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FJC第8話「ボクのお墓だよ!」

 

「ここ……オレの実家じゃねーか」


 (たすく)はルル、そして天神(あまがみ)家の執事・飯田とともに「()()でもドア」という社会通念上アウトな名前の扉を使って瞬間移動した。移動先はルルが中学校に通学するときに使用している家で……元は佑の「実家」だった場所だ。


「さようでございます。こちらは佑様のご両親が離婚され手放したお宅です」

「えっ、でも今この家は知らない人が住んでいるんじゃ……」

「その『知らない人』というのが私どもでございます」

「……へっ?」


 佑の両親は離婚の際、財産分与や慰謝料支払いのためにこの家を売却した。すでに成人していて、両親の醜い争いに嫌気が差した佑は父母どちらにもついていくことなく「独立」を選択した。土地と家は売却されたものの、しばらく買い手がつかなかったが二ヶ月ほど前に誰か住み始めた……と、先日この家の近所に住む顔見知りのおばさんから聞いていたが、その住み始めたのが……


「アンタたちかぃ!」

「はい、ルルお嬢さまの中学進学に伴い、こちらに『いつでもドア』を設置させていただきました」

「そのネーミング、どうにかならないか?」

「ただし玄関ドアとして設置いたしましたので、ルルお嬢さまも家の中に入られてはおりません。今回、ルルお嬢さまも初めて住まわれることになります」

「えー、ボク犬だったときに住んでたよー」

「そっ、そうでございましたね……失礼しました」


 飯田は謝りながらも少し笑顔だった。


「あっ、そういえば飯田さん! オレの荷物は? あっそれと車は?」

「佑様、ご心配なく……こちらに」


 ガレージの方を見ると、天神家の屋敷に停めたはずの佑の車がいつの間にか置かれていた。


「いっいつの間に!?」

「佑様とルルお嬢さまの荷物は全て移動済みです。登記関係および引っ越しに伴う諸々の手続きも全て済ませてあります」

「ちょっと待って! ルルとは今日会ったばかりだよ! もう市役所だって終わっている時間なのに何で手続きが……」

「佑様、私どもは『神の使い』です。神の力をもってすれば造作ないことでございます……今夜からルルお嬢さまと一緒に住むことができます」


 佑は、神の力という「チート能力(別名・ご都合主義)」を思い知らされた。


「では佑様、ルルお嬢さま……一ヶ月間のトライアルが良い結果になることを期待しております……あ、それと……」

「?」

「こちらのドアですが……この場所(玄関)ですと家の中に入ることができません。なので()()()()に移動させていただきます。トライアル期間中、何か()()()()()()がございましたらいつでもいらしてくださいませ……ただしトライアル終了後、こちらのドアは撤去させていただきます」

「あ……あぁ、よろしく……お願いします」

「では私はこれで……あっルルお嬢さま、今度ドアを利用される場合は一度お靴を脱いでからお入りください。それではおやすみなさいませ」

「うんわかった! 飯田さん、おやすみー!」


 ルルが飯田に手を振ると、飯田は再びパステルグリーンに塗られた玄関……ではない「いつでもドア」を開け中に入った。扉が閉まるとパステルグリーンカラーがすぅっと消え、昔からあった玄関ドアに変化した。


「あっ!」


 見覚えがある実家の玄関……いつの間にか佑のポケットにカギが入っていた。


(用意周到すぎる……)


 佑はそう思いながら玄関のカギを開けた。約六年ぶりの実家……しかも今度は世帯主として住まなければならない。


「おーい、ルルさんよ! 家に入るぞ……って、あれ?」


 佑はルルに声を掛けたが姿がなかった。


(あっ、あれ? どこに行ったんだよ?)


 佑は一気に不安になった。と言うのもルルという「犬」はちょっと目を離すとすぐにどこかに行ってしまう落ち着きのないバカ犬だった。そのルルの生まれ変わりならそういう行動もありえる……佑は辺りを見回した。


 すると、暗い庭の片隅で立っているルルの姿が見えた。


「お、おいルルさん……何やって……!?」


 佑がルルの元へ歩み寄ると、ルルは下を向いて両手を合わせていた。視線の先にはソフトボール大の石が置かれていたが、その石を見て佑は驚いた。石には油性ペンのようなもので


『ルルのはか』


 と書かれていたのである。


「こっ……これって……」


「ボクのお墓だよ!」


 ルルはニコッと微笑みながら言った。


「ボク、死んでここに埋められたんだよ! たすくは毎日ここに来て手を合わせてくれたよね? だからボク、イヌ娘になることができたんだよ」


 ――そうだったのか!?


 確かに当時中学二年生の佑は、ここに来てルルに対して一緒にいてくれたことの感謝、もっと一緒に遊んであげたかったという後悔、そしてまた生まれ変わって欲しいという願望を込めて毎日このお墓の前で手を合わせていた。

 しかし、だんだんと手を合わせるのがおろそかになり、やがてお墓の存在も忘れてしまった。土を盛り上げ、近くにあった大きめの石を墓石代わりにしていたのだがそれもいつしか無くなっていた。

 すっかり庭と同化していたルルのお墓を、ここから中学校に通うようになったイヌ娘のルルがすぐに探し出し、近くにあった石を拾って再びお墓を作ったのだ。


「久しぶりにお家にきたら……たすくもパパさんもママさんもお墓もなくなっていてさみしかった……でもボクのお墓はすぐにわかったから、毎日学校に行く前にここで手を合わせて『今日はたすくと会えますように』っておいのりしてたんだ!」


 佑はルルに対して申し訳ない気持ちになった。自分はルルのお墓の記憶などとうに消え去っていたのに……ルルはまるで昨日のことのように覚えていた。


「ルル……すまんな」

「なんで? だっておいのりしてたから今日、たすくに会えたんだよ! 今はそのほうこくをしてるんだよ!」


 ルルは自分の墓の存在を忘れていた佑を責めなかった。それどころか


「そうだ! たすくもいっしょに手を合わせて! 今日、会えたことを生まれ変わる前のボクにほうこくして!」

「あ……あぁ、そうだな」


 佑はルルと一緒に、犬だったときのルルの墓前で手を合わせた。ルルはイヌ娘に転生してからの佑の様子は知らないので、佑がお墓の存在を忘れていたことなど知る由もなかった。いや、知ったとしても責めなかっただろう。

 それよりもルルは、佑と再び出会えたことに喜びを感じていた。また佑と一緒に暮らせるという期待に胸をふくらませていた。

 しばらく手を合わせていたルルが祈るのを止め、佑の方を振り向くと


「たすく!」

「ん?」


 ルルは佑の目を見つめるとニコッと微笑みながらこう言った。



「今日からボクがルルだよ!」



 佑はしばらく沈黙したあと


「あぁ……わかった」


 とりあえずこのルルという少女を信じてみよう……そう思った。


「なぁルル、もう夜遅いから家に入ろう」

「うん、久しぶりの家の中だね」


 今まで玄関にあった「いつでもドア」のせいで中に入れなかったルルはワクワクしていた。そういえばドアはどこに移ったんだろう……佑はそんな疑問を持ちながらドアを開けると、二人は久しぶりに家の中へ入った。


(そういや……ずっとトイレ行ってないな)


 佑はそう思い出して真っ先にトイレへ向かった。もちろん元住んでいた家だから場所はわかる。トイレに向かうと、ドアがパステルグリーンになっていた。


「……」


 佑はドアを静かに開けると中に向かってこう叫んだ。


「飯田さーん! ドアの場所変えてくださーい! じゃないと今度から用を足す度に()()()()のトイレを借りることになりますよー!!」



 数秒後……ドアは別の部屋へ移動した。


「ルルだよ! さいごまで読んでくれてありがとー! まだ続くよ!」

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