5.
ブックマーク、評価ありがとうございます!
次の日。私は注目を浴びていた。
それもそのはず、
ピンクブロンドのストレートヘアをドリルのように巻き上げ
赤い瞳が映えるように漆黒のアイライナーでキャットアイを描き
ウルウル輝いていた小ぶりな唇は真っ赤な口紅でオーバーリップに仕上げた。
相変わらず体にピチピチで狙ってる感満載の制服は潔く胸元を開けて谷間を出す。
ーーこんな感じでどうよ?
少なくとも清楚系ビッチの本来のヒロインの姿からは脱却できたわね。
自信満々な笑みを湛え、目があった男子生徒には意味深な流し目を送りつつ横をさっと通り過ぎる。
今回のイメチェンは地元のスクールカースト上位のキラキラ女子を参考に、なんとなく悪役令嬢っぽいかなというエッセンスを入れてみた。
本当はミニスカにするかも迷ったけど、とりあえずそれは様子見にしといた。
目標はあくまで悪役令嬢である。娼婦になってはいけない。
まだこのゲームの世界観が分からないが、もし建築と同じように西洋中世の文化をベースとしているなら露出すべきは脚より胸元だと判断した。
ヒロインの私服もなんだかんだロング丈ばかりだったもんね。あれが上品ってことなんだろう。
「あの、君もしかしてマリア・ドルチェさん?」
学園内をランウェイのように堂々と闊歩していると、不意に声をかけられる。
こんな明らかに注目されている状況で話しかけるなんてなかなかの強者だと思いちらりと流し見する。
あ、でた。個人的好みの顔No.1のプラント男爵子息。
透き通ったライムグリーンの瞳にパーマのかかったブルネットの髪が柔らかい印象で良いんだよね。癒される。
サポートキャラだからかなり序盤からお世話になるんだけど、教室にたどり着く前から接点なんてあったっけな?
「左様でございます。失礼ですが、どちらさまでしょう。」
足を止めてそう訊くと鳩が豆鉄砲をくらったような顔をされた。
あ、もしかして男爵子息だったら入学前に接点あった?やっば、早速やらしたかも。
「良かった、ピンクブロンドで珍しい髪色だと事前に伺っていたものだから…。初めまして、僕はフェル・プラントです。父から君のことは頼まれているんだ。どうぞよろしくね。」
「ご丁寧にありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたしますわ。」
ファーストネームはフェルって言うんだ。ゲーム内で出てこなかったから知らなかった。
とりあえず初対面だったようでホッとする。
フェル・プラント男爵子息は先に述べた通りこのゲームのサポートキャラである。
チュートリアルから始まりセーブ、好感度の確認、イベントの告知などかなり頻繁に登場する。
普通に攻略対象より接点が多いのではないかというレベルだ。下手したら毎日顔を見ることになる。
そんなに活躍してくれているキャラクターなのにゲームでは上半身の立ち絵1枚のみという扱い。
このゲームには不憫令嬢以外にも不憫令息もいるのか。
廊下で立ち話をしていると遠巻きにこちらを見ている人々の中にお目当ての人を見つけた。
なるほど、いつもはポーカーフェイスのベルーナ嬢も私のこの姿には驚いたようだ。目を見開く姿も美しい。
ゴールデンブロンドの髪をハーフアップにし、パニエを入れてドレスのように膨らんだ制服は大変エレガントである。
やはり悪役令嬢にしては品が良すぎる。凋落する前に私が取って変わらなくては。
うんうん、と頭の中で頷いているとハッと気がつく。
この場には偶然にもベルーナ嬢と取り巻き令嬢、それにハロルド王子を始めとする攻略対象達も勢揃いだ。
これはもしかして、私こそが悪役令嬢だとアピールする絶好のチャンスでは!?
「君は確か僕の領地出身だったよね。流行にはどうも疎くてね、そのような格好が今女性の間で流行ってるのかな?」
ごめん、フェル。
あなたはお人好し不憫キャラだから、きっと私の我が儘にも付き合ってくれるよね?
にっこりとフェルに向かって微笑むと、大きく息を吸い込んだ。
「あなたそんなこともわからなくって!?出直してきなさいな!オーホッホッホ!!」
必殺!悪役令嬢名物、高笑い!!!
まわりのポカーンとした視線を浴びながら、堂々と高笑いをする。
良いのよ、これで。
だって私こそ悪役令嬢に相応しいんだから!