生と死
僕はエンターテイナー。
マジック、対談、ショー、音楽!全てで人を楽しませる生粋のパフォーマーだ!
ん?僕の名前?
…さぁ、何だと思う?
エンターテインメントには隠し味も必要。観客者にすら見破れないものがあっても良いだろう?
まぁそんな感じで世界中でショーをしていた僕だけど、なんと僕のせいで職を失った人間に刺されたみたいだ。
正直、そんなことはこれまでにもあったんだけど…、今回は死んじゃったみたいだ。
楽観的だってキミ達は思うかもしれないけどさっ、これもエンターテインメント。
僕のファン達が少しでも楽しんでくれたら良いよね。
それで…さ、
「この目の前に居る団子はなんなの?」
目の前の白い動物(?)を睨み付けながら胡坐をかいて座る。
「誰が団子だと?もう一回申してみよ人間よ。
我こそは、貴様らの存在する世界を統括する神!貴様らが一生崇め奉ったとしても我を見ることなどできまい。それなのに、何故信仰心の欠片すらない貴様が我の目の前に居られるのだ!」
堅苦しい口調で自分のことをカミサマだなんて自称しているが、見た目はかなり丸っこくて、兎みたいといったらそれまでだ。
「なんで居るのって言われてもね。君が僕をここに呼んだんだろう?カミサマ側から呼んだのにその言い草は無いんじゃあないかい?」
「そう、我は死んだ貴様をわざわざここまで呼び寄せた。
それは故に、貴様のその考えを改めさせる為に他ならない。」
僕の考え…ねぇ…。
「僕の考えはエンターテイナーとして最高じゃあないか。どこを直すと言うんだい?」
何も間違ったことはしていないのに。
カミサマが一介の人間にこうも言うなんて、僕も有名になったものだねぇ。
「違う。貴様は貴様自身が思っているほど崇高な存在などではないのだ。
それを、第二の人生で思い知るが良い。自身がどこまで醜悪か知り、己の弱さに打ちひしがれよ。」
その瞬間僕の座っている床が無くなり、何も無い闇に落ちていく。
上を見れば踏ん反り返ってこちらを見据えるカミの顔。
「あーあ…。こっちの言い分なんて聞いちゃくれない。」
そんな嫌味を呟くと、僕の意識は周りの闇に溶けていった。
◆◇◆
次に目を覚ました時は、嫌に草木の生い茂った森の中。
服装も何も変わってはいないが、若干若くなっているような気もする。
一応持ち物チェックでもしようか。
…まぁ、スマホとかの文明の利器は無いな。それ以外の道具は持っているけれどね。
第二の人生なんて言うから赤ん坊からやり直しとでも思ってしまったというのに、以前と同じ肉体で服装も同じだと拍子抜けしてしまう。
このままじゃ宝の持ち腐れ、もっと面白いものを期待していたのに…。
「誰ですかっ!動かないでください、この剣で斬りますよ!」
おやおや、観客者がやってきたみたいだ。
「君は誰だい?人間…だよね?」
「当たり前じゃないですか!
それよりも!貴方は一体何なんですか?まさか…魔族…!?」
人間らしい。言語が通じているという点ではあのカミに多少は感謝でもすべきだろうか。
魔族か。思い浮かぶのは吸血鬼、悪魔、ゾンビ…あのあたりだが生憎と僕はそんな薄気味悪い存在なんかじゃないんだよな…。
「魔族なんて低俗な生物と一緒にしないでくれよ。僕はれっきとした人間なんだから。」
「ほ、本当に、人間、なんですか…?」
まぁショーの時の恰好のままなのだから疑われてもしょうがない。
こちらの世界?の服装は僕の居た世界よりも劣っていると思うからね。この女の子を見た後だと尚更。
「人間だよ。怪我をしたら血が出る。その剣で斬られればあっけなく命を失う。」
こんなにすぐには死にたくない。だって、僕はまだこの世界でたった一人も観客を愉しませる事が出来ていないのだから。
「……そこまで言うのなら、少しは貴方の事を信じることにします。」
所詮は子供。人を殺めることへの重圧に負けたか。
「ありがたいね。それでなんだけれど、僕を近くの町村に連れて行ってくれないかい?」
「私の住む村で良いのなら。村の方には、くれぐれも危害を加えないでくださいね。」
「寝泊りできる場所があれば十分さ。」
彼女の住む村に向かう途中に軽い世間話をしていたが、やはり第二の人生は地球とは程遠い場所でのものになるらしい。
どうやってあのいけ好かないカミサマの裏をかいてやれるかを心の底で淡々と考えつつ、前を先導する彼女(ミリスと言うらしい)に付いていった。
『
僕はエンターテイナー。
道化師よりも狡猾に、計算高く観客者を愉楽の中に引きずり込む。
さぁ、今宵の観客者は何人いるのかな?
』