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竜と呪いの千回紀  作者: 稲荷竜
四章 露呈の時代

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第45話 【露呈】

 そのころの俺を『傾国の寵子(ちょうじ)』と呼ぶ声が聞こえ始めたのはまあ、当然のことだった。


 なにせそれまで魔術師の庇護者としてゆるぎなかった王が、俺を迎え入れてから狂い始めたのだ。

 俺が寵愛を受けているのをいいことに、王にあることないこと吹き込んでいると見られてもおかしくはない。


 ところがこの時の俺の行動方針は(うわさ)とは真逆であり、王の度重なる逸脱を(いさ)めようと、たった一人で右往左往していた。


 なにせ明らかに自分のせいで色々と狂い始めたのはわかるため、これに責任を感じて正そうとするのは、俺としては当然だったのだ。


 ところが『寵子』扱いされている俺の話をまともに取り合おうという者はいなかった。


 俺が反乱分子を炙り出して王に告げ口しようとしている、というようにも見られた。


 かつて世話になった『はみ出し者たち(アウトサイダー)』も頼ってはみたが、社会的弱者の互助会でしかないそれに、王の蛮行を諌めるなどということができるはずもなく……

 俺はたった一人での奮闘を強いられ、その結果はかんばしくなかった。


 ある日のことだ。


 俺に与えられた庭園で、一人きりで頭を悩ませていた。


 だが、この『頭を悩ませる』という行為が、そもそも『王を諌める』という結果につながらないことを、俺はわかりきっていたのである。


 王に言葉など通じない。

 あいつは力でしか従わない。


 だが、その力がないのだ。だからこうして言葉を(ひね)り出そうと頭を悩ます他になく、それを無駄だとわかっているせいで苛立ちが募り、この時の俺は傍目(はため)にも明らかなぐらい憔悴(しょうすい)していたようだった。


 そんな誰もいない庭園の中に、とつじょ、光が見えた。


 ……時刻はまだ昼だった。


 明るい時間帯、開けた庭園の中だというのに、その()はなによりもまばゆく、それでいて目を焼くような乱暴さがなかった。


 その光をしばらく注視していると、それが人型であることにようやく気付く。


 するとその人型の異常さにもやっと気付けた。


 それは背こそ低いが豊満な肉体を持つとんでもなく美しい女の姿をしていた。

 でありながら、切り立った崖の谷底でものぞきこむかのような、あるいは足一つ分の幅しかない高所でとつじょ光が目に飛び込んできて視界が塞がれた時のような、そういうヒヤリとする危機感を俺に覚えさせたのだ。


 始祖竜(オリジン)


 たぶん、そいつがそれ(・・)なんだろうというのを、直感した。


 そいつは真っ白い光だけを身に(まと)って近付いてきて、優しく微笑んで俺の頬に手を当てた。


 黄金の瞳があまりにも美しくて目が離せない俺に対し、そいつは思わず癒されてしまうような『ふにゃり』とした笑みのまま、こんなことを言ったのだ。


「お前、自分が世界で一番がんばってるのに報われなくて、世界で一番かわいそうだと思っているわね?」


 ……たぶん、始祖竜の中で一番俺と性格的相性が悪いそいつは……


 始祖竜【露呈】というらしかった。

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