってるわ。今度こそ上手くやるもの」


父親の言葉にルーナは笑顔になった。アクセサリーは飛び切り高くて良いものを買ってもらおう。

お城のお茶会なら皇太子さまも来るかもしれない。あの夜は一瞬だったけど、今度は明るい光の下で可愛くお洒落をした自分を見てもらうのだ。お茶会の参加者として彼と話すのならば、あの鬱陶しい側近達も文句は言えないだろう。


(今度こそ邪魔なんてさせないわ。この機にグッと仲良くなってやるんだから)


「それじゃ、今から色々と準備も必要だし私は部屋に戻るね!」


自分と皇太子が仲良く並ぶ光景を想像して、ルーナは満足げに笑いながら部屋を後にした。



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