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準備はトラブルと共に(1)


「ルルアンナ、準備はできた?忘れ物はないかしら?本当は私も付いていけたらいいのだけれど…」


「お母様は前からの約束があるのだから仕方ないわ。大丈夫よ、ミレットも付いてきてくれるし、ドレスを見に行くだけだもの」


心配そうな母の視線を背に受けながらルルアンナはミレットと共に侯爵家の馬車へと乗り込む。


「ミレット、ルルアンナをよろしくね」


「はい、お任せください」


「では、行ってまいります。お母様」


扉が閉まり、馬車がゆっくりと動き出す。

サラディアに見送られてルルアンナが向かった先は、貴族御用達の服飾店『サロン・ベル・ローズ』だった。完全オーダーメイドのオートクチュールの店で、主な顧客は皇族や上位貴族である。

そしてこのお店の特徴は、貴族の屋敷に出向かずに店舗にて客を出迎えることだ。もちろん相手が皇族であれば呼びつけたりはしないが、貴族の場合には出向かない代わりに一度に接客するのは一人だけという完全予約貸し切り制のスタイルを取っている。

侯爵家といえどルルアンナも例外ではなく、こうしてミレットと共に向かっているわけである。とはいえ爵位や利用頻度によって優遇の度合いが変わってくるので、ルルアンナはかなりの気遣いともてなしを受けているといえる。先代の店主はもちろん、最近代替わりした娘のローズとも親しい付き合いだ。


「ベル・ローズに行くのは半年前に夜会用のドレスをお願いして以来ね。元気にしているかしら」


「きっとルルアンナ様のご来店を楽しみにしていらっしゃいますよ」


「そうだといいわ。ドレスのアドバイスももらいたいし」


揺れの少ない馬車でおしゃべりをしていれば、広い通りを通ったこともありあっという間に目的地へと辿り着いた。

ミレットに先導されながら立派な店構えの扉をくぐり中へと入る。


「いらっしゃいませ、ようこそサロン・ベル・ローズへ」


綺麗に並んだ店員たちが挨拶と共に出迎え、その中で一人違う制服を着た女性がパッと笑顔で前へと出てくる。


「お久しぶりです、ルルアンナ様。お待ちしていました」


「こんにちは、今日はよろしくお願いしますね」


ルルアンナより四歳ほど年上の彼女は、最近母親からこの店を受け継いで店主となったローズだ。優しく気立ての良い性格で、ルルアンナにとっては姉のような存在でもある。


「ご注文のドレスは二着ともベースは出来上がっていますよ。あとは直接ご覧になっていただいて、裾など細部の微調整や装飾に関して詰めていければと」


「まあ、楽しみです」


ローズの後に続いて案内された先には、トルソーに飾られたラベンダーとクリームイエローの二種類のドレスがあった。大まかなベースは同じだが、布の重ね方やレース部分など微妙にデザインが異なっている。これだけでも十分可愛いドレスだが、まだ最低限のシンプルなものなので、これから色々な装飾を追加していく予定だ。


「う~ん、どちらも素敵ですね。それぞれ違う良さがあって」


「色の印象がだいぶ異なりますからね。それぞれのイメージに合う型を追求しました」


「ふふ、腕が良い方にお願いするとどれも素敵で逆に困ってしまいますわ」


「あら、お上手ですね」


ローズと言葉を交わしながらも一着一着をしっかりとチェックする。クリームイエローは可愛らしくふんわりとした柔らかい印象があり、ラベンダーの方は可愛らしさの中にもフェミニンで少し大人っぽい印象がある。どちらの色でもルルアンナは着こなす自信があった。気になることがあるとすればそれはひとつだ。


「フェリオルド様はどちらの色がお好きかしら…」


ルルアンナの呟きにローズは楽しそうに笑う。


「フェリオルド殿下とは相変わらず仲睦まじいようですね」


「ルルアンナ様が選んだものなら、殿下にとってはそれが何より一番かと。現にどちらもルルアンナ様より似合う方などおりません」


「まあ、ミレットったら」


真顔で続けられたミレットの言葉にルルアンナは照れたように笑う。


「そうですね。どちらをお召しになってもルルアンナ様の魅力を最大限に引き出すことができますよ」


どちらも良く似合うと言われてもちろん嬉しいのだが、選択を迷って決めかねている状況では少し困ってしまう。

なんとはなしにクリームイエローのドレスへ手を伸ばし、袖の部分を手に取ってみる。優しい色味の黄色は少しだけフェリオルドの髪を連想させるような気がした。もちろん実物の方がとても美しいのは言うまでもないが。


「こちらの方がフェリオルド様はお好きかしら」


そう言いつつも、この色を好ましく感じているのはフェリオルドではなく自分であることをルルアンナは分かっていた。単純ではあるが、一度彼を連想させると思ってしまったらこの色がとても魅力的なものに見えてくるのだ。


「優しくてとても可愛らしいお色ですよね。ルルアンナ様にもとても良くお似合いだと思います。今回はそちらに致しますか?」


「そうですわね…」


ルルアンナが答えようとした時、店の入り口付近が騒がしくなる。少し前から小さな騒めきのようなものを感じてはいたのだが、自分とは関係ないだろうとあまり気に留めていなかった。しかしその騒がしさは段々とこちらに近づいてきているようだ。ローズやミレットも気付き、揃って訝しげにそちらを見ている。


「お待ちください、お客様!」


「まだ前のお客様がご利用中です。当店では一度に一組しか対応しておりませんので、お待ち頂くか後日改めてご予約を入れて頂きませんと…」


止めようとする店員達を無視してこちらに歩いてくるその姿は非常に見覚えがあるものだった。


「あの女……!」


普段礼儀正しいミレットの口調が思わず崩れてしまうのも仕方がない。


「あ!やっぱりそこにいらっしゃったのはルルアンナ様だったんですね」


悪びれる様子もなく、あの日と同様に無邪気な笑顔で話しかけてきたのは件の問題の令嬢、エリザ・ハンネスだった。


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