FJC第28話「ねぇねぇたすくー!? ルルだよー!」
四日もかかってやっとルルの誘拐に成功した「師匠」と「与太郎」のポンコツコンビは、ルルを連れて悪人御用達の「使われていない倉庫」へとやって来た。
椅子の背もたれへ後ろ手に縛られたルルは、自分が誘拐されたと……いや、誘拐の概念すらわからないので頭の上に「?」を表示したままキョトンとしていた。ルルは恐怖心など微塵も感じていない。
「ねーねーおじさん! 唐揚げは? 唐揚げもっと食べたーい!」
師匠はルルを誘拐する際フライドチキンで釣ろうとしたが、佑に「フライドチキン持っている人について行ってはいけない」と言われていたルルに拒否された。
そこで師匠はとっさに「唐揚げ」と言い直したため、ルルから「唐揚げ」を要求されていたのだ。
「あぁっ!? そんなもんねーよ!」
だが「釣った魚に餌はやらぬ」……誘拐に成功した師匠はルルに「唐揚げ」を与える気など全くなかった。
「えぇっ、ないの!? じゃあ、ほかの人を呼べばもってきてくれるかなー?」
「はぁ? 他の人だと?」
するとルルは「すぅーっ」と大きく息を吸い
「ワンッ!!」
と、常識ではあり得ないほど大きな声で叫ん……吠えた。倉庫内にはとても大きな「ワンッ……ワンッ……ワンッ……」という残響がして、建物の柱がビリビリッと震えた。その後もルルは
「ワンッワンッ……ワンッ!!」
と誰かが「唐揚げ」を持ってきてくれると信じ吠え続けた。
(なっ……なんつーでけぇ声だ!)
師匠と与太郎は耐えきれず耳を塞いだ。このままでは近所や通りがかりの人に通報されてしまいかねない。
……数分後。
「んぐ~っ! んんん~!?」
「ふぅ、一時はどーなるかと思ったぜぃ」
師匠はルルの口に猿ぐつわをして黙らせた。だが、
「ねぇねぇおじさん! これじゃ唐揚げ食べられないよ」
「うわっ、いつの間に!?」
ルルはあっという間にロープと猿ぐつわをほどいてしまった。
「えっこれ、何かの遊びじゃないの? 簡単にほどけたよ! ごほうびに唐揚げくれるんじゃないの?」
「やんねーよ! やるワケねーだろ!!」
とんでもない馬鹿力! そしてルルは食べ物のことになるととても執念深い。
「そうなの? じゃあもう一度呼ぶよ……すぅーっ」
「わわわかった! 唐揚げやるから……だから騒ぐな! おぃ与太郎! 金渡すから今からスーパー行って特売品の唐揚げ買い占めてこい」
「えっ師匠! フライドチキンじゃないっすか?」
「バカッ、どーせコイツは唐揚げとフライドチキンの区別がつかねぇんだ! だったら安売りの唐揚げでも大量に食わせとけ!」
※※※※※※※
「むふふ~! 唐揚げおいひぃ~!!」
ルルは大量の唐揚げ(百グラム当たり百二十八円・税抜き)を食べながら満足そうな表情を浮かべていた。その間に二人はルルのカバンをチェックしていた。
「おかしいなぁ、さっきからコイツのカバンの中身……スマホもガラケーもねぇ」
二人は身代金要求の電話をするためルルのスマホを探していたのだが、どこを探しても見つからなかった。
「おい、オマエ」
「ボクはオマエじゃないよ」
「えっと、じゃあルル……」
「ルルはボクだよ、おじさんじゃないよ」
「知ってるわ!」
「えっ師匠ってルルって名前だったんすか?」
〝ゴツンッ!〟
「ややこしくなるからオメェは口をはさむな!」
「痛いっす!」
(あーめんどくせぇ)
イライラを押さえながら師匠はルルに聞いた。
「おい、ルルはスマホって持ってないのか?」
「スマホ? すっぱいタコ……」
「それは酢ダコ!」
「タコ酢とどうちがうの?」
「酢ダコは酢につけたタコ! タコ酢はタコを使った酢の物!」
「師匠! てことはタコスには蛸が入ってるっすか?」
〝ゴツンッ!〟
「だーかーらー! オメェはしゃべるな!」
「ひぇぇっ!」
「スマホは学校にもっていったらダメなんだよー」
「それを先に言え!」
「あと、ボクはスマホの使い方わからないからもってないよー」
「それも先に言え! ったく、何だったんだ酢ダコのくだりは……」
三人組コントのツッコミ担当になった師匠はルルにたずねた。
「なぁ、オマエの家族って誰なんだ?」
「うん、たすくだよー! 飼い主だよ」
(結局オマエでも通じるじゃねーか! てか飼い主って何だよ……)
「そのタスクって人に連絡する方法はないのか?」
「んーとね、呼べば来るとおもうよ! すぅーっ……」
「それは止めろーっ!! それ以外の方法はないのかーっ!?」
師匠は慌ててルルの口をふさいだ。
「んーと、たすくにだったらこれを使うといいよ」
と言ってルルは生徒手帳を師匠に渡した。師匠が手帳のページをめくるとそこには「緊急連絡先」として佑の携帯電話番号が書かれていた。
(これだ……)
師匠はほくそ笑みながらスマホを取り出した。さっそくかけてみると……
『おかけになった番号は現在おつなぎすることができません』
「おっおい、何でつながらないんだよ!?」
すると与太郎が
「あーそれ、非通知だからじゃないっすか?」
「ヒツウチ……?」
「そうっす! そのスマホ、初期設定で非通知に設定してあるっす」
いつもはアホな与太郎がなぜかスマホには詳しかった。だが……
「電話番号の前に『186』をつけるといいっすよ」
「そ、そうか……」
『プルルルル、プルルルル』
「おぉつながった! でかしたぞ与太郎」
「いやぁ、それほどでもないっす」
佑のスマホにつながった……電話番号が表示された状態で。
だがポンコツ二人組はそのことを知る由もなかった。
※※※※※※※
(ルルのやつ、遅いなぁ……)
その頃、ルルの帰りが遅いことに気づいた佑は心配していた。
(アイツ、今度はどこに迷惑をかけているんだろうか……)
ルルの身……ではなく、周囲の被害状況を心配していたのだ。そこへ、
〝♪~♪〟
佑のスマホに着信があった。見知らぬ番号だったが佑はすぐに電話に出ると
「申し訳ございません!!」
スマホを耳に当てたまま深々と頭を下げた。
『えっ、えぇっ!? 何のことだ』
「ウチのルルがそちらにご迷惑をおかけしてしまったのですよね? 今すぐ謝罪に伺いますのでそちらの住所を教えていただけないでしょうか」
『えっ……ちょっと待っ…………おい、オマエ(ルル)は一体何やって……えっ、おい! 勝手に電話を取るな……わひゃあ!!』
電話の向こうでガタガタッと物音がしたと思ったら
『ねぇねぇたすくー!? ルルだよー!』
ルルが電話に出た。
「おいルル! 何やってんだよこんな時間まで」
『あのねー、知らないおじさんに唐揚げいっぱいもらった!』
「知らない人から唐揚げもらったらダメだろ!!」
『えーっ、それってフライドチキン……』
「一緒だ!」
『くぅ~ん……〝ガタッ、ゴソゴソッ〟おいこらスマホ返せ!』
するとルルからスマホを奪い返した師匠が
『おい、オマエがタスクだな? ルルの……その、えーっと……』
「飼い主です」
『かっ、飼い主って何だよ!? つっつまり……そういうことだ』
「あぁこれは……ウチのルルがまたお店の唐揚げを勝手に食べてしまったようで申し訳ございません。お代は支払いますのでそちらのご住所を……」
『ちげーよ! 唐揚げ代はどーでも……いや、それも欲しいが身代金をよこせって話だこのヤロー!』
「みっ……身代金?」
『そーだ! オレたちは誘拐犯なんだよ』
「ウチのルルはそんなに面白くありませんよ」
『愉快犯じゃねーよ!!』
ある意味、愉快犯である……ルルも含めて。
『オマエのペット……じゃなかった娘を誘拐したんだよ!! 返してほしかったらな……えーっと、おい与太郎! 身代金の希望金額はあるか? 何っ……一兆億千万円? そんな金額があるかバカッ! じゃあ熊八師匠に任せる? そーだな……じゃあ一億円だ! 一億円用意しろ! 受け渡し場所は……また後で指定する。いいか! このことは警察に言うなよ……まぁ言ったところで電話番号も名前もわからんだろうがな! じゃあな……ブチッ』
「たっ……大変だぁ~!!」
佑は着信履歴に残された「電話番号」と、「与太郎」「熊八師匠」という名前をメモしてから警察に電話した。
「ルルだよ! さいごまで読んでくれてありがとー! まだまだ続くよー!」