FJC第23話「プール行きたーい!!」
「あーっ、ルル! オマエ、また泥棒しやがったな!?」
ルルのダイエットのためスポーツ公園へ向かったが、神社のお祭りに寄り道してしまい結局ダイエットは断念。それから一週間後、スーパーの買出しから帰ってきた佑が食材をしまおうと目を離した一瞬のスキに、買ってきた「ある食材」をルルに食べられてしまったのだ。
「えっ、これボクの分じゃないの?」
「何でそうなる! これは晩飯のおかず用に買ってきたんだよ!」
相変わらずルルにダイエットする意思はない。お祭りに出ていたほぼ全ての屋台で料理を食べ歩いてからも着実に体重は増えていた。
「えー、てっきりボクのおやつだと思ってた」
「んなワケあるか! これのどこがおやつに見える!?」
佑が手にした中身のない発泡トレーには、破られたラップの上に「鶏モモ肉」と書かれたラベルが貼りつけられていた。
「これがおやつだという発想すげーな……生肉だぞ」
この作品はフィクション……よい子は生肉食べないでね!
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「ねぇたすく! このチラシはどーしたの?」
ルルは食材と一緒に置いてあったチラシを見つけた。
「あぁ、帰ってきたとき郵便受けに入ってた」
「わぁい、ピザだ! ピザのチラシだー!」
「オマエふざけんなよ! さっき鶏モモ肉のブロックを二つも食べておきながらよくそんなことを……ん?」
佑がチラシを片付けると、その中の一枚に目が留まった。
『屋内温水プールOPEN! ダイエットに、体力づくりにあなたもLet's trf!』
(おいおい、「y」が「f」になってるぞ。思わず「EZ D● DANCE!」って叫びたくなったわ)
佑が心の中でツッコみながら手にしたのは、市内にオープンしたという屋内温水プールのチラシだ。そこには二十五メートルプールの写真と、水中ウォーキングや泳力別にレーンが分けられている旨の説明が書いてあった。
(そっか、もうすぐ梅雨に入るし屋内で運動できる施設がいいよな……)
佑はダメ元でルルに聞いてみた。
「なぁルル、オレ明日休みだから一緒にプール行くか?」
どうせルルのこと、「プール? 何ソレおいしいの?」って言うに違いない。佑は「食えるもんなら食ってみろ!」という返しを用意して待っていたが……
「えっ、プール!? 行く行く! プール行きたーい!!」
ルルの反応は予想外のものだった。しかしよく考えてみれば小学校からプールの授業はある……いくらルルでもプールという言葉は知っていたようだ。
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「で……何で私がここにいるのよ?」
翌日、屋内温水プールへ移動している車の中で、不満を口にしたのはチャコこと青葉 久子……ルルの親友だ。
「だってー、せっかくだからチャコちゃんもさそったんだよー!」
「べっ別に誘ってもらわなくてもいいんだけど……」
ルルに付き合わされたチャコは明らかに機嫌が悪そうだ。
「そもそも私、泳がないし……」
「えー、だいじょうぶだよ! となりにカフェがあるんだって。いろいろ食べられるよ……アイスクリームでしょ、パフェでしょ、チーズケーキ……」
ルルは割引券のついたチラシを見ながらよだれを垂らしていた。どうやらその施設には二十五メートルプール以外に、リゾートホテル風のプールと中二階でプールを見ながら飲食できるカフェがあるらしい。
「ちょっ全部私が食べられない乳製品ばかりじゃん! 嫌がらせなの?」
「あっ、焼きもろこしとイカ焼きもあるって!」
「えっ……あぁ、そうなの? ふーん……」
怒りに震えていたチャコはその一言で一気にトーンダウンし、口元から少量のよだれが垂れていた。
「すみませんね青葉さん、ルルが無理に付きあわせてしまったみたいで……」
運転席でチャコの不満を感じた佑は、後部座席のチャコに向かって話しかけた。
「あっいえ、こちらこそ取り乱してしまってすみません。私はプールサイドで読書していますからお二人で泳いでください」
口元のよだれをこっそり拭いたチャコは文庫本を見せて佑にそう答えた。
「ところで青葉さん」
「はい?」
「今回ルルが珍しく、プールに行くのがやけに乗り気だったんだけど……コイツ、水泳好きなんですか?」
「「あ゛……」」
チャコとルルは同時に声が漏れた。
「うん、およぐのスキだよー!」
「そうですね、得意ですね……小学校のとき、校内水泳大会があったんですけどこの子、五十メートル自由形で優勝しましたから……」
「えぇっ、そうなの!?」
ルルの意外な特技に佑は驚いたが、チャコはさらに驚くべき事実を語った。
「えぇ、優勝したんですよ……『犬かき』で」
「……」
佑は改めてルルの「自由すぎる」ポテンシャルに驚かされた。
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屋内温水プールに到着した三人はチケット売り場に並んだ。オープン当日とあってかなり混雑している。
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
「大人ひとりとイヌとネコが一匹ずつー!!」
間髪入れず「自由すぎる形優勝」のルルが答えた。
「あっあの……申し訳ございません、当施設はペットのご入場を……」
〝パシーンッ!〟
受付係が困惑している前で、チャコがルルの後頭部を思いきり引っぱたいた。
「すみません、大人一名と中学生二名です」
「えっだって……イヌ娘とネコ娘の料金が書いてないんだもーん」
「アホかオマエは! そんなもん一般人に通じるワケないでしょ!」
今日のチャコはルルの「保護者」になっている。チャコの入場料はバイト代として佑が支払った。入場料を払った三人は更衣室へ向かったが……
「じゃあまた後で……っておい!」
男子更衣室に入ろうとした佑にルルがついてきた。
「何でこっちに来る?」
「えっ、きがえるんでしょ? たすく、きがえ手伝っ……」
〝ゴンッ!!〟
〝ズルズルズルッ……〟
チャコにグーパンされたルルは襟首を掴まれ、そのまま女子更衣室まで引きずられていった。
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三人は水着に着替えプールサイドで合流した。佑はサーフパンツ……水泳なので本当なら競泳用が良かったが、レジャー要素の強いプールなので配慮した。チャコはフリル付きのビキニ……中学生にしては大人っぽい水着だ。
「おまたせー!」
ルルが更衣室からやって来た。ルルの姿を見た途端、佑とチャコは絶句してあからさまにコイツとは無関係だ! という顔をした。
それもそのはず、ルルは学校指定のスクール水着だったのだ。しかも胸の部分に大きく「1-A 天神」と書かれたゼッケンが付けられている。
「おい……他に無かったのかよ」
「何でー? 水着っていったらコレじゃん! たすく、泳ごっ!!」
「うわー、知り合いと思われたくねー」
「じ、じゃあ私はこっちに居ますので……」
スク水姿のルルと関わらずにホッとした表情のチャコは、そのままプールサイドにあるリクライニングチェアに座り本を読み始め、佑とルルは競泳用の二十五メートルプールに向かっていった。
チャコが座ったリクライニングチェアが並ぶ場所はオシャレなリゾートホテルのようだ。だがその端ではオシャレな雰囲気とは似ても似つかない……屋内プールなのにサングラスをかけたどう見ても怪しい男が二人、佑とルルのいる方向をずっと見つめていた。
「おい、あれ……天神の娘じゃねーのか?」
「えっ、何でわかるんすか?」
〝ゴツンッ〟
「バカ野郎! ゼッケンに思いっきり大きな字で書いてあっただろ!」
「イタタ……何も殴らなくたっていいじゃないすか~」
「それに……」
男の一人はどうやらルルに見覚えがあるらしい。
「アイツ……あの『樹海の大豪邸』、天神家の娘だ!」
「ルルだよ! さいごまで読んでくれてありがとー! ところでこの男の人たちはだれかなー? ヒントは前回の話だよー! まだまだ続くよー!」