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竜と呪いの千回紀  作者: 稲荷竜
三章 解析の時代

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第26話 【解析】

「ん、ん、ん、ん、ん〜! 素晴らしいね! 素晴らしいよこれは! ああ、どうして他の姉妹はこんな珍しいものに無関心でいられる!? 始祖竜三柱が改造を引き継いでいじり続けた魂だよ!? 君、君ねぇ、もっと自分を大事にしたまえよ! 君は他に換えの利かない唯一無二の貴重なサンプルなのだから!」


 始祖竜(オリジン)はみな、目にした瞬間に『こいつは始祖竜だ』とわかる。


 それは人型……美しい女性のようなかたちをしているくせに、夜の暗闇とか、氾濫間際の河川とか、噴火直前の火口とか、そういうものを見ているかのような、言い知れない恐怖を覚えるからなのだった。


 だが、この当時の俺は、言動のせいで『こいつ、やべぇな』と思った。


 始祖竜【解析】は現代風に言えば研究者肌の竜であり、あと、狂科学者(マッド)に片足を突っ込んでいるタイプだった。


「あ“あ”あ“あ”あ“あ”い“い”ね“ぇ”! 維持、保管、管理、梱包あたりは【静謐】の得意分野だ! 『炉』に行かないようにするのではなく、『炉』に入ろうがおかまいなしで状態を維持するという傲岸不遜な感じは、まさに我らの愛すべき姉君らしいところじゃないか! 涼しい顔してわがままでプライドが高いんだから!」


 俺は戸惑うばかりで、動けない。


 その俺をベタベタさわり、ぐっと顔を近付けてながめたりしながら、【解析】はまくしたてる。


「【躍動】もいーい仕事をしている。あのものぐさ(・・・・)がよくもまあ、こうも健気に丁寧な仕事をしたものだ! ……いや、丁寧ではないな。なんかこう、すごく力技だ。めちゃくちゃパワーだ。『炉』でつぶせなかった異常な魂が自らのエネルギーで肉体に接続できるようにしているな。【静謐】の保護がなかったら肉体を作るときに発生するエネルギーで魂が燃えているよ、君!」


 え〜っと……


「【変貌】のやつは相変わらずいい子だなあ。うん、あいつの仕事はつまんないや」


 始祖竜【解析】は興味のないことに対して異常に口数が減るタイプのようだった。

 しかしまだ彼女の性分を知らず、それどころか開拓業をしていたら急に誘拐され、気付いたらまったく知らない草の丘陵にいた俺としては彼女が何者かすら確信が持てず……言動がやばすぎて始祖竜ということを感じ取る余裕さえなかった……


 つまり単純に、その激しい躁鬱の切り替えが怖かった。


 俺をどうする気だ、とか聞いた気がする。


 気弱な態度はとらなかった。その理由は、気弱な態度で人に接すると相手がつけあがり、ますます怖くて酷い目に遭わせられるという経験則からだった。


 すると【解析】はきょとんとした顔で小首をかしげた。


「『どうする』というのは興味深い着眼点だね。そう、私は君の魂という貴重なサンプルの保護をしようと思いつつ目覚め、その魂の持ち主がなぜか今日にも死にかねない苦境に立たされているのを見て、夢中になって君を連れ出してしまっただけなんだ。つまりだね」


 そこで言葉を区切って、【解析】はフッと笑い、


「今後のことについては、なにも考えていないのさ!」


 俺は『とりあえずもといた場所に帰せ』と要求した。


【解析】は首をかしげ、


「なんで?」


 ……言葉に詰まる。


 俺はあそこに帰るのが当然だと思っていたから、そう要求したが……


 あんな場所に帰りたい理由など、なにも持ち合わせていなかったのだから。

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