FJC第26話「おじさん、いいものあげるね!」
佑とルルは、ルルの友人・チャコを連れて市内の屋内温水プールへ出かけた。そこには偶然たまたま計らずも思いがけず二人組の誘拐犯が居合わせていた。
誘拐犯のうち「師匠」と呼ばれる男は、ルルが樹海の大豪邸「天神家」の娘だと気付くとルルを誘拐しようと企てる。だが、ルルのせいでプールを出禁になった佑とチャコの「八つ当たり」に遭いルルと接触することはできなかった。
だが師匠はあきらめなかった。せっかくの「金づる」を見過ごすわけにはいかない……そう思った師匠は今のところ全く役に立たない相方「与太郎」を連れて再びルルに接近することにした。
果たして師匠はルルに接近できるのか? それと与太郎は何か役に立つのか? 二人の新たな挑戦の幕が切って落とされた。
……って、誰が主役だよ?
※※※※※※※
「おーい、ルル!」
朝、学校に行こうと玄関に向かったルルを佑が呼び止めた。
「なーに!?」
「最近この辺で不審者が出没してるらしいから気をつけろよ」
「フシンシャ? 何それおぃ……」
「食いもんじゃねーよ」
「くぅ~ん」
「とにかく……知らない人について行ったらダメだぞ」
「うんわかった! あっでも、フライドチキン持ってる人はいいんだよね?」
佑はルルの頬を手で押さえつけると
「どーしてそーいう発想になる!? フライドチキン持ってる人には絶対について行くなよ!」
「ふひゅ……ふぁ、ふぁふぁひゃひょ」
※※※※※※※
その日の午後……
静かな住宅街に路上駐車している不審な車が一台……中に乗っていたのはあの愉快な誘拐犯の二人だ。
「師匠! 本当にここをあのツルとかいう娘が通るっすか?」
ポンコツの弟子・与太郎が師匠に話しかけた。
「あぁ間違いねぇ……オレはこの一週間ずっと天神ルルの通学路を調べていたんだよ。で、ここが狙うのに最適な場所だってことがわかった」
「でも通学路って長いっすよ、何でここがサルを狙うのに最適なんすか?」
「ヤツはこの角で友だちと別れてひとりで帰る。しかもここは人通りが少ないから声をかけるのに最適なんだよ」
「へー、一週間もシールのこと調べて……師匠って粘着質っすね!」
〝ゴツンッ!〟
「仕事だよ仕事!! それとあの娘の名前はルルだ! 何だよさっきからツルとかサルとかテープとか……ちゃんと覚えろ!」
「いやテープじゃなくてシール……」
「どっちでもいい! ってゆーかオメェはこの一週間何してたんだよ!?」
「オッオイラもちゃんと仕事してたっすよ」
「何だよ、闇バイトか?」
「ソバ屋の出前……」
「正規のバイトじゃねーか!」
「毎日警察署にカツ丼届けてたっす!」
「顔バレすんじゃねぇか!! つーかオレたち捕まったらそのカツ丼食わなきゃなんないんだぞ!」
「えっ、やったぁ! オイラあのカツ丼食ってみたかったっす! あっ、あと山梨だと『煮カツ丼』って注文しなきゃいけないっす! カツ丼って注文するとご飯の上にキャベツとカツがのったソー……」
〝ゴツンッ!〟〝ゴツンッ!〟〝ゴツンッ!〟
「オメェひとりでカツ丼でも煮カツ丼でも食ってろ!」
「痛いっす! そんなにバカバカ叩かれたらゴツになるっす」
「何言ってんだオメェは……んっ、来やがった!」
ベタすぎるコントを演じている二人の前に、ルルがひとりで歌いながら現れた。
「ささみとつくねとぼんじりと~すなぎもなんこつもも食べた~い♪」
「なっ……なんつー歌だ」
「師匠! オイラひな人形の前で焼き鳥が食いたくなってきたっす!」
師匠は車を降りた。師匠がルルを言葉巧みに車の中へ誘い、乗り込んだ瞬間に与太郎が車を運転してその場を去る……という手筈だ。
「あっ、そこのお嬢さん」
師匠がルルに声をかけた。するとルルは
「オジョウサン? ボク、ルルだよ!」
(うわぁコイツめんどくせぇ)
師匠は苛立ちを抑えながらルルに話しかけた。
「ちょっと道を聞きたいんだけど……この近くに国玉さんって家あるかな?」
するとルルのツインテールがピンッと持ち上がり
「あっ知ってるよ、新しくできた家だよね? おじさん、ついてきて!」
と言うや否やルルは全速力で走り出した。
「えっ、えぇええええええええっ!?」
ルルの突拍子の無い行動に師匠は慌てた。その家は歩いて行くには遠い場所。予定ではルルを車に乗せてそのまま誘拐するつもりだったのだが……。
師匠はルルを追いかけ全力で走り出したがすでにルルは遥か前方……師匠は車で待機している与太郎に大声で、
「おい与太郎! こいつは間に合わねぇ! オメェ車で追いかけろ!」
「うわっ師匠! そんなに大声出さなくてもここにいるっす!」
何と与太郎は車を降りて師匠の隣にいたのだ。
「バカ野郎テメェ! 何で降りてんだよ!? しゃあねぇ、追いかけるぞ!」
二人はルルを追いかけたが……時すでに遅し。
「はぁ、はぁ……たくっ、なんて速さだ……はぁ」
完全にルルを見失った……作戦は失敗。
その頃……
「あれぇ、おじさんおっそいなぁ」
国玉さんの家の前でポツンと立つルルの姿があった。
「しょーがないなぁ、せっかくおしえてあげたのに……このまま帰るのもったいないからピンポンならして帰ろうっと!」
……よい子は絶対マネしないでね!
※※※※※※※
翌日……この二人(特に師匠)はあきらめていなかった。
「いいか与太郎! オメェは車から降りるな! 昨日は道を聞いたのが間違いだった……だから今日は移動なしで車に誘い込む方法でいくぞ!」
「で、師匠! 何でそんな変装してるっすか?」
師匠はサングラスに付け髭、さらにシルクハットに燕尾服という格好だ。
「バカ野郎! 二日続けて同じ人間が声をかけたら不自然だろ」
職務質問確定コーデの方が不自然である。そこへルルが現れた。
「……来たっ!」
「サガリミ~スジカイノミ~ギアラセ~ンマイハチノス~♪」
「師匠! 今度は故郷に帰って焼肉が食いたくなってきたっす!」
「飯テロソングだな……行くぞ!」
師匠はなぜか紙吹雪を持って再びルルに近付いた。そしていきなりルルに紙吹雪をかけると
「おめでとうございます! あなたがこの道路の一万人目の利用者でーす!」
幼稚園児でも引っかからないようなドッキリを仕掛けてきた。
「えっ本当!? やったー! うれしー!!」
よく考えたらレベルの低い者同士のやり取りである。ルルは素直に喜んだ。
「つきましては賞品をお渡ししたいのでこちらの車の中に……」
師匠はルルを車の中へ誘導しようとした。ところが……
「ありがとー! じゃ、ボクからもプレゼントあげるね!」
「えっ?」
ルルの意味不明な言葉に師匠が戸惑っていると、ルルはカバンの中をゴソゴソとまさぐった。するとカバンが怪しげにうごめき出した。
(ん? 何だ?)
師匠が不安になっていると
「はいっ!」
「うわぁああああああああ!」
ルルがカバンから取り出したモノ……それは生きたヘビだった。
「さっき公園でつかまえたんだよ! あのね、これ『マムシ』って言うんだよ」
「毒ヘビじゃねーか! いらねーよ」
師匠は慌てて車に乗り込んだ。
「いらないの? じゃあ運転手さんにあげるね」
と言うとルルは運転席の窓からマムシを放り込んだ。
「うわぁああ師匠! 助けてっす!」
「バカ野郎こっちに投げるな! うひゃぁああ!」
〝ブロロロロ……〟
車内がパニック状態になった車はそのまま走り去った……作戦失敗。
「あれぇ~賞品は? ひどーい、だましたなぁ!」
ルルは無自覚のうちに誘拐犯を撃退した。
果たして彼らはあきらめたのか? がんばれ師匠! めげるな与太郎! 二人の誘拐実行への道は始まったばかりである。
……って、誰が主役だよ?
「ルルだよ! さいごまで読んでくれてありがとー! まだまだ続くよー!」