FJC第24話「おじさんたち何してるの?」
「アイツ……あの『樹海の大豪邸』、天神家の娘だ! 間違いねぇ」
佑とルル、そしてチャコの三人はオープンしたばかりの屋内温水プールにやって来た。するとそこに偶然居合わせた怪しい風貌の男二人……どうやらその内の一人はルルに見覚えがあるようだ。
二人はプールサイドのリクライニングチェアに腰掛け、新聞を読むフリをしながらルルの方をじっと見ていた。
「えっ支障! 『次回の大根底』ってなんっすか?」
「樹海の大豪邸だバカ野郎! 富士の樹海の中にポツンと一軒家があるだろ?」
「あぁ刺傷! あのお城みたいな家っすか?」
「そうだ! 以前あの屋敷を外から物色してたとき……庭で遊んでいた大勢のガキどもの中にアイツがいたんだよ!」
「えっ視床! でもあの屋敷って……ここからずいぶん離れてるっすよね?」
「そうなんだよなぁ、それがちょっと引っかかるが……まぁでも、本物ならコイツはとんでもねぇでっかい仕事になりそうだぜ!」
「はぁ……市章! ところで仕事って何するっすか?」
〝ゴツンッ!〟
「オメェそんなことも知らんで今までついてきたのか!?」
「アイタタ……私娼! 何も殴らなくたっていいじゃないっすか?」
「やかましい! 誘拐だ誘拐! オレたちはプロの誘拐犯だぞ!!」
「えっ死傷! でもオイラはドラフト会議で指名受けてないっす」
〝ゴツンッ!〟
「プロは野球限定の言葉じゃねぇよ! それとさっきから気になっていたんだけどオメェ『ししょう』の漢字間違ってねぇか? 『師匠』だ『師匠』!!」
「えっプロ野球なら師匠じゃなくて監督……」
〝ゴツンッ!〟(←ここから〝ゴツンッ!〟はコピペでお送りします)
「だからちげーよ!」
まるで落語に出てくる親方と与太郎のようなやり取りをしている二人……正体は先日、女子高生を連れ去ろうとして未遂に終わった「誘拐犯」だ。この事件で警察は捜査本部を立ち上げた。ただ、この会話だけでは「愉快犯(本来の意味ではなく愉快な犯人という意味)」と捉えられそうだが……。
「でも師匠、オイラたち誘拐犯って……全然仕事してないじゃないっすか」
〝ゴツンッ!〟
「バカ野郎! そりゃオメェが原因だろうが!」
「……へっ!?」
「この間……金持ちの家の女子高生に声掛けてあと少しで車に連れ込めるってときに、オメェが急に親の年収聞きやがったから怪しまれて警察に通報されちまったんだよ! 通報されちゃマズいから女子高生の腕をつかんだら、大声出されて防犯ブザー鳴らされて……それで慌てて逃げたけど結局警察が動き出して大騒ぎになっちまったんじゃねーか!」
「なぁんだ! 結局は師匠が腕つかんだから……」
〝ゴツンッ!〟〝ゴツンッ!〟〝ゴツンッ!〟
「オメェがヘンなこと聞いたのが原因だ!」
「イタイっす! そんなに殴られたらバカになるっす!」
「オメェはバカの下げ止まりだから心配ねぇ! だからほとぼりが冷めるまでこうやって目立たないように潜伏してんじゃねぇか」
こんなリゾート風プールで「どつき漫才」していたら否応なしで目立ちそうだ。
「だったら師匠! 何もこんなオイラたちに似合わない場所にいなくても……」
落語に出てくる「与太郎風の男」が正論をぶちまけた。
「いいか与太郎、よく聞け」
「へっ? へい!」
あっ……本当に「与太郎」という名前だったんだ。
「与太郎、『転んでもただでは起きぬ』ということわざがある。今オレたちは警察に睨まれて動けない状態だが、だからといって手をこまねいてはいられない」
「へっ?」
「オープンしたばかりで混雑しているこのプール……見てのとおり、女子中高生も大勢来ている。その中には金がありそうな家のお嬢様もいるハズだ」
「ふんふん……」
「つまりオレたちはこの人混みの中で身を隠しながら次の『ターゲット』を物色している……ってワケだ。すると見てみろ! さっそくとんでもねぇ金づる……天神家の娘が居やがった! まさに『ひょうたんから駒』だぜ!」
「なるほど、『コロンでも無料では買えぬ』『冗談から(重音)テト』っすね?」
〝ゴツンッ!〟
「もういい! オメェは何も考えずにオレの言う通りにしてろ!」
そのとき、
「おじさんたち何してるの?」
突然、誘拐犯たちの目の前に一人の少女が現れた……ルルだ。
「うわぁあああっ!」
「なっななな……何だオマエは!?」
男たちが誘拐しようとしているターゲットである。
「ルルだよー! おじさんたちはだーれ?」
すると与太郎が
「オイラたちは誘拐犯っすよ」
〝ゴツンッ!〟
「バカ野郎! 正体バラすな!」
「……愉快班?」
ルルは聞き間違えたが、ある意味正解だ。
「なっ、何の用だ?」
「ユカイなおじさんたちがコントやってるから見にきたんだよー」
「コッ、コントじゃねーよ!」
「漫才っすよ」
「そっかーバンザイさんしょーなんだー……バンザーイ!」
「あぁっボケが一人増えやがった! 漫才でも万歳でもねぇよ!」
即席トリオ漫才が結成されたところでルルが話を変えた。
「ねぇねぇおじさん! おじさんたちは泳がないのー?」
「えっ?」
「いっしょに泳ごうよー! 楽しいよ」
「えっ、いやいや! オレたちは……」
ルルは嫌がる誘拐犯二人組の腕をつかむとプールの方へ引っ張り、誘拐犯を誘拐しようとしていた。すると、
〝ゴツンッ!〟〝ゴツンッ!〟
「どーも! ウチのバカが失礼しましたー!」
「あ……いえいえ」
佑とチャコに一発ずつ殴られたルルはズルズルと引きずられていった。
※※※※※※※
「ふぅ、危なかったっすねー」
「まったくだ……目立っちまうじゃねーか」
もう充分に目立っている。
「それより師匠! さっきから疑問に思ってたっすけど」
「何だ?」
「あの子、ホントに金持ちの娘っすか? あの外見や行動……とてもお嬢様には見えないっす! スク水だったし……」
「それな! それはオレも感じてたんだが……」
というと師匠と呼ばれている男は淡々と語り始めた。
「オレが天神の屋敷を見たのは一度きりなんだが……門と建物の間にメチャクチャ広い庭があってな、そこにガキどもがざっと数えて二十人以上遊んでたんだよ」
「えっ、まるで幼稚園か小学校みたいっすね?」
「あぁ……そしてそのガキどもが変わっていてな、普通にフリスビーやボール遊びをしてるヤツはいいとして……外で見ていたオレの存在に気付いて大声で威嚇してくるヤツ、お互いのケツの臭いを嗅ぎまくっているヤツら……挙句の果てに片足を上げて立ちションしているオスガキも居やがった」
「ま……まるでドッグランっすね?」
「異様な光景だったよ……で、アイツは執事みたいな格好のジジィとボール遊びをしていたんだが……」
「……キャッチボールっすか?」
「いや、ジジィが遠くに投げたボールを追いかけてジャンプして……口でキャッチしていた」
「……イヌっすね」
「ヘンタイなガキばかりだが金持ちなことは間違いない。執事以外にもメイドが大勢いたしな……たぶん金持ちが道楽で始めた孤児院か何かだろう。あの娘や一緒にいるヤツらも、見た目は貧乏そうだが絶対バックに金持ちが付いているハズだ。身代金はたんまりとあるぜ!」
「じゃあ次はあの娘がターゲットっすね?」
「最初からそう言ってるだろ与太郎! 次は失敗すんなよ!? いくぞ!」
「おぅ、ガッテンでーぃ!」
「おぅ、カーテンレール!」
誘拐犯二人組が手を組んだところにもうひとつの手が……ルルだ。
〝ゴツンッ!〟
「度々失礼しましたー」
「あ……いえ」
佑とチャコに引きずられるルルを見ながら「本当にコイツでいいのか?」と真剣に考えた二人組であった。
「ルルだよ! さいごまで読んでくれてありがとー! マンザーイ!」