FJC第16話「ふっふっふー!」
「さぁルルちゃん! 宿題やるよ」
「イヤじゃあー! 遊ぶんじゃあー! チャコちゃん、だましたぬぁー!」
たまごボーロで簡単に釣られる方が悪い。チャコに誘導されたルルは、抵抗むなしく自分の部屋に閉じ込められてしまった。
ルルの部屋に入ると、中の様子を見たチャコはあきれ返った。
「もうっ! 引っ越しても相変わらず遊び道具ばっかりじゃない! っていうか前の家よりひどくない?」
チャコは、引っ越す前のルルの家……つまり天神家にも出入りしていたようだ。
「えーっ、そぉ?」
「そうよ! あっ……あのぬいぐるみ、まだあるじゃん!」
チャコはベッドに置いてあったぬいぐるみを指さした。
「ダメだよー! へちまるはあげないよー」
「いらないわよ! あんな汚いの……でも……」
チャコの様子がおかしい……部屋の中の「ある一点」を見つめると落ち着きなくソワソワしている。するとチャコの異変に気がついたルルが、床に落ちていたボールを拾い上げてチャコの目の前に差し出した。
「ひっ!」
驚いたチャコの顔は引きつり、ショートヘアーの髪が逆立った。
「チャコちゃ~ん、もしかしてぇ……これが気になるのかなぁ?」
ルルはニヤリとほくそ笑み、完全に悪いことを企んだ顔をしている。どうやらルルは、チャコの「秘密」を知っているようだ。
「べっべべべ別にきっ……気にならないわよ!」
「あっそ~ぉ? じゃ、これは?」
チャコの足元に、ルルがボールを〝コロコロッ〟と転がした。
チャコは瞬時に〝ガバッ〟と四つん這いの姿勢になった。
チャコとボールの間に〝シーンッ〟と無音の緊張感がしばし続いた。
チャコは恐る恐るグーに握った手でボールを〝チョコンッ〟と軽く叩いた。
チャコが叩いたボールは、わずかに〝コロッ〟と転がった。
チャコは驚き〝ビョーンッ〟と四つん這いの状態のまま後ろに飛び跳ねた。
チャコは〝スタッ〟と着地して今度は頭を低くした姿勢になった。
「フゥーーーーッ……あ゛っ」
少し興奮状態になったチャコだったが、すぐに我を取り戻し、
「ち……ちょっとふざけないで! ちゃんと宿題やるよ」
「きゅ~ん」
ルルに宿題をやらせるという本来の目的を思い出した。
※※※※※※※
チャコは折り畳みテーブルをセットすると、教科書とノートを置いた。どうやら昨日のうちに宿題を終わらせていたようだ。
「さっ、ルルちゃん! 教科書広げなさい!」
「くぅ~ん、チャコちゃ~ん……宿題いいから遊……」
〝バァーンッ!!〟
チャコは折り畳みテーブルを両手で力任せに叩くと、ルルに顔を近付け
「しゃぁーーーーっ!! ルルちゃん……マ・ジ・メ・にやろうね」
髪を逆立て目が据わった状態で威圧してきた。
「うぅっ、わかったよぉ……」
ルルは渋々、チャコと向かい合わせに座って教科書とノートを広げた。だが初めからやる気のないルルは、つきたてのお餅のようにズルズルッと崩れ落ち、やがてテーブルの上にアゴをのせた状態で止まった。
「チャコちゃ~ん、おなか空かない? ピザたのもうよぉ」
ルルは宅配ピザの存在を知っていた……いつの間に?
「何言ってんの? 朝ごはん食べたばかりでしょ!」
「え~、おなかが空いて力が出ないよぉ~!」
ルルはテーブルの縁をガジガジと咬みはじめ……歯形をつけていた。
「ちょっと! まだ一問目もやってないわよ! これ終わらせなかったらダメよ」
「きゅ~ん」
「じゃ国語からね……最初はことわざの問題! 次の文に続く語句を答えよ、一問目! 犬も歩けば……」
「……ピザを食べる」
「犬が西向きゃ……」
「……ピザを食う」
「飼い犬に……」
「……ピザを与える」
チャコは、テーブルの向かい側でスライム化したルルの頭部を両手で掴んだ。
「おいっ! ピザじゃなくてこのままヒザ蹴りしてやろうか?」
「チ……チャコちゃん、暴力NO!」
「ちゃんとしなさい……ってか、この問題何でイヌを使ったことわざが続くの?」
ルルに勉強を教えようとしても無駄である……「犬に論語」だ。するとチャコがスッと立ち上がった。
「チャコちゃん、ど~したの」
「あっちょっと……トイレどこかな?」
「えーっ、ごめん! 今ウチにはトイレシーツないんだよね」
「使わないわよ! ルルちゃんと一緒にしないで!」
「廊下の突き当りを右だよ」
「ありがとう……ちょっとルルちゃん、宿題はひとりで続けてて」
チャコがトイレに向かうと、ルルの目が輝いた。
「今だっ!」
〝ダダダダダッ!〟
ルルは、昨日のうちに宿題を済ませたチャコのノートを手に取ると、すぐさま隣にある佑の部屋へ駆け込んだ。そして佑のパソコンに繋がれた複合機のスキャナーにノートをセットすると……
〝ウィィィン、ガシャン……ジジッ、ジジッ……〟
チャコの宿題をコピーし始めた。ルルはスマホも使いこなせないほどの機械オンチだが、食が絡むことと悪知恵のときだけは覚えが早い。
ルルが不正行為をしていると……
「ルルちゃーん!」
「キャインッ!」
突然、チャコに声をかけられツインテールが逆立った。ルルはそーっと振り向くがそこにチャコの姿はなかった。どうやらトイレの中から呼びかけているようだ。
「ど……どうしたの? チャコちゃん」
チャコはトイレの中で「あること」に困っていた……紙が無くなっていたのだろうか? 便座に腰かけたままルルに呼び掛けた。
「ねえ、ルルちゃん……砂……ある?」
「砂? そんなものないよー」
「えぇっ!? 困ったなぁ、どうしよう……あっそうだ!」
チャコはトイレットペーパーを手に取ると
〝カラカラカラカラカラカラカラカラ……〟
トイレットペーパーを全て引き出して便器の中に押し込め、
「これでよしっ……と!」
そのまま水を流さず、何食わぬ顔でルルの部屋へ戻った。
※※※※※※※
そのころ……先に自分の部屋へ戻ったルルは、ある仕掛けを準備していた。
何も知らないチャコが部屋に入ると
〝ブラ~ンッ〟
「ひいっ!」
チャコの目の前に、突然「ネズミ」が現れた。だがよく見ると、それはネズミに似せたオモチャだった。尻尾の部分は糸で結ばれており、その糸をたどるとルルが持った釣り竿につながっている。
「ちょっ……何のマネ?」
「ふっふっふー! チャコちゃん、これでも遊ばないでいられるかなぁ?」
ルルは不敵な笑みを浮かべると……
チャコの足元に、ネズミのオモチャを〝ポトッ〟と落とした。
チャコは瞬時に〝ガバッ〟と四つん這いの姿勢になった。
チャコとネズミの間に〝シーンッ〟と無音の緊張感がしばし続いた。
チャコはやがて耐え切れなくなり〝ビョーンッ〟と真上に飛び跳ねた。
チャコは両手で上から〝ギュッ〟と押さえつける感じでネズミに襲い掛かった。
チャコが跳んだ瞬間、待ち構えたルルが〝ビュンッ〟と釣り竿を持ち上げた。
チャコの両手からネズミが〝スルッ〟とすり抜け天井へ飛び上がった。
チャコはすかさず〝ビョンッ〟と飛び上がり再びネズミに飛びついた。
チャコが捕まえる寸前、再びルルが〝ヒョイッ〟と持ち上げてネズミは逃げた。
「ル……ルルちゃん! アンタねぇーっ!」
「チャコちゃーん、理性と本能……どっちが勝つかなぁ?」
ルルは完全に悪者の顔をしている。
〝ガバッ!〟
「ルルちゃん! それ、よこしなさいっ!」
〝ヒョイッ〟
「なんでー? ボクのだよー!」
〝ブンッ!〟
「べっ、べべ勉強のジャマよ!」
〝スルッ〟
「えーっ、チャコちゃんが遊びたいだけでしょ?」
〝プッ……ツン!〟
チャコの「理性の糸」が切れた。
「もうガマンできない……ルルちゃん! 勝負よ!」
「さいごまで読んでくれてありがとー! チャコちゃんの正体はわかったよね?」




