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プロローグ


初夏を思わせる爽やかな快晴の日。ルルアンナは実家であるシャレット侯爵家が支援する帝都の孤児院を訪れていた。

古めかしく頑丈な造りの建物は、ところどころに修繕の後が目立つものの、どこか趣きがあって歴史を感じさせる佇まいとなっている。建物の横には木の柵に囲まれた庭があり、いくつかの遊具が並んでいた。花壇や背の低い植木はきちんと手入れされ、一角には小さいながら立派な畑もある。こじんまりとしつつも温かみのある場所だった。

ルルアンナが門をくぐって歩いていくと、すぐに外で遊んでいた子供達の何人かが気づいて声を上げる。


「あ!ルルアンナ様だ!」


「ほんとだ~!」


「ルルアンナ様!」


勢いよく駆け寄ってくる子供達をルルアンナは両手を広げて受け止める。


「皆、今日もとっても元気ね。でも走る時は転ばないように気を付けるのよ?」


「転ばないよ!かけっこは得意だもん!」


「転んだって平気だけどな!」


ルルアンナを囲んでワイワイと騒ぐ子供達に、建物の中にいた子供達も顔を出し始める。次々と自分を見て集まってくる子供達にルルアンナも自然と笑顔になった。

こういった孤児院や教会を支援することは高位貴族にとっては言わば一種のステータスである。領地にある孤児院はシャレット家が運営しているため規模も大きく設備も立派で、そちらは主に両親が管理を行っている。ルルアンナは数年前から帝都で支援しているこの孤児院の管理を任されるようになった。こちらは領地よりも小さく、運営ではなく支援という形なのでルルアンナの勉強になるだろうとのことだった。もちろんだからといって手を抜くことなど許されないし、そのつもりもない。

始めこそ親に言われて義務的に通っていたルルアンナは、子供達の純粋さや何の打算もない愛情に触れて、いつの間にか自分でも驚くほどこの場所を大切に思うようになっていた。同時に子供達のか弱さも目の当たりにし、彼らを守るためにこそ己の力を使わなければとも実感していた。

そんなふうに足繫く通ってはたくさんの愛情を注ぐルルアンナに子供達が懐くのはあっという間だった。


「ルルアンナ様に見てほしいものがあるの」


「私も!」


子供達に引っ張りだこになっているルルアンナの前に、別の子供に手を引かれた女性がやってくる。


「あらあら、ルルアンナ様の前でお行儀の悪いことをしてはいけませんよ」


彼女はこの孤児院の院長でもあるシスターのジゼルだ。あと二人ほどいるシスターと子供達を世話する穏やかで優しい女性で、歳はルルアンナの母より少し上くらいである。


「ジゼル院長、お邪魔しております」


「ルルアンナ様、お忙しい中いつもありがとうございます。子供達もいつ来るのかと楽しみにしておりまして」


「ふふ、光栄ですわ。今日はパウンドケーキを作ってきたんです。最近はドライフルーツをたっぷり入れるのが人気なんですよ」


「まあ、毎回素敵な差し入れをありがとうございます」


ルルアンナが後ろに控えていたミレットの持つバスケットを示すと、中身を知った子供達が歓声を上げる。


「パウンドケーキ!」


「今日も甘いおやつ食べられるの?」


「ほら、皆さん。こういう時はなんて言うのでしたか?」


窘めるように言うジゼルに、子供達はルルアンナに向き直ってお辞儀をした。


「ルルアンナ様、いつもおいしいお菓子をありがとうございます!」


「ありがとうございます!」


「ルルアンナ様の手作りお菓子おいしいから大好き!」


笑顔を向けられたルルアンナも嬉しそうに子供達の頭を撫でる。


「お礼をきちんと言えて偉いわ。皆のために一生懸命作ってきて良かった。ちゃんと人数分あるから仲良く分けてね」


「「はーい!」」


はしゃいだ様子でミレットの前へと集まる彼らをジゼルと共に見守る。


「…本当に、いつもルルアンナ様にはたくさんの手助けをして頂いて、感謝してもしきれません」


「私が自分でしたくてしていることですから」


「それでもシャレット侯爵家の、なによりルルアンナ様の助けがなければこんなに笑顔で子供達が暮らすことはできません。これほどに皆が健やかに育ってくれているのは、ルルアンナ様のお陰なんですよ」


「そう言って頂けると、私も頑張ってきた甲斐があります」


ジゼルの言葉に、ルルアンナは微笑んで目を伏せる。

自分は世間で言われるような聖女のごとき人間ではないし、皆が期待するほど大層な人格者でもない。しかし、偽りだらけの自分でも純粋に必要とされ、純粋に感謝される。何の肩書もなく、ただただ一人の人間として見てくれる。そんなこの孤児院が大切だった。愛するフェリオルドと家族以外で、唯一手放しがたい、守っていきたい場所。


「ルルアンナ様!」


一人の男の子が駆け寄ってくる。


「あら、エディ。今日もとっても元気ね。この前は綺麗なお花をありがとう」


「うん!」


彼は感謝祭の日に、ルルアンナにお花をくれた子だった。人々に花を配る彼女に、ならばルルアンナには自分があげるのだと可愛らしいガーベラをくれた優しい子だ。


「ルルアンナ様からもらったお金で皆で食べたフルーツ、すごく美味しかったよ」


「そう、喜んでもらえて良かったわ」


「次はルルアンナ様も一緒に食べようね!」


「ええ、約束よ」


ぎゅっと抱き着いてくる愛しい体温も、聞こえてくる幼い笑い声も、ルルアンナにとってはいつしか宝物となった。


人は守るべきものが増えたとき、強くなるのか。それとも、弱くなるのか。

ルルアンナは、増えた分まで大切なもののために強くあり続けたいと、心から願った。


第二章が始まりました。今回は絆がメインの予定です。

まだまだ未熟ではありますが皆様にお楽しみ頂けるよう頑張ります。

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