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異変(1)


この日、ルルアンナは昼を過ぎた頃に孤児院を訪れていた。


「前回ここに来てから少し日が空いてしまったわね」


「最近は少々用事が立て込んでおりましたから仕方ありません」


「そうね、皆元気にしているかしら」


いつものようにミレットを連れて門を潜ったルルアンナは、外に一人も子供がいないことに首を傾げた。いつもならわいわいと元気な声がそこかしこから聞こえてくるのだが、今日は静かだ。


「昼食の時間ですし、中で食事中なのでは?」


「それもそうね」


建物の中に入ると、ちょうど食堂になっている部屋からシスターの一人が出てきたところだった。ルルアンナに気づいた彼女は驚いたように足早に近づいてくる。


「まあ、ルルアンナ様。気づくのが遅れて申し訳ありません。出迎えもせずに…」


「いいえ、こちらこそ忙しい時に来てしまったようですみません。お食事中でしたか?」


「ええ、皆こちらに集まっています」


そこで言葉を切ったシスターは、何か言いたいのに言えないような、何とも複雑な表情でルルアンナを見た。


「どうかしましたか?」


「あ、いいえ!何でもありません。子供達に会うならこちらへどうぞ」


慌てて案内する彼女に違和感を感じながらも、ルルアンナは子供達がいる部屋へと足を踏み入れた。


「あ、ルルアンナ様!」


すぐに近くに座っていた子供の一人が気づいて声を上げる。それを聞いた子供達が次々と顔を上げて視線を向けた。


「皆、久しぶりね。なかなか来れなくてごめんなさい。元気にしていたかしら?」


「ルルアンナ様、久しぶり!」


「なかなか来てくれなくて、待ちくたびれちゃった!」


「僕達のこと忘れちゃったのかと思った!」


席を立った子供達がわらわらと集まってくる。行儀が良いとは言えないが、ルルアンナが来るのを待っていてくれたらしい彼らの様子を見ると叱るのも気が引ける。


「ごめんね。やることがいっぱいあって忙しかったの。私も皆に早く会いたくて頑張ったのよ」


「ルルアンナ様も私達に会いたかったの?」


「それじゃあ許してあげる!」


「ふふ、ありがとう。今日はたくさん遊びましょうね」


纏わりついてくる彼らの頭を撫でて微笑むと、彼らの後ろから一人の少年が歩いてくるのが見えた。


「こら、ルルアンナ様を困らせちゃだめだぞ。それにまだ食事中だ。お話はちゃんと食べ終えてからにするんだ」


「「はーい」」


子供達に注意をしたその少年は他の子達よりも背が高く、少し大人びた顔つきをしている。この孤児院でまとめ役をしている最年長の少年だ。最年長といっても十四歳ほどなので、ルルアンナから見ればまだまだ子供ではあるが。


「ルディカ、また少し背が伸びたかしら?どんどん頼もしくなっていくわね」


「お久しぶりです、ルルアンナ様。僕なんてまだまだです」


ルディカと呼ばれた少年は控えめに笑って頭を下げた。元から物静かな性格ではあるが、穏やかで面倒見が良いので年下の子供達もよく彼の言うことを聞いている。シスター達もできた子で助かっているとよく褒めていた。

落ち着いた様子はいつも通りではあるが、なんとなくルルアンナは少し元気がないように感じた。


「最近はどう?生活していて困ったことなどはない?」


「あ…はい、大丈夫です。とても良くして頂いていますから」


一瞬だがルディカがぎこちない笑みを浮かべたように見えて、ルルアンナはまたも違和感を感じた。しかしはっきりとは分からず胸の奥がモヤモヤする。


「あなたはもう食事を終えたの?」


「はい、早めに済ませたので、下の子達の世話をしていたところです」


「まあ、働き者で偉いわ」


まだ幼児と呼べるような幼い子達もいるため、彼らには食事や入浴の際に手助けが必要だ。シスターの人数も少なく人手が足りないので、年上の子達は率先してその手伝いをしている。

ふとルルアンナはすぐそばのテーブルで食事をしている子の手元を覗き込み、メニューを確認してみる。


「あら……?」


他の子の食べている物も見てみるが、皆同じような状況だった。


(こんなに食事の量が少なかったかしら?気のせい、ではないわね)


以前見た時より、明らかに料理のボリュームがないと感じた。育ち盛りの子供達のために、シャレット家で十分な量の食料支援をしているはずなのに。


「ルディカ、今日はジゼル院長は?」


「院長先生は用事で出ています。お帰りは少し遅くなるみたいで…」


「そうなの」


ルルアンナもあまり遅い時間まではいられないので、今日は彼女に会うのは難しいかもしれない。色々と確認したいことがあったが、また日を改めて来るしかないだろう。なるべく日を空けず早めに来る必要がありそうだ。


「それじゃご挨拶はまた今度ね。今日はマドレーヌを焼いてきたの。種類も量もたくさんあるから皆で食べてね」


「いつもありがとうございます。ルルアンナ様のお菓子はとても美味しいので僕も大好きです」


そう言って嬉しそうに笑ったルディカは、ようやく年相応の男の子に見えた。

そのまま彼にミレットが持っていたバスケットを渡すと、やりとりを見ていたらしい子供達が一斉に集まってくる。


「ルディカお兄ちゃん、それなに?」


「ルルアンナ様のいつものおやつ?」


「良いにおいがする!早くちょうだい!」


「こらこら、順番だよ。それにご飯が途中の奴は全部食べてからだ」


群がる子供達をうまくあしらいつつ、マドレーヌを喧嘩のないように配っていく様子をルルアンナは笑顔で見守る。


「……ミレット、さっきのシスターは?」


「我々を案内した後、買い出しに行かなければいけないと留守にすることを詫びて出かけていきました」


「もう一人は?」


「奥の部屋で一番幼い子供達を寝かしつけているようです」


「そう…」


ふとした瞬間に感じる違和感。そしてどことなくいつもと違うように感じる院内の雰囲気。

どうにもすっきりとしない思いをかかえたまま、ルルアンナは夕方までの時間を子供達と一緒に過ごした。


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