FJC第3話「なにコレおいしいっ!!」
「ねぇたすく! すっごくいいニオイがするんだけど……なにアレ!?」
佑はルルと名乗る少女を家に帰そうとアパートと反対方向に歩き出した。しばらく進むと買い物袋をぶら下げた若い女性とすれ違い、ルルと名乗る少女はその女性に向かって鼻をクンクンさせた。
女性がぶら下げていたのはチェーン展開しているフライドチキンの袋だった。
「あぁ、あれはフライドチキンだろ」
「いいなぁー、とってもおいしそうなニオイがする! アレ食べたい!」
「えっ、この先に店があるけど……キミはお金持ってるのか?」
「んっ? なにソレ?」
(おいおい、まさかお金を知らないワケじゃねーだろうな!?)
「わかったよ」
悪意があってお金がないフリをしているのか、あるいは本当にお金を持っていないのかはわからないが、これで素直に帰ってくれたら……と、佑はこの少女にフライドチキンをおごってやることにした。
佑自身もお腹が空いてきたので店内で食べようということになった。佑はフライドチキンを2個とポテト、ドリンクのセットを二つ注文した。ドリンクの種類を聞かれたので佑がアイスコーヒーを、ルルと名乗る少女はコーヒーやお茶、コーラが飲めないと言うのでオレンジジュースを注文した。
二人はイートインスペースのカウンター席に座った。フライドチキンを目の前にして、ルルと名乗る少女はひとしきりクンクンとニオイを嗅いでいたがなかなか食べようとはしない。
「ねっ、ねえねえ! こっこれ……食べていい?」
「あ……あぁ、食べていいけど……」
「いただきまーす」
と、佑の「食べていい」という言葉を聞いてから、ルルと名乗る少女はチキンにガブリと食らいついた……まるで躾けられた犬のようだ。
「なにコレおいしいっ!!」
「えっ、フライドチキンを食べたことないの?」
「うん、ふだんボクはサイエンヌダイエットを食べてるんだよぉ」
「ブーッ!!」
佑は飲んでいたアイスコーヒーを吹きだした。それは有名なドッグフードの名前で、佑は飼っていたルルという犬にも与えていたので名前を覚えていたのだ。
ルルと名乗る少女はうれしそうにフライドチキンを食べていた。初めは
〝パリッ、パリッ〟
と軽快な音をたてていたがそのうち……
〝バリッ! ボキッ!〟
「え?」
佑は驚いてフライドチキンを食べている手を止めた。
「おっおい! キミ、もしかして……骨ごと……食べてる?」
「え? ちがうの?」
「違うよ! それは食べちゃダメ!」
「えぇ~そうなのぉ? おいしいのに……」
※※※※※※※
「あぁ、おいしかったぁー」
ルルと名乗る少女は満足げな顔をして店を出た。まさか骨まで食うとは思ってもいなかったので佑は呆気にとられていた。
「じ、じゃあもういいよな? 気を付けて帰るんだぞ」
「うん!!」
ゴハンもおごってやったんだし……これで満足して帰ってくれるだろう。そう信じて佑はアパートに帰ろうと歩き出した。
すると、ルルと名乗る少女も同じ方向に歩き出した。おかしい! 確か他の女子中学生と帰ったときは逆方向だったはず! 佑は聞いてみた。
「な、なぁ……キミの家ってこっちの方向だっけ?」
「うん! たすくの家だよ! ご主人さまの家がボクの家だよ」
〝……プチッ!〟
佑は怒りが爆発する寸前だった。だが女子中学生相手にマジギレしても大人げないと思った佑に、ある考えが浮かんだ。
「そ……そうか、じゃあ家に帰るか」
「うん!」
佑とルルと名乗る少女はアパートとは別の方向に進んだ。
※※※※※※※
「わかりました、じゃあこの子はこちらで保護しますので……ご協力ありがとうございました」
佑とルルと名乗る少女は交番にいた。住所を聞いてもまともに取り合わないだろう……と思った佑は「道に迷った中学生がいる」と言ってルルと名乗る少女を交番に連れて来たのだ。
「君、この制服は土岐井中だね? 生徒手帳持ってる?」
交番の椅子に座らされたルルと名乗る少女はきょとんとした顔で首を傾げ、まるで頭の上に「?」マークが付いているようだった。
「じゃあお願いします」
警察官にそう言い残して佑は交番を出た。
「あれ? たすくどこ行くの? ここたすくの家じゃないの?」
「そうだよー、ここはあのお兄さんの家だよー。今ちょっと、お兄さんは用事があるからお出かけするんだよー」
「そうなんだ! いってらっしゃーい」
ルルと名乗る少女は警察官のウソ話に乗せられていた。初め、大人の男が制服姿の女子中学生を連れて来たので警察官は身構えたが、やがてルルと名乗る少女から次々と繰り出される意味不明な発言に「これは普通じゃないな」と思ったようだ。
(やっと自由になったぁー!)
帰り道……佑は見ず知らずの中学生にフライドチキンをおごって損したが、それでも清々しい気分だった。夕食を済ませていた佑は交番を出るとまっすぐアパートに帰った……外はすっかり暗くなっていた。
※※※※※※※
アパートに帰った佑はすぐにテレビをつけ、テレビの音声をBGM代わりにして今日買ってきたマンガを読んでいた。すると、
〝ピンポーン〟
と玄関チャイムが鳴った。
「はーい!」
(誰だろう? こんな時間に……)
この時間に訪問してくる人物に覚えがない佑は、不審に思いながらも玄関のロックを開けた。ドアを少し開けた瞬間、
「たすくーっ!!」
「えぇっ!?」
いきなりドアをこじ開けて佑に飛びついてきたのは……交番に預けたはずのルルと名乗る少女だった。
「ルルだよ! さいごまで読んでくれてありがとー! まだ続くよ!」