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Cross×World  作者: シクル
1/9

プロローグ

色々と完結編の気持ちです。

あらすじの通り好きにのびのびと(ほんと自由に)やりましたので温かい目で見ていただけると幸いです……。

 深く昏い緑の中を、白い閃光が駆ける。

 閃光の後には、ふわりと白い羽が舞う。しんと積もるように舞えど、深い緑色を染めることはかなわない。

 森の中は、まるで深淵に開いた口の中のようだった。

 そこでギラつくのは腹をすかせた獣の視線などではない。

 粘着くような視線が、動くもの全てを観察しているようにさえ感じられる。木々や地面の所々には正体不明の粘液がへばり付き、転がっている死骸の死因など一目では想像もつかない。

 ひどい湿気と不快感がまぜこぜになったような、へばりつくような空気が蔓延していた。

 そんな森の中を、モノクロの天使が駆ければ当然際立つ。

 粘液のような空気の中で、その黒髪と白い羽は一切の穢れを感じさせずにたなびく。

 純白のロングドレスは下ろしたてのような輝きを持ってして、彼女の通る一筋の道だけを照らした。

 まだあどけなさの残る少女のような顔立ちだ。その中で煌めく碧い瞳をきつく釣り上げて、彼女はまっすぐに翔び続ける。

 その刹那、彼女の眼前に異形の存在が群れをなして立ちはだかる。

 ソレはシルエット上は人の形をしていた。

 細長い体躯には、無数の蔦が複雑に絡まり合っている。華奢な体格とは裏腹に頭部は蕾のように肥大化している。

 表情のない、赤黒い顔の並ぶその頭部は、無感情に彼女を見据えた。

 彼女が息を吐く。


 そして次の瞬間には、彼女は異形の群れを通り過ぎていた。


 異形の群れは彼女が通り過ぎてから一瞬遅れて、まるで今気づいたかのように袈裟懸けに切られ、倒れ伏す。

 彼女の両手には、剣が一本ずつ握られていた。刀身が僅かに弧を描くソレは、ショーテルと呼んで差し支えないだろう。

 目にも留まらぬ彼女の剣技は、瞬く間に異形の群れを全滅させたのだ。

 すれ違いざまに。

 嵐が木々をなぎ倒すが如く。

 しかし今度は、その数倍の数がひしめいた。

 所狭しと並び立つソレらが、無表情なまま彼女に目を向ける。

 薄暗闇の密林の中で見つめる無数の目。

 それでも彼女は勢いを殺さず、二本のショーテルの柄を両手で合わせるように握り込む。

 すると、そのショーテルは光を放ち、姿を変えていく。

 彼女の両手に握られていたのは、身の丈程もある大剣だった。

 彼女はそれを軽々と片手で持つと、やや大振りに薙いだ。


 カッ! と眩く、閃光弾のような光が瞬く。その光が、巨大な波のような白い衝撃波へと変わった。


 衝撃波は木々を散らし、地を抉り、空をも削るように激しく荒れ狂う。

 瞬く間に衝撃波は異形の怪物達を飲み込み、跡形もなく消えていった。

 一瞬で更地を生み出してしまうようなこの少女を、最早誰が止められようか。

 止められるとすれば、人智を超えた厄災か。

 かくしてソレは、彼女の前にいとも容易く顕現した。

 森を焼き尽くさんばかりに燃え盛る炎は、彼女の周辺全てを包み込む。

 前後左右上下全てを業火に阻まれた彼女は、ここでようやく一度だけ動きを止めた。

 そう。

 一度だけ、だ。

 彼女は迫りくる業火に一瞥くれたのち、大剣を身構えた。

 大剣は光を伴いながら形を変えていく……。しかしそのサイズは、一回りどころか二回り程も小さくなっている。

 グネグネと波打つような、異形の刀身だ。

 フランベルジュ、とでも呼ぶべきだろうか。

 しかしその形は、知られているフランベルジュとは大きく異なる。まるで轟く稲妻をそのまま刀身にしたかのような刀身なのだ。

 彼女がそれを、一振り。

 たった一振りだけ、業火を切り裂くように薙ぐ。

 ただそれだけの動作で、眼前の業火はかき消えた。

 そこに残ったのは無惨な焼け跡と、再び駆け抜ける純白の少女の残光のみだった。



 やがて彼女は、高くそびえ立つ石の神殿にたどり着く。

 深淵のような密林の中で、見逃してしまいそうな程闇に馴染んでいるのにその存在感は巨大な生き物かのようだった。

 苔むした石の神殿に並ぶ柱の間を通り抜け、彼女は入り口へと向かう。

「……間違いない。この中にいる」

 呟きながら地面に降り、扉に手をかける。

 その瞬間、扉は彼女が動かすまでもなく一人でに開いた。

 扉の向こうは、天井の崩れた聖堂のような場所だった。

 石造りの通路に席はなく、ただ祭壇へと続いていく。

 祭壇で祀られているのは、広く人が信じる神とは程遠いシルエットだ。

 薄暗さと崩壊、腐蝕でその全容は掴みきれない。

 それがより一層不気味さを際立たせていたが、彼女の意識はその像の前に立つ一人の男にのみ向けられていた。

「これはこれは……意外とお早いご到着だ。まだお出迎えの準備もすんでいないよ」

 男の笑みは蠱惑的だった。

 面長でイギリス系の顔立ちのその男は、彼女よりも昏い碧色の瞳で笑む。

 離れた位置で微笑んでいるだけなのに、どこか寄り添うような親しさを感じさせる。そして空気に染み込むような色香じみた吐息で、言葉を紡ぐ。

 彼女は、一切動じなかった。

 最早取り合う素振りもなく、彼女は再び翼を広げて男の方へと飛翔する。

 手にする剣はショートソードへと姿を変えていき、男の眼前で振り上げられる。

 しかしそのショートソードは、男を切り裂く寸前で弾かれた。

「――――っ!」

「やれやれ……気の早いクイーンだ」

 彼女は一度男と距離を取り、身構えて出方を伺う。

「私”達”の欠片を返して!」

「さて……何かお借りしていただろうか。覚えがないな」

 とぼけた様子でのたまう男を、彼女はきつくにらみつける。

 彼女の視線を気にも留めず、男は囁くような声音で何事かを呟く。

 甘い吐息で紡がれるソレは――――呪文だ。

「申し訳ないが儀式の途中だ。女王陛下のお相手はまたの機会にさせていただこう」

 次の瞬間、上空から何か巨大なものが彼女めがけて落下してくる。

 即座に後退した彼女の前に現れたのは、体長三メートルはくだらない巨大な怪物だった。

 まるで人型の大木のような節くれだった身体に無数の蔦が絡みつき、所々苔むしている。

 巨大な頭部は真っ赤な花のように四方に広がり、中心部には食虫植物のような口がバックリと開いていた。

「最も、この程度では陛下のお相手には不十分だろうがね」

 怪物はどっしりと構え、彼女と対峙する。

 しかし彼女は、怪物のことなどはまるで眼中にない。無視して男の方へ回り込もうと飛翔したが、その眼前に怪物の巨大な腕が立ちふさがる。

「……どいて!」

 しかしその腕は、即座に両断された。

 彼女が握っている剣の形は、またしてもその形状を変えている。

 崩れた天井から差し込む月光に煌めく片刃の剣。細く洗練されたそれは、日本刀と呼ばれるものだ。

 腕を斬り裂かれた怪物はそれでもしつこく彼女に食い下がるが、瞬く間にその身体は斬り刻まれる。

 一振り。二振り。三振り。分割された怪物の身体が、鈍重な音を立てて床に転がり、闇に沈む。

「ゲイルっ!」

 怪物を始末した彼女が、男の名を叫ぶ。

 男は――――ゲイルは、勝ち誇った笑みを浮かべていた。

「また会おう。アンリミテッドクイーン、坂崎永久さかざきとわ

 次の瞬間、視界の全てが歪む。

 神殿全てが淀んだ光に包まれ彼女は――――坂崎永久は思わず目を伏せた。

 光が発生してから消えるまで、どのくらいの時間が経っただろうか。

 薄暗い神殿の中に残っているのは、戦いの残滓だけだった。


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