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竜と呪いの千回紀  作者: 稲荷竜
六章 静謐の時代

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第88話 魔術の消えた日

【露呈】を殺し。


【解析】を殺し。


【静謐】の死を見届けた。


 パッケージングされた転移の術式によって【虚無】のいる氷の塊の上に立たされた俺たちは、まず、寒さと風の洗礼を受けることになる。


【露呈】のいた大陸で似たような目に遭っていたので対策はしていたが……

 その対策というのが魔術頼みであり、ただでさえ聖剣のせいで魔術を使いにくいというのに、そもそも【虚無】のいた場所には、精霊がいっさい存在しなかった。


 魔術王がまず環境の洗礼を受けて倒れた。


 幸いだったのは、俺たちがこの氷の塊に降り立った時点で、すでに【虚無】を目視できていたことだろう。


 ……いや、目視できていたかどうかは、自信がない。


【虚無】は、二つの人型の穴だった。


 白と黒の人型の空洞が、まるで手をつないでいるかのように、そこにある。


 ……凡庸な俺は、異様さに気圧されて、足が止まった。


 非凡である聖剣使いは、かまわず斬りかかり、その双子の首あたりを、一閃で斬り払った。


 するとなんだかよくわからないが、すさまじい気配が広がるのがわかったのだ。


 身体中の力を奪われるような、謎の気配。


 混乱する俺と違って、聖剣使いは冷静だった。


「……まいったな。ここまでのものに成るのか」


 俺はもう凍りついてしまって、その先に続く言葉を聞けなかった。


 だが、聖剣が竜を斬るとだんだんと濃く(・・)なる精霊殺しの剣であることと……


 そこから世界が初期化されずに現代に続いていることを思えば。


 おそらく最後の始祖竜を斬った聖剣は、『そこに存在するだけで、星の中に精霊が発生しなくなる』ほどのものに成ったのだろう。


 だから現代は魔術もなく、精霊もおらず、科学というものにより文明が支えられている、のだろう。


 ……ここから先、【静謐】が他の始祖竜と記憶を共有することもなく、また、始祖竜たちは完全に死んでいるので、正確なところはわからない。


 俺だってすべての記憶を失って、きっと何度か転生したのだろう。


 そのあいだに世界は、現代の俺たちが知るような進歩を遂げた。


 ……もちろん、歴史書に書かれているのがすべてとは思わないが。


 そこには始祖竜も災厄もなく、魔術もなかったのだと思う。


 ……本当に長かったのはきっと、そこからの旅路なのだ。


 覚えていないだけで、俺は彼女となかなか再会できなかったか、再会しても彼女と気付けなかった。


 だから、その続きは現代(いま)になる。


 竜と呪いが消え去って、ただの人になった今━━


 俺たちは、あの千回の旅の終着に立っている。

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