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FJC第27話「そっか、フライドチキンじゃないんだ」

 そのまた翌日……


 二日連続でルルの誘拐に失敗した師匠と与太郎のポンコツ誘拐犯コンビ(っていうかコイツらまだ誘拐に成功していないのでただのポンコツ)は、ルルを車内に上手く誘い込むための作戦を練り直すことにした。


「師匠! 今日は場所変えたっすね」

「あぁ、今日は(誘拐を)実行しねぇ……ヤツの行動を観察して自分から車に入ってくれる方法を考えるんだ」


 二人は通り沿いにある公園の生け垣から顔だけを出して、歩道の様子をうかがっていた。歩道からは姿が隠れているが公園からは丸見え……二人の後ろ姿に近づこうとした子どもを母親が引き止めている。


「でも師匠! 何でこの場所っすか?」

「いい質問だ与太郎! それはな、目の前の道路に横断歩道と押しボタン式の信号があるだろ。いつもヤツはここで信号待ちの間に、友だちと一緒に会話しているんだ。そこで友だちとの会話からヤツの弱点というかヒントを探るんだよ!」

「えぇー、それだったら尾行すれば……」


 〝ゴツンッ!〟


「オメェがドジだからそれができねぇんだよ!」

「痛いっす! 何でオイラのせいなんすか!?」

「前にターゲットの女子高生を尾行し(つけ)ていたとき、オメェが転ぶわ電柱にぶつかるわ散歩中の犬にマーキングされるわで大騒ぎしやがって結局女子高生に見つかって逃げられちまったんじゃねーか!」


 犯罪行為を助長するつもりはないが、コイツらは誘拐する気があるのだろうか?


 と、そこへ二人組の(J)(C)学生がやってきた。


「アッジアジウッニウニカーンパチがー、炙りで百円うっれしいなー♪」

「ルルちゃん、人前でそういう歌はやめて! お腹空くし……」


 ルルとその友だちのチャコである。


「師匠……晴れてるけどオイラ回転ずし行きたいっす」

「しっ! 黙ってろ」


 ポンコツコンビが頭隠して尻隠さず状態で身を潜めていると、ルルがカバンからある物を取り出した。


「ちょっルルちゃん! まだそれ持ってんの!?」


 ルルが持っていたのは……二匹のネズミの死骸であった。


「うん! おなか空いたから()()()にしようと思って……」


(いっ……今どきの(J)(C)学生はネズミを食うのか!?)


 ポンコツどもの脳内に誤った情報がインプットされた。


「やめなさい! 人としてそういうのは食べちゃダメ!」

「えー、何でー!? っていうかぁ……」


 急にルルが怒った表情になり、チャコを睨みつけて指差した。


「チャコちゃん! 元はといえばこれって今日、体育倉庫の掃除中にチャコちゃんが捕まえたネズミさんじゃないかー!」

「うっ!!」


 ルルに怒鳴られたチャコは思わずたじろいだ。


(いっ……今どきの(J)(C)学生ってネズミを捕るっすか!?)


 ポンコツどもの脳内に再び誤った情報がインプットされた。


「そそっ……それはぁ~、つい()()っていうかぁ……」


 チャコは必死に照れ隠しをしていた。そう、チャコは猫の生まれ変わりの「ネコ娘」、ネズミや小動物を見ると本能的に体が動いてしまうのだ。


「捕まえたものは食べなきゃバチが当たるんだぞー!」

「そっ、そんなこと言ったって……あっそうだ!」


 教養など皆無のはずが、なぜかルルは天罰(バチ)などという言葉を持ち出してチャコに迫る。返す言葉が見つからず追い込まれたチャコは、その場しのぎでルルにある提案をした。


「ルルちゃん、フライドチキン食べる? 私がおごってあげる」

「えっホント!? ボク、フライドチキンだーいすき!」


(んっ!? コイツはフライドチキンが好物なのか?)


「だからルルちゃん! 食べたかったらそれは捨ててちょーだい!」

「うん、わかったよ」


 ルルは二匹のネズミの死骸を放り投げた。投げた先は……もちろん!


 生け垣から顔だけを出して、ルルたちの様子を覗き見していたポンコツ誘拐犯の顔面に……顔だけを出しているので防御する(すべ)はない。


「「○▲×◆〒☎㈱※~!!」」


 見事に口でネズミをキャッチした二人は声を上げることができず、バラの生け垣から顔を引き抜くとそのまま逃げ去っていった。だが、


(フライドチキンか……これは使えそうだ)


 顔面キズだらけになりながらも、師匠は収穫を得ることができ満足顔だった。


「じゃあチャコちゃん、行こ! あっ、でもダメだぁ……」

「えっ、何で?」

「たすくがね、()()()()()からフライドチキンもらっちゃダメって言ってた」


 ルルは以前、(たすく)から言われたことをしっかり覚えていた。


「おいっ、私は知らない人なのかーっ? 友だちじゃないのかーっ!?」



 ※※※※※※※



 ほんでもってまたまた翌日……


「かっら揚げモモさっ、ムネさっ、あとどこさっ、手羽元さっ♪」


 毎度毎度ふざけた替え歌を歌いながら、チャコと別れたルルが肥後へ……じゃなかったひとりで下校していた。すると、


「くんくん……ふむっ!?」


 イヌ並みの嗅覚で何かの匂いに気がついた。


「フッ……フライドチキンだぁ~っ♥♥」


 ルルは一目散に匂いがする方へ走っていった。


「えー、フライドチキンの試食はいかがですかぁー!?」


 そこにいたのは見るからに怪しい変装をした師匠だ。隣にはワンボックス車、運転席には与太郎が乗っている。


「あっそこのお嬢さん、フライドチキンのご試食はいかがですかな?」

「なにこれ!? 食べていいの?」


 ルルの目が今日イチの輝きを見せた。


「もちろんです、試食ですからお代は結構ですよ」

「? お代ってなーに!?」


 ルルの脳内に「お金を払う」という一般常識は初めから無い。


「さ……さぁさぁ、こちらに入ってフライドチキンをお受け取りください」


 車の後部座席にはフライドチキンが置かれていた。師匠がルルを車内に誘い込もうとしたそのとき、


「あっ!」


 車内に入ろうとしたルルが突然立ち止まった。


「どうされましたか? お嬢さん」

「たすくがね、知らない人からフライドチキンもらっちゃダメって言ってた」


(――げっ!)


 あともう少しで車内に誘い込めると思っていたのに……佑の言いつけを愚直に守ろうとするルルの性格によって全ての計画が無駄になる。フライドチキン代も無駄になる。慌てた師匠は、


「あっ、あぁ失礼! これはフライドチキンではなくかっ……唐揚げですよ! 私たちは唐揚げの試食をやっております」


 思わず「フライドチキン」を「唐揚げ」と呼び方を変えた。もちろん実物はフライドチキン、しかも某チェーン店から買ってきたものを箱のまま車内に置いてあるだけだ。こんな見え透いたウソが……


「そっかぁ、これフライドチキンじゃないんだぁ!」


 ……相手によっては通用する。


「そ……そうです、唐揚げですよ。お嬢さん、唐揚げはお好きですかな?」

「うん! 唐揚げだーいすき!」

「そうですか……それじゃ、こちらへ」

「わーい!」


 ルルが車内に入って唐揚げ……じゃなかったフライドチキンに手を出すと、師匠は静かに車のスライドドアを閉めてロックをした。そして静かにほくそ笑むと、


「ふっ……()()()()ぜ」


 今まで三回も失敗した事実を、まるで無かったかのようにするセリフを呟いた。


(よし、行くぞ!)


 師匠は与太郎に目で合図を送るとエンジンがかかり車は発進した。車が走り出したことに気づかないくらい、ルルは無我夢中で唐揚げもといフライドチキンだあー紛らわしい! にむさぼりついていた。


 ルルを見つけて四話分……約一万二千文字にしてやっと師匠と与太郎は誘拐に成功した。長かったが「Dre●ms」の試合よりは早い展開であった。


「ねぇねぇ、唐揚げのおかわりは?」

「あーっ! コイツ、骨まで食いやがった!」


 ルルを乗せた車は、お決まりの「使われていない倉庫」へ向かっていた。

「ルルだよ! さいごまで読んでくれてありがとー! まだまだ続くよー!」

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