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竜と呪いの千回紀  作者: 稲荷竜
三章 解析の時代

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第27話 魔術

『いきなり自分を拉致した躁鬱(そううつ)の激しい女のところ』と『死ぬかもしれない危険が二十四時間三百六十五日休みなしで大挙してやってくる開拓地』と、どちらに行くべきかというのは、究極の選択だろう。


 結論だけ先に言ってしまえば、俺はどちらも選ぶことになった。


 すなわち、


「まあ、君が戻りたいというのならば私はその意思を尊重するけども。しかしだね、君のように無力なやつに第一災厄【虚栄】の遺産がごろごろいるような土地というのは、かなりこう、ハードではないかな? よし、ならこうしよう。私のもとで君は力をつけ、それから帰る。どうだい?」


 しばらく彼女のもとで過ごし、そののちに帰る、という選択だ。


 接していると言動の激しさにも慣れてきていて、俺はようやく彼女が始祖竜(オリジン)であることを感じ取れるようになっていた。


 だから、彼女の申し出を受けることにした。


 ……というのも、この時代は『変貌の時代』からおおよそ百年が経っていたのだ。


 当時のことは神話として語り継がれており、『竜は哀れな人に力を貸し、慈しみ、育て、力を与え、そうしてその身を剣に変えてまで災厄をうち祓い、人々を守ったのです』と言われている。


 そんな神話を聞かされて育った俺にとって、竜とはそういうもの(・・・・・・)なのだった。

 つまり、哀れな人に力を与える存在。そして俺は、自分のことをなかなか哀れだと思っていた━━というかまあ、【解析】と話してみて気付かされたというか。


 そうして力を与えた先にあるのが現在の十三家ともなれば、ムチで打たれ続けた力ない少年としては、これにすがりたくもなるというものだった。


 俺も加護をもらえるのか、と聞いた。


 すると【解析】はとたんに腹を抱えて大爆笑した。


 その笑いがおさまるまでには数十秒の時間が必要で、俺の発言があまりに的外れなのはまあわかったんだけど、ここまで笑われると『蹴っ飛ばしたろかこいつ』という気持ちにもなってくる。


 いよいよ俺の足が地面に転がって笑い続ける【解析】に伸びそうになったころ、彼女はようやく涙をぬぐいながら『ふわり』と風に巻かれるように立ち上がって、


「いやあ、加護か。なるほど、そいつはいい。楽して強くなれる。けれどね少年、私は力だけをぽんと渡された人間にはなんの興味もないよ。君らが努力して変化していく、その過程こそが私にとっての研究対象さ」


【解析】は俺に、『魔術』を教えることにしたようだった。


 魔術、というのはそれこそ『静謐の時代』以前からあるもので、『解析の時代』となった当時にも、もちろん存在する。


 ただしそれは、『かゆいところに手が届く』以上のものではなかった。


 現代のコンピューターゲームのような、敵を焼き尽くす炎とか、細切れにする風の刃とか、そこまで大規模でかつ不自然(・・・)な現象を起こすことはできないのだ。


 だから当時の俺のイメージ的に『魔術なんか覚えてどうやって強くなれるんだよ』という反感が湧いてしまうのも、仕方ないことだった。


 すると【解析】はその反応が楽しくてしかたないとばかりに、口元をモニモニさせ、細く長い指をすっと空へ向けた。


 すると周辺から風が指先により集まり、それは緑の光をまといながらどんどん大きくなり、ついには人を十人は呑めそうなほどのサイズになった。


【解析】が指を振って風の球を放つと、当時の俺では表現できないほどの速度(たぶん拳銃などの銃弾なみ)で遠くに見えるハゲ山にぶちあたり……


 山の半分から上を、消しとばした。


 ここまで届く轟音。山が崩れたことにより舞い飛ぶ大量の土埃。

 丘陵をびっしりと覆う背の低い草が逃げ惑うようにざわめき、俺はぽかんとして、


「……まずい。稜線(りょうせん)のかたちをちょっと変えるだけにしようとしたのに、やりすぎた」


 そんな声を聞いた。


 さすがにツッコミの一つも入れた方がいいかなと思って【解析】の方を見れば、彼女もヒクついた笑みでこちらを見ていた。


 口を開いたのは、彼女が先だった。


「ど、どうだい少年。魔術は強いだろう?」


 ……そう言われてしまうと、うなずくしかない。


 いや、もう彼女の『やっちまった』に対して適切なコメントを考えるよりも、そちらの方が大事だ。


 俺は、魔術の破壊力にすっかり魅了された。


【解析】は「いや、破壊だけが魔術の深奥(しんおう)ではないんだよ。むしろ破壊なんていうのは下の下でね、魔術というのは本来……」とかなんとか言葉を連ねていたのだが、俺の耳には入らない。


 もちろん俺は弟子入りを決めた。


【解析】は俺の両肩をつかんで真剣な顔で語る。


「君に魔術を教えるが、私がしたように、山を壊したり、大地を抉ったり、そういうことはしちゃだめだよ。なぜって、人にとって、魔術は自然の力を借りるものだからね。下手に破壊すると自然からの抗議が来る。君はやるなよ。絶対にやるなよ」


 なんだかわからないが、あまりの迫力にうなずいた。

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