FJC第19話「おさんぽ行こー!!」
翌朝……
〝ダダダダダッ〟
「さんぽ行こさんぽ行こさんぽ行こ……」
〝ガチャッ〟
〝ダダダッ……ぴょーん〟
「たすくーっ! おさんぽ行こーっ!!」
〝ドスッ!〟
「うげっ」
佑の部屋に入ってきたルルがベッドにダイブ……鈍い音がした。
「ルル、朝っぱらから何すんだよ……くっ苦しい」
ベッドで寝ている佑の上に馬乗りになったルルがせがんだ。
「たすく! 今日さんぽに行くってやくそくしたじゃないか! さんぽ行こっ」
「早ぇーよ……こんな時間に散歩してるのじーさんばーさんぐらいだぞ(偏見)」
昨日の夜……ルルの体重増加に危機感を抱いた佑は、ルルに運動をさせようと廊下でボール投げをした。だが結果的にドアが破損……室内の運動に限界を感じた佑は次の日に散歩(ウォーキング)をしようとルルに提案した。
いつもは交替勤務で週末は仕事をしている佑だが、今日は久しぶりに土曜日が休みだ。とは言ってもこの日は夜勤明けで、ついさっき仕事から帰ってきて仮眠をとり始めたばかりだった。
「すまんルル……もう少し……寝かせてくれ……」
今週の夜勤は、ルルが学校に行っていたので昼間は静かに眠ることができた。だが土日と夜勤が重なった日は今みたいに睡眠を邪魔されるかも……佑の頭を一抹の不安がよぎった。
「あっそ、じゃあボクもたすくといっしょに寝よーっと! おやすみなさーい」
「こらっオレの上で寝るな! おっ重い……」
※※※※※※※
お昼前に仮眠を終えた佑が部屋から出てきた。がっつり寝てしまうと夜に寝られなくなってしまい次の勤務に支障が出る……彼は高校卒業後七年以上もこの生活を続けていた。
「あぁ……たすく起きたの? ボクも眠くて寝ちゃった……ふぁ~あ」
ルルが大きなあくびをしながら自分の部屋から出てきた。
「オマエ、二度寝してたんかぃ」
「うん、朝ごはん食べてないからおなかすいちゃった」
「そっか、じゃあお昼近いけどご飯に……」
佑とルルが階段を下りてダイニングに向かうと……
「おいっ、ウソつくな!」
「むにゅ」
佑はルルのほっぺたをつねった。実は仮眠をとる前、佑はルルの朝食用にドッグフードを用意していたのだが見事に無くなっていた。
「しっかり食ってんじゃねーか!」
「あれぇ、おかしいなぁ……あっ、タイヘンだ! ドロボーが入ってボクのゴハンを食べていったんだ! こっこれはケーサツを呼ばなくては……」
「よし、じゃあオマエを警察に連れていくか」
「きゃいん! なんでー!? 犬はおまわりさんなんだぞ」
「意味わからん! やっぱオマエは食うな!」
佑は自分の分だけ朝食を用意した。朝食とは言ってもすでにお昼近く……買い置きのシリアル食品で済ますことにした。
「なんだ……たすくもドッグフード食べるんだ」
「バカッ、これは違うよ! 人間用だ」
「えーだって見た目いっしょじゃん! ちょーだい」
「確かに見た目は似ているが……これはチョコレート味だからダメだ! ルル、オレが食い終わったらすぐに出掛けるから着替えてこい」
「えーっ、ボクもおなかが空い……むにゅ!?」
「おい、今から何で散歩に行くかわかるか? 朝メシをしっかり食ったのにしれっともう一度食おうとしているオ・マ・エのダイエットのためだぞ!」
「むっ、むにゅっむにゅ~っ! わっわくわっふぁひょ……」
佑は再びルルのほっぺたをつねった。ちなみに……「つねる」は甲州弁で「つめくる」「つまぎる」「つみたくる」「ちみくる」「ひっつむ」「ひっつねる」などと言い、山梨県内で最もバリエーションが多い方言のひとつである。
食事を済ませた後、佑とルルは動きやすい服装に着替えて散歩(ウォーキング)に出かけようとしていた。
〝ガチャッ〟
佑が玄関のドアを開けたとき、
「あれ? たすく!」
「ん、何だルル?」
「いっしょにおさんぽ行くんでしょ?」
「そうだけど……どうした?」
「ボクに首輪とリード付けなくていいの?」
「今のオマエの姿でソレやったら職質確定だわ!」
「あっあと……ウンチ袋と水の入ったペットボトルは持ったの?」
「オマエ……女子中学生が街中で排泄行為を披露するつもりか?」
実行されたら職質どころの話ではない。
※※※※※※※
佑とルルは近くのスポーツ公園を目指した。公園には距離が表示されたジョギング&ウォーキングコースがあり、週末は多くの老若男女が健康やダイエットのために利用している。
ふたりは公園で散歩(ウォーキング)をする予定だが、せっかくなので公園まで歩いていくことにした。
「わーい! さんぽださんぽだー!」
「おいルル! 車に気を付けろよ」
ルルは犬だったときから散歩が大好き……というか、外の空気を吸うことが大好きだ。なので「お出かけ」でルルのテンションは爆上がりだ。
「わあぁーぃ……」
「……ゎぁあーい!」
ペースを保って歩いている佑の横を、ルルが行ったり来たり走り回っている……もはや散歩ではない。
やはり首輪とリードが必要だったか……佑は少し後悔した。だが今のルルの姿は犬ではなく女子中学生、首輪とリードを付けて散歩した時点で薄い本の展開だ。
数分後……
「たすく~っ、つかれたよぉ~~!」
公園に着く前にルルの電池が切れた。
「ったく、オマエは犬のときからペース配分考えてねぇなっ!」
犬だったときのルルの散歩担当は佑だ。学校から帰るとルルを散歩させるのが日課だった。ルル(犬)の晩年は散歩ができる状態ではなかったため、ふたりにとって約14年ぶりの散歩になる。
佑が帰れば散歩に行けることをルル(犬)はわかっていた。ドアを開けた瞬間大喜びで飛び出し、リードを引きちぎりそうな勢いで散歩に出かけた。だが……
「たすく~もう歩けない~」
「おい、まだ目的地にすら着いてないぞ……ちゃんと歩け!」
「くぅ~ん」
帰りは佑がリードを引っ張り、ルルがズルズルと引きずられて帰るのがお決まりのパターンだった。イヌ娘になった現在はリードを付けていないので、佑は仕方なく襟首を掴んで後ろ向きにズルズルと引っ張っていた。
「っていうかこれじゃ運動にならないじゃないか! ほらっ、ちゃんと歩け」
「おなかすいた~なんか食べたい~これじゃうごけない~」
「オマエ……本来の目的忘れているな?」
本来の目的=ルルのダイエットである。
「ここで食べたらダイエットの意味ねーだろ! 我慢しろ」
「くっ……くぅ~ん……くぅ~ん……くぅ~ん、くぅ~ん……」
「あぁー、うるさい!」
「くぅ~ん、く……!? クンクン、クンクン……」
ルルの鼻レーダーが何かを感知した。そしてツインテールをピクッと持ち上げ、
「たすく! 何かおいしそうなニオイがする!」
目をキラキラと輝かせて佑に訴えた。
「えっ? この通りには飲食できる場所はないハズだけど……」
「ううん、まちがいない! この先にあるよゼッタイ!」
と言うとルルは急に元気を取り戻し先に行ってしまった。スポーツ公園に向かう通りは、市街地とは反対側の住宅地なので飲食店などのお店は少ない。
(ま……まさかアイツ、知らない人の家の昼食に乱入するつもりじゃ……)
普通じゃ考えられないことだが、常識の通じないルルならやりかねない。佑は焦りながら思った……せめて……せめて……
(突撃するなら『巨大なしゃもじ』を持って行けー!)
先に走って行ったルルは歩道の右側にある鳥居をくぐり中に入っていった。そこはスポーツ公園の近くにある神社の参道だ。
「おっおいルル! 何で神社に…………あっ!」
佑の目の前に現れたのは、屋台が立ち並ぶお祭りの光景だった。
「ルルだよ! さいごまで読んでくれてありがとー! まだまだ続くよー!」




