FJC第14話「おるすばんできたよ!」
「ルルちゃん、いる?」
「あっ、かりさかのおばちゃん! こんにちは!」
ドアの向こうに立っていたのは隣に住む雁坂さんだ。
「あのね、お昼に肉じゃがを作ったんだけど作り過ぎちゃって……よかったら佑くんと一緒に食べてくれる?」
〝ガチャッ〟
ルルは玄関ドアを解錠した。あれ? 確かルルはドアのロックを開けられなかったはずでは? 一念岩をも通す……肉じゃがを食べたい一心で無意識のうちに解錠できたみたいだ。
「わぁ、おばちゃんありがとー!」
雁坂さんは大きめのプラスチック容器に詰め込んだ肉じゃがと、ポリ袋に入ったゆで卵をおすそ分けしてくれた。雁坂さんは玄関をのぞき込むと
「あら? ルルちゃん……まだお引越し済んでないの? ずいぶん散らかっているようだけど……」
「あ、あはは……」
ルルが中学校に通うようになって二ヶ月……その間、この家は玄関ドアだけ借りていた形(実際には『いつでもドア』で天神家に通じていた)だった。ようやく昨日から住み始め、引越しは昨日のうちに「神の力」で済ませてはいたが、今しがた金属バットを振り回したルルによって破壊し尽くされていた。
「ところでルルちゃん、佑くんと一緒に住めるようになってよかったわね」
「うん!」
ルルは佑の「いとこ」という設定だ。そして佑は、空き家になっていたこの家を借りて住み始めた「いとこ」のために戻ってきた……という設定で近所に周知されている。もちろんこれも「神の力」による洗脳だ。
この「神の力」はどのような設定ミ……不都合も帳消しにしてくれる、登場人物と原作者にとって非常にありがたいチート能力だ。
「ごめんねぇ……うちの息子が探偵やってるから、佑くん探すの協力してって言ったら金取るとか言い出して……ったく、あのバカ息子が」
「ムスコって?」
「この間ウチに来たときルルちゃんも会ったでしょ?」
「えっ、女の人じゃなかったの?」
「ああ見えて男よ……じゃあねルルちゃん、佑くんにもよろしく言っといてね」
そう言い残して雁坂さんは帰っていった。
「うん、バイバイ…………えぇっ、男!?」
※※※※※※※
「さーってと! 肉じゃがだー肉じゃがだーわーい!」
ルルは、雁坂さんからもらった肉じゃがを持ってダイニングにやって来た。この時点で雁坂さんから言われた「佑くんと一緒に食べて」という言葉は……もはや言うまでもない。
すでに朝食とプリン二個と通常の倍以上の量がある昼食を「午前中に」平らげてしまったルル。満腹中枢がぶっ壊れているのは火を見るより明らかなので、最後の砦は「自制心」だけなのだが……。
「いっただきまーす!」
彼女の自制心は元々「更地」……砦など初めから存在していなかった。今回も欲望という波に、防ぐ術もなく飲み込まれていった。
「あっそうだ! レンジでチンすればあったかく食べられるじゃん!」
スマホを使いこなせないルルだが、電子レンジは使えるようだ。そういえば玄関のドアロックといい、ルルは食べ物が絡むと秘めたる力を発揮するようだ……「火事場の馬鹿力」みたいなものだろうか。
〝ブゥゥゥン……チーン!〟
「あちっ! でもおいしそぉ……いっただきまーす」
元々「佑の分」も想定して入っているので、それなりの分量はある……ルルの胃袋の中では、質量保存の法則が成り立たない核融合でも起きているのだろうか?
「うーん、このジャガイモおいしい……肉もおいしい! ニンジンもおいしい! 糸こんにゃくも絹さやもおいしい……あ゛っ」
ルルの箸が止まった……箸、使えたのか?
「玉ねぎは……食べられないんだよなぁ……」
イヌは中毒を起こすのでネギ類は食べてはいけない……成分が染み出しているので、本来は一緒に煮た食材もNGである。犬と人間の中間……イヌ娘のルルだからギリOKだが、それでもネギ本体は食べるなと言われている。
「あっ、そういえばかりさかのおばちゃん、たすくといっしょに食べてって言ってたよなぁ……たすくの分も取っておかないと!」
ここに来てやっと「自制心」が芽生えてきた。まぁサハラ砂漠に胡麻の種が発芽したようなレベルだ……ほぼ意味がない。
「よし! たすくの分を残しておいたぞ! ボクっていい子!」
お皿には……玉ねぎだけが残されていた。
※※※※※※※
「まだ足りないなぁ……そういやゆで卵ももらったんだっけ?」
お腹に原子炉を持っている疑惑が出てきたルルが、雁坂さんから肉じゃがと一緒にゆで卵をもらったことに気がついた。
「これもあったかくして食べたいなぁ……レンチンしよっと!」
もう皆さんおわかりであろう……フラグである。
〝ブゥゥゥン〟
〝……〟
〝ボムッ!!〟〝ガシャンッ!!〟
突然、大きな爆発音とともに電子レンジの扉が開いた。ゆで卵が爆発したのだ。
「うわぁああっ! 何だ何だ!?」
あまりの大音量にルルは驚き、ツインテールが垂直に立ち上がった。そして爆発音がした方を見ると
「あーっ! ボクのゆで卵が粉々にー! だれだ! こんなことしたのは!?」
……オマエだよ。
「キサマかぁ!」
ルルは電子レンジがゆで卵を粉々にした「犯人」だと決めつけた。確かにそうだが、操作した者の存在は完全に忘れている。
「オマエなんか……こうしてやるー! うがぁー!」
怒ったルルは電子レンジを持ち上げると窓に向かって投げた。外に放り出すつもりだったが電子レンジはそれなりに重い。一度流し台の蛇口にぶつかり、バウンドして宙に浮いた。
〝ブシャァアアッ!〟
蛇口は破壊され、水が噴水のようにあふれ出した。一方、宙に浮いた電子レンジは電源ケーブルがリビングの照明器具に絡まり……
〝ブーンッ! ブーンッ!〟
照明器具にぶら下がった形になってしまい、リビングの中を遊園地の乗り物のようにグルグルと回転していた。
この話はナンセンスコメディーだ。「照明器具はそんな重さに耐えられるハズがない!」とか「電源ケーブルがそんな簡単に絡まるワケないだろ!」という類のご指摘はご遠慮いただきたい。
〝ベキベキッ!〟〝バリンッ!〟〝ドスンッ!〟
回転した電子レンジが、リビングのありとあらゆる物を破壊し始めた。ふすまは破られ、テレビの画面は割れ、食器棚は倒された。
「あわっ! あわわわわっ」
予想外の展開に、ルルはパニックになってその場から逃げだした。その間も破壊された蛇口から水はあふれ出して床上浸水になってしまった。すると……
〝ジジジジ……バァンッ!〟
漏電したためブレーカーが落ちた。ルルは階段の途中で震えていた。
※※※※※※※
「ただいまー」
夕方、佑が仕事から帰ってきた。
〝バシャバシャバシャッ〟
床上浸水している廊下から、長靴をはいたルルが駆け寄ってきた。
「たすくー、おかえり! ボク、ちゃんとおるすばんできたよ!」
「…………」
佑は無言のままルルの襟首を掴むと、まるで被災地のようになった廊下を通り奥の部屋までやって来た。その部屋にはパステルグリーンに塗られた扉がある。
そう、これは佑の家と天神家を結ぶ「いつでもドア」だ。佑はそのドアを開けると、天神家の執事の名を呼んだ。
「飯田さーん! コイツ、返品で……」
「待って待って待ってぇーっ! ごめんなさいごめんなさい! 今度はたすくの分のプリン食べないからぁ! 肉じゃがも玉ねぎ以外に絹さやも入れるからぁーっ」
論点がずれている時点で反省していないのは確実。
その後、破壊された物は全て天神家の「神の力」により元通りになった。
「ルルだよ! さいごまで読んでくれてありがとー! 次回は友だちのチャコちゃんがやってくるよ!」
※本文中に登場する「探偵をやってる雁坂さんの息子」の意味がわからない方は作者の別作品「女子高の問題教師と40人の変態たち」を『第1話』からお読みください(笑)。




