光
状況は極めて不利だったが、ここにいる誰も悲観はしていなかった。
迫りくる軍勢が万を越えていたとしても、必ず乗り越える。乗り越えて未来を掴み取る。
それぞれの思いを胸に。
「マック! バスターを使う!」
『OK! あのデカブツにぶちかましてやりたまえ!』
拓夫は腰のホルダーから「Hack buster」と書かれたディスクを取り出し、ハックドライバーへと装填する。
『Now Loading……Update……Version2! Hack Buster!!』
ハックドライバーから現れたホログラムが拓夫を包み込み、超人ハックのもう一つの姿が現れる。
全身を白く分厚い装甲が包む。右腕は本来の腕よりも一回り程太く大きな砲塔へと変わり、人型の戦車のような重厚さを醸し出す。
ハック・バスター。超人ハックの強化形態である。
拓夫の変身に驚きつつも、家綱Bは永久の肩をそっと叩く。
「よっ、久しぶりだな。その様子じゃ、もう迷いはねえみたいだな」
「家綱さん……! ありがとう、おかげ様で」
「そりゃ良かった」
家綱Bの着込んでいるトレンチコートを見て、永久は家綱Bこそが以前関わったことのある七重家綱なのだと理解する。
「えっと……坂崎さん? だっけ。和葉ちゃん達から話は聞いてる。ここは俺達に任せてくれない?」
「え? いや、私も……」
「いや、そうはいかない。恐らくゲイルに太刀打ち出来るのはお前だけだ。露払いは、俺達がやる」
ハックとセドリックにそう詰め寄られ、永久は苦笑する。
「坂崎さん、任せてください! 道は私達で作ります!」
「…………わかった。お願い」
永久の言葉を聞いた途端、先陣を切って切り込んだのは和葉だ。
その温和そうな見た目からは想像もつかない程の刀さばきで青竜刀を振り回し、和葉は迫りくる怪物達を一体、また一体と斬り捨てる。
春風のように舞い、木枯らしのように鋭く裂く。
そんな和葉に負けてはいられない。家綱BとセドリックAもまた、追随するようにして怪物達へ果敢に挑む。
「セドリック! お前に背中を預ける日が来るとはな!」
「こっちの台詞だ。足と、そのトレンチコートの裾だけは引っ張るなよ」
「はっ、もう着慣れてらァ!」
戦い方こそ喧嘩のソレだが、家綱Bの格闘にはある種の美学がある。クールに、スマートに、それでいてパワフルに。トレンチコートは邪魔になるどころか適宜めくらませに使われ、頭のソフト帽が決して落ちないように家綱Bは怪物達を蹴散らしていく。
対して、セドリックAは荒れ狂う暴力の波だ。
その、自身を硬化させる能力を使い、ダメージを恐れず強引に殴り飛ばしていく。鋼鉄の獅子は止められない。
家綱達は時折他の人格に切り替えつつ、その場その場に適応して無数の軍勢を蹴散らしていった。
「マック……俺、後衛やってていいのかな……」
『何を言っている! 今の君は砲台役が適している!』
「でもさぁ……和葉ちゃんみたいな女の子が前衛で頑張ってんだよ!?」
『大丈夫だ。彼女はどう見ても強い。それに、君のやっているゲームでも前衛はいつも女の子だったじゃないか!』
「アレは女の子しか出ないの!」
マクレガーとそんな軽口を叩き合いながらも、ハックは着々と巨大な怪物達を撃破している。
ハック・バスターの右腕の砲塔は超高密度のエネルギー弾を射出出来る。この距離から巨大な敵を迎撃出来るのは、今はハックだけなのだ。
如何に和葉達が一騎当千の力を持っていたとしても、サイズの差を埋めるのは難しい。出来るだけ接近される前に、相手の戦力を削っておかねばならない。
それに、空を飛んでゲイルの元へ向かう永久にとって最も邪魔なのは、あの巨大な怪物達なのだ。
「頼んだよ……! 坂崎さん!」
純白の翼をはためかせ、ゲイルの元へと飛翔する永久をチラリと見て、ハックは小さく呟いた。
***
行く手を阻む巨大な怪物達を刀で両断しつつ、永久は全速力でゲイルの元へと向かう。当然、永久一人でさばききれる数ではなかったが、後方のハックによる援護射撃によって永久はほとんど減速することなくゲイルの元へと翔けていく。
「物分かりの悪い女王だ」
「そうだね。だから生きてる」
怪物達の軍勢を抜け、まっすぐに向かってくる永久を見てゲイルは哀れんだ。
ゲイルから見た坂崎永久は、人間達は、どこまでも哀れで浅はかで愚かだった。
邪神ソルバ=ザはゲイルからすればこの世の理。破滅こそ摂理。何をどう足掻いたところで摂理に抗うことなど出来はしない。
何をしたって喪ったものは戻らない、追いつけもしない。
滅びゆく世界の中で、誰かの明日を守る意味などない。
兵器は死ぬまで兵器。生まれついての呪われた運命は決して覆りはしない。
そしてありとあらゆる世界には、意味など全くない。
全てが、ソルバ=ザが眠っている間に見る泡沫の夢のようなものに過ぎない。
だというのに。
ゲイルからすれば水中で藻掻く蟻のようにしか見えない者達は、必死に足掻こうとする。
「その”生”ですら、ソルバ=ザ様の手の上にあることを知りたまえよ」
「違う。人の”生”は、未来は……あなた達の手の上になんかない!」
吐き捨てるように嘲笑し、ゲイルは大きく口を開ける。超高密度のエネルギーが邪神を通じてゲイルへ集中していく。
一度敗れた攻撃だったが、永久は決して速度を緩めない。
淀んだ邪悪な光が、爆音と共にゲイルの口から放たれる。
先程永久に撃たれたものよりも強大なエネルギー放射が、容赦なく永久を包み込む。
しかしソレを、相殺する美しい光があった。
永久が放ったその光は、ゲイルのエネルギーを完全に相殺する。
ゲイルは見た。
異形の刀身を振りかざす、無限の女王の姿を。
「ふん……無限破七刀か」
「仮に”生”があなた達の手の中にあるのなら……今ここで取り戻す!」
無限破七刀。限りなき者、アンリミテッドでさえも破壊する絶対的な力。
「分際を弁えぬ箱庭の人形如きが。多少枠をはみ出た程度でいい気になるなよ」
「……そっくりそのまま、同じ言葉を返してあげるよ」
「何……?」
「邪神の操り人形の癖に、人の未来を勝手に語らないで!」
永久のその言葉に、ゲイルは初めてその顔に直情的な色を見せる。
しかしそれは僅かな一瞬だけだ。
すぐに落ち着き払った様子に戻り、永久を一瞥して鼻で笑う。
「良かろう。君の思い上がりを、今ここで打ち砕いてやろう」
地響きと共に、ソルバ=ザの根本が大きく脈打つ。
昏い光がゲイルの元へ集中し、先程までとは比べ物にならない量のエネルギーが充填される。
すかさず、永久は無限破七刀のレバーを七回操作する。
『Unlimited charge.』
無限破七刀もまた、その七つの刃へ膨大なエネルギーが瞬時に充填されていく。永久が更にレバーを二回操作することで、無限破七刀はその力を最大限に発揮する。
『Unlimited burst!』
「無限破――――」
永久が無限破七刀を振り上げたのと、ゲイルからエネルギーが放射されるのはほぼ同時だった。
やや遅れる形で、永久が無限破七刀を振り下ろす。
「七刀ァァァァァァァッッッ!」
絶叫と共に放たれた衝撃波が、ゲイルのエネルギーと派手にぶつかり合う。正面からぶつかり合った強大なエネルギーは、空間さえも破壊しかねない程の衝撃を生む。この衝撃で、新たな次元が生まれてもおかしくはない程だ。
だがぶつかり合うのは互いに破壊。
壊すだけの力が何かを生むことはない。
そして永久は理解することになる。
破滅の力で競い合って、破滅の神に勝てる道理など存在しないことを。
「っ……!?」
無限破七刀の力は、ゲイルのエネルギーによって完全に飲み込まれてしまう。
最早跡形もない。
そして永久に向かってくる強大な破滅の力を、永久は避けることが出来ない。避けてはいけない。
この被害を最小限に留めるには、自らの身体で受け止めるしかないのだ。
ゲイルが勝ち誇る。
神の使徒の口元に、俗な笑みが浮かぶ。
そして坂崎永久は、再び破滅のエネルギーの中に飲み込まれた。
***
一方その頃、和葉達もまた苦戦を強いられていた。
もうかなりの数を撃破したハズだったが、怪物の軍勢の勢いは留まることを知らない。
「クソ! いくらなんでも数が多すぎる!」
肩で息をしながらも、家綱Bはなんとか怪物達を退ける。
しかし既にその身体は傷だらけで、トレンチコートも所々破れかけていた。
隣で戦うセドリックAは弱音こそ吐かないものの、既に満身創痍と言った様子だ。硬化させている時間にも限界があるため、セドリックもまた傷だらけだ。
「坂崎さんも戦ってる……! 私達だって……まだ負けてられない……!」
必死に青竜刀を振るう和葉だったが、彼女も既にボロボロだ。
そこかしこから血を流しながら戦うその姿は、最早修羅と言ってもいい。だが和葉も体力に限界のある普通の人間だ。修羅でいられる時間は、もうほとんどないだろう。
その証拠に、和葉の足がふらつく。その隙を、怪物達は逃さない。
「――――危ない!」
和葉に、無数の爪が襲いかかる。
だがそれは、慌てて割って入ったハックの背中によって防がれた。
「拓夫さん!」
「うっ……!」
ハックの装甲が、火花を散らしながら砕けていく。
ハックが後方支援だけをやっていられたのは最初だけで、彼もまた、前線で和葉達と共に戦い続けていたのだ。そのダメージは深い。今の一撃が致命傷となり、ハックの装甲は完全に解除されてしまう。
『拓夫!』
マクレガーの叫び声と共に、生身に戻った拓夫はその場に足から崩れ落ちた。
倒れゆく拓夫に、容赦なく怪物が迫る。
誰もが拓夫の死を予見した――――ーその時。
漆黒の閃光が、遥か上空から降り立った。
「えっ……?」
その衝撃で、周囲の怪物達が蹴散らされる。
漆黒の光はやがて少女の姿を型取る。ソレは右手に七つの刃をもつ禍々しい武器を持っており、それを力強く薙いだ。
永久のものとよく似ているが、性質の違う黒い衝撃波が、怪物達を飲み込んでいく。
気がつけば、そこにあったのは何ものも存在しない更地であった。
「何がどうなっている……?」
「……さあな。だが、一旦助かったのだけは事実みたいだぜ……」
よろめきかけるセドリックAに、家綱Bが肩を貸す。
そしてその場にいる全員が、佇んでいる黒い少女を見つめていた。
「あなたは……一体……?」
和葉の言葉に、少女は応えない。否、応えられない。
だがその代わりに、和葉の力が少女の意志を感じ取る。
類稀なる霊感応は、意志を伝える術を持たないものを理解する。理解出来る。
それが早坂和葉の力であり、使命でもあった。
「……わかりました。私が意志を伝えます。だから、連れて行ってください」
和葉の言葉に、少女は小さく頷くと、手を差し伸べる。
そっと和葉がその手を取ると、少女は漆黒の翼を広げて、和葉と共に飛び去っていく。
坂崎永久の元へ。
***
塔の壁に背中から叩きつけられ、永久は激痛の中で苦しみ喘いだ。
アンリミテッドクイーンの身体は不死身の身体だ。
しかしそれでも、今命を繋ぎ止めているのは奇跡に近いと思える。
今の一撃は世界を、星を滅ぼす一撃だ。
永久の身体を維持しているコアが、崩壊しかけている。
もう一度受ければ、コアもろとも永久の身体は粉々に砕け散ることになるだろう。
それでも、坂崎永久は立ち上がらなければならなかった。
未来を取り戻すために。
「っ……!」
ボロボロの翼をはためかせ、永久は再び飛び立つ。
しかしそこにもう、先程までの力強さはない。
穢された光は、既に消えかかっていた。
「終わりにしようアンリミテッドクイーン、もう私を阻む者はない」
ゲイルが悠然とそう告げる。
だがそれは、大きな間違いだった。
その光景には、ゲイルのみならず永久でさえも驚きを隠せなかった。
「坂崎さん!」
現れたのは、早坂和葉と正体不明の黒い少女だった。
黒い少女は闇のような翼で飛び、永久の元へ和葉を連れていく。
「ッ……!?」
そして次の瞬間、ゲイルの中で何かが疼き出す。
身体の中にある何かが、ゲイルから解き放たれようと脈打っている。
「これ……はッ……!」
異形の血液を流しながら、ゲイルの身体からはじき出されたのは、三分の一くらいにまで欠けたビー玉のようなものだった。
「あれって……!」
永久はすぐに理解する。
あれはビー玉などではない。
アンリミテッドを形成するための核の欠片である。
「坂崎さん! 彼女が……伝えたいことがあるって……だから!」
必死に手を伸ばす和葉の手を、永久が取る。その瞬間、永久の中に流れ込んで来るものがあった。
和葉の力を通して、永久の中に黒い少女の意志が流れ込む。
気がつけば永久は、真っ白な世界の中に佇んでいた。
「……」
永久の正面には、一人の少女が立っている。
彼女は蠱惑的な笑みを浮かべて、永久の元へと歩み寄った。
彼女の姿は、永久にとてもよく似ていた。ボブカットの髪型と、挑発的な表情を除けばほとんど同じと言っていい。
「情けない姿ね、永久」
「……刹那」
アンリミテッドクイーンである永久の半身――――坂崎刹那である。
かつて、アンリミテッドクイーンは二つに分かれた。
永久と刹那、アンリミテッドクイーンの半身は前者が光を、後者が闇を司っていた。
何度もぶつかり合い、それでもどちらかを完全に消すには至らなかった。光なければ闇はなく。闇なくしては光なし。
「刹那!」
たまらずに抱きつく永久を、刹那は拒もうとしない。
「やっと……やっと会えた……!」
「……そんなつもりは、ほとんどなかったのだけどねぇ」
坂崎刹那は、最後の永久との戦いでそのコアを砕かれ、消滅していた。
しかしアンリミテッドはコアが一欠片でもあれば復活出来る。そのために、永久は刹那の欠片を集め続けていた。
「まったく、何を考えているのやら……。私に会いたいだなんて、正気なの?」
「正気だよ! ずっと……ずっと会いたかった……!」
「私があなたに……あなた達に何をしたのか忘れたの?」
坂崎刹那は、全ての世界を破壊しようと目論んでいた。
何度も永久とぶつかり、傷つけ合っていた。刹那は、永久を憎んでいた。
「忘れないよ……だけど、姉が妹に会いたいって思うことは……当たり前だよ……っ!」
永久の言葉に、刹那は一瞬呆気にとられたように押し黙る。
「……あっそ。相変わらずね」
「それは……刹那だって」
互いに微笑み合い、二人はようやくただの姉妹に戻る。
だがそれも束の間。
ほんの僅かな、一瞬だけの奇跡。
「……このままあんな邪神に良いようにされるのは癪だから、一度だけ手を貸してあげる」
「刹那……?」
「でも、一度だけよ。私があなたと会うのは、これが最後」
「何言ってるの……? やっと会えたのに……今度は、一緒に旅して……」
この時初めて、刹那の方が永久を抱き寄せた。
「馬鹿ね。私の旅はもう終わっているのよ」
「どうして……」
「私はあなたの、レイナの闇よ。もうあなたは、それを乗り越えたんじゃないの?」
かつて全てを憎みながら封じられたアンリミテッドクイーン、レイナ。彼女の負の感情こそが刹那なのだ。
永久はもう、長い旅の中でそれを乗り越えた。
「だから私はもう、あなたの中に戻るだけ。あいつが持っている欠片を取り戻せば、それが私の旅の終着点なのよ」
「嫌……嫌だよ、刹那……私……っ!」
「いつまでも甘えないで頂戴。私、妹なんでしょ? 立場が逆なんじゃない?」
そっと永久の涙を拭って、刹那は穏やかに微笑む。
こんな笑顔を、永久は初めて見た。
いつだって何かに憤り、そしてどこか怯えていた。
昔から安らぎをどこか受け入れていなかった刹那が、初めて……心から微笑んだのだ。
「あの子が繋いでくれているだけで、本当は私の意志なんてもうほとんど残ってないのよ。あまり時間はないわ」
坂崎刹那という存在はもう、役目を終えている。
そこに残っているのは、ほとんどコアの力だけだった。
その中に僅かに残る刹那の意志を、今和葉が繋げているのだ。
最後に、こうして話すために。
「勘違いしているみたいだからもう一度だけ言ってあげる。私達は一つ……同じ存在なのよ。あなたが救われることは、私が救われるということでもある」
泣きじゃくっていた永久が、ようやく頷く。
それを見て刹那は、安堵のため息をついた。
「刹那……ありがとう」
「…………私の台詞よ」
そう言い残して、刹那は消えていく。
それと同時に、永久の意識は一気に現実へと引き戻された。
「私からコアを取り返したところで……ソルバ=ザ様と既に一体となった私に叶うとでも思っているのか……!」
最初に聞こえたのは、怒りに打ち震えるゲイルの声だった。
「……これは」
気がつけば、永久と和葉の手の中にはコアの欠片が握られていた。ゲイルから解放された刹那のコアの欠片が、永久の手の中に戻ったのだ。
もう、黒い少女はいない。
残ったのは寂寞感と、一つになった充足感だ。
再会と喪失。
光と闇。
二律背反が、今の坂崎永久を形作る。
「ありがとう、和葉ちゃん……繋げてくれて」
「……はい……! 良かった……二人の、力になれて……!」
「もう少しだけ力を貸してほしい。いいかな?」
「勿論です!」
和葉の手が、永久の左手を強く握り込む。和葉の力が、心が、永久の中に流れ込んでくるかのようだった。
和葉を通じて、いくつもの想いが伝わってくる。
拓夫達の想いも、二人の家綱達の想いも。
「終わらせよう……みんな!」
傷付いていた永久の翼が、再び大きく開かれる。
純白の翼に寄り添うようにして、漆黒の翼が開く。
二対の翼を得た永久が、和葉と共に飛び上がった。
「終わるのはお前の方だ! アンリミテッドクイーンッ!」
ゲイルの、否、ソルバ=ザの全身を邪悪なエネルギーが満たす。
だがもう、そんなものを恐れる理由はない。
邪神も、破滅も、乗り越えられる。
「この……力ならっ!」
永久の右手に、新たな剣が形成されていく。
あらゆる世界の、どこに語られる剣にも似通わない、この瞬間だけ存在出来る最初で最後にして究極の剣。
十の刃を持つ神秘の剣は、神をも超える光となる。
「破滅しろォォォォッ!」
ソルバ=ザの全身から、邪悪なエネルギーが一気に放出される。
全てを飲み込む暗黒が、永久と和葉へ迫った。
力強く、永久は剣を振り上げる。
今日までの旅の全てが。
レイナが、永久が、刹那が、仲間達が……紡いできた絆と物語が今ここに!
「神殺――――十刃ァァァァァァッ!」
振り下ろされた神殺十刃から放たれた光が、全てを包み込む。
これは、破壊ではない。
「光の……創造……ッ!?」
ゲイルが気づいた時には既に、彼とソルバ=ザの全てが光に包まれていた。
暗黒の邪神が見る夢。
破滅へ向かう世界。
その全てを、創造の光がかき消す。
旧き闇は、新たな光の中に存在出来なかった。
「ふ、ふふ……だが、光があれば必ず新たな闇が生まれる! 再び破滅は訪れる……畏れよ人間! ふふ……はははははははははは!」
「私達は何度だって乗り越える。心配いらないよ」
光の中に消えゆくゲイルに、永久はそう告げる。
だがもう、ゲイルには何一つ聞こえはしなかった。
「これが……これが破滅かァッ! 私はッ……到ッ……達……ゥッ……」
ゲイル・トワイライトは今際の際でついに体現した。
破滅を、自らの存在で。