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FJC第4話「ボクの家だよ!」

「たすくーっ!!」

「えぇっ!?」


 ドアをこじ開けて佑に飛びついてきたのは……ルルと名乗る少女だった。


「えっ何で!? キミは家に帰ったんじゃなかったの?」

「うん! ここがボクの家だよ! ()()()()()のたすくの家がボクの家だよ!」


 佑はワケがわからなくなっていた。なぜこのルルと名乗る少女がアパートの場所をわかったのか? なぜ執拗に佑に近付くのか? それと……


「な、なぁ……キミは交番(あそこ)からどうやってここに来たんだ?」

「うん、ボクがたすくに会いに行くって飛び出そうとしたらあの警察官(オジサン)に押さえつけられたんだよ。だから頭にきてオジサンに咬みついてから、たすくのニオイとフライドチキンのニオイをたどってここまで来たんだよ! ねぇたすく! フライドチキン食べようよ!」

「うわぁ、犯罪者だぁー! 傷害罪と公務執行妨害罪だぁ-!」


 このままでは自分まで犯罪者の片棒を担ぐ……なぜかそんな罪悪感を感じた佑は焦った。これはどうにかしないと……しかしまた交番に行ったら今度は自分までトラブルに巻き込まれるのではないのか……?

 そのとき佑は思い出した。交番で警察官が、ルルと名乗る少女に「生徒手帳を見せて」と言っていた。この子に疑われることなく生徒手帳を見せてもらえば家の住所や電話番号がわかるはず。そしたら仕方ない、自分が家まで送っていこう……佑はそう考えた。


「な……なぁキミ」

「んーとぉ……さっきから気になってたんだけどぉ、ボクの名前はキミじゃなくてルルだよぉ」

「あ、あぁ……ルル……さん、あのさぁ……生徒手帳って持ってる?」

「うん、持ってるよ! はい!」


 ルルと名乗る少女は何の疑いも持たず佑に生徒手帳を渡した。佑は拍子抜けしたがすぐに手帳の中身を確認した。

 住所は書いてあったが電話番号は記載されていなかった。これじゃ親御さんに連絡が取れない……佑は悩んだが、


(あ、そういえば今どきの中学生ならスマホ持っているんじゃ……)


「あ、ルル……さん、スマホは?」

「何ソレおいしいの? フライドチキンよりおいしいの!?」


 聞くだけ無駄だった……そういえばこの子はお金という物を知らなかったんだっけ? いったいどういう育ち方をしたんだろう? 佑は今まで自分が知り得た常識が立て続けに覆され混乱していた。


(仕方ない、アポなしで直接この子を家まで届けることにしよう!)


「ねぇねぇたすく! またフライドチキン食べに行こうよぉ」

「そ……そうだな、じゃあ食べに行こうか?」

「やったぁー」


 佑は車のキーを手にすると外に出て部屋にカギをかけた。



 ※※※※※※※



 佑とルルと名乗る少女はアパートの近くにある月極駐車場にやって来た。佑は車を持っている。公共交通機関が極端に少ない地方都市では通勤に車が必需品だ。


「フッライドチキン♪ フッライドチキン♪」


 完全にフライドチキンを食べに行くと信じているルルと名乗る少女を助手席に乗せ、佑はメモした住所をカーナビに入力した。


『音声案内を開始します。目的地までおよそ五十キロメートル、一時間十分ほどかかります』


(やっぱり……おかしい!)


 佑はルルと名乗る少女の生徒手帳の住所を見たとき不思議に思っていた。明らかに通学できる場所ではなかったのである。佑はルルと名乗る少女に聞いてみた。


「な、なぁ……もしかしてキ……ルルさんは寮から通ってる?」

「りょう? 何ソレおいし……」

「いや食べ物じゃなくて……お友だちと同じ家から学校に行ってるの?」

「ううん、ママの家だよ! 手帳に書いてあるのはママの家だよ!」


(母親がいるのか? それにしてもこの場所って……)


 佑は半信半疑であったが、生徒手帳に書いてあった場所に車を走らせた。



 ※※※※※※※



『次の交差点を右に曲がります』


 カーナビの音声案内通りに佑の車は進んでいた。


(やっぱここか……イヤな予感が的中したな)


 佑の車は、交差点を右折すると樹海の中にある一本道に入った。ここからは周囲に建物も街灯もない、うっそうとした森の中を走っている。


(こんな所に家なんてあるのか?)


 やはりルルと名乗る少女の住所はウソだったのか? 佑がそう思いかけたとき


『目的地です。音声案内を終了します』


「えっ!?」


 カーナビが目的地に到着したと告げた場所……それまで建造物など全くなかった樹海の中に突如として、車ごと入れる大きな鉄柵の門が目の前に現れた。その奥には……迎賓館のように大きな洋館が、樹海の中で怪しげにそびえたっていた。


「こ……これ、マジか?」


 これがこのルルと名乗る少女の家だとはにわかに信じられなかった。佑はただ唖然とした顔でこの洋館を眺めていた。


「おっおい、ルル……さん、この家って……」


 本当にここで間違いがないのか、助手席に座っているルルと名乗る少女に聞こうとした。だが……


「zzzzz……」


 ルルと名乗る少女は完全に寝ていた。


(困ったなぁ……これ入っていいものか……)


 佑が悩んでいると


 〝ギギギギギィー〟


 大きな音を立てて巨大な門扉が勝手に開いた。そして……


 〝どうぞ、お入りください〟


 佑の脳内に何か声のようなものが聞こえてきた。佑は驚いたが、そのまま謎の声に従って車を走らせた。

 玄関の前に車を停めた佑は、隣で寝ているルルと名乗る少女を起こそうとした。


「おっおい、起きろ」

「う~ん……フライドチキンは~?」


(コイツ、どんだけ食い意地張ってやがる……)


 無理やりこの少女を揺すり起こすと交番の警察官みたいに咬みつかれて危険だと察知した佑は、両手を〝パンッ!〟と叩いて大きな音を出した。

 するとルルと名乗る少女の全身がピクッとなり、ツインテールの髪の毛が横に広がって目を覚ました。


「あったすく! フライドチキンは? もう食べちゃった!?」

「オマエどんだけ食い意地張ってんだよ……着いたぞ!」


 周囲を見回したルルと名乗る少女は


「あれ? ここ、ママの家じゃん! ボクの家、ここじゃないよ」

「何言ってんだ! 生徒手帳に書いてあった住所はココだよ! ここがキミの家だろうが!?」

「えぇ~、ボクはご主人さまが見つかったからここから出ていくんだよぉ!」


 何をワケわからないことを……この期に及んでも家に帰ろうとしないルルと名乗る少女に対し、佑はイライラがピークに達していた。こうなったら「事案」になってもいいから引きずり出してでも車から降ろそう……そう思ったとき、


「ルルお嬢さま、お帰りなさいませ」


 見た目、六十歳は越えているだろうか……燕尾服をきちんと着こなした白髪の紳士が車の前にやって来た。


「あぁ飯田さん! ただいま……じゃあないんだよなぁ……」

「どうされました? ルルお嬢さま……それと、こちらの方は?」


「あっ、この人はねっ、たすくだよ! 見つかったんだよ!」


「おっおぉ……何と! 和戸 佑様でいらっしゃいますか!?」


 ルルと名乗る少女に「飯田」と呼ばれたその老紳士は、なぜか佑のフルネームを知っていた。そして驚きの声を上げたあと


「和戸様、これは大変失礼と御足労をおかけいたしました。ささっ、中へお入りくださいませ……大奥様がお待ちしております」

「えっ?」


 佑は、ルルと名乗る少女を送り届けてすぐに帰ろうと思っていたのだが……このおかしな状況と、この頭のおかしな少女の母親がどんな顔をしているのか知らないまま帰ったら一晩中悶々とした時間を過ごすだろう……と考えて、この飯田という老紳士とルルと名乗る少女の後に付いて屋敷の中に入った。


「ルルだよ! さいごまで読んでくれてありがとー! まだ続くよ!」

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