半永久炉の蒼い炎
アキラとメイは新婚ホヤホヤのカップルだった。
「メイ!あなたのためにならあの蒼く輝くリゲル恒星になりたい!!!」
吟遊詩人もかくや?と思うほどロマンチックな言葉を並べ立てるのは、ロボットのヒカリ。宇宙船の栽培エリアで見つけてきた赤いアネモネを一輪メイに手渡す。
「じわあっと頭にくるよ!!」
そばでアキラが電子タバコを噛み千切りそうな剣幕で言った。アキラは宇宙船の操縦席で星図を見ながら、新妻にちょっかいを出すロボットをいまいましく思った。
メイはまんざらでもなさそうで、もらったアネモネを髪に飾った。
「いくら新婚旅行に行きたいからってあの激安ディーラーのところに金を落とさなくても良かったんじゃないのか?!」
「宇宙船のレンタル、他のところじゃ手が出なかったんですもの。仕方ないじゃない」
「じゃあなんでそのポンコツロボットおまけについてきたんだよ!」
「ディーラーが言うには雑用おしつけていいからって」
「ほんとか?」
「はい。さようにございます」
いい返事じゃないか。アキラはヒカリにさっそく仕事を与えた。
「四番エンジンの調子がおかしいんだ。見てきてくれ」
「はい。かしこまりました」
「私も行こうか?」
メイが聞いた。
「好きにしろよ」
アキラはむくれたままつっけんどんに言った。
「アキラ」
「どうした?」
「四番エンジンの燃料がなくなりそうよ」
「なんだって?!」
「半永久炉の炎が消えそう」
「代わりの燃料補充できるかい?」
「ヒカリが格納庫に取りに行ったわ」
雑用どころの騒ぎではない。
巨大な燃料カプセルの本体に黄色と黒で危険物取扱について記載されている。
メイが近づこうとすると、ヒカリが制止した。
「微弱ですが、放射線が出ています。放射性物質ですので近寄らないでください」
「わかった。ヒカリ、気をつけてね」
「イエス、マスター」
ヒカリはクレーン操作で半永久炉に続く蓋を開けた。
燃料カプセルを投入すると、近すぎたのか、炉の残り火がヒカリまで届いて、その身体を溶かそうとした。
「ヒカリ!逃げて!」
メイが悲鳴をあげた。
ヒカリは、胸のソケットから自分のコアを手早く取り出すと、メイに投げた。メイはそれをうまくキャッチした。
「私の原子力のエネルギーもあなたがたには大変危険です。このまま炉に私の身体も投下してください。それから蓋をきっちり閉じて」
「ヒカリ!!!」
メイは泣きながらクレーン操作でヒカリに言われたとおりにした。
蒼い炎が燃え続ける。
「メイ、大丈夫か?」
アキラが宇宙船を自動操縦に切り替えてやってきた。
「アキラ!ヒカリが…」
「大丈夫。やつは身体がなくなっても、コアさえあれば再生可能なんだよ」
「本当?」
「もちろん。でも今度再生したときはひとの嫁さんにちょっかいかけないように設定してやる」
「それはそれで寂しいかも」
「なんだって?!」
メイは髪にさした赤いアネモネにそっと触れた。
「花なら何本でもやるよ!今、なんだと思ってる?俺たちの新婚旅行なんだぜ!」
アキラがしびれを切らして言った。
「でも、ヒカリがかわいそう」
「あいつは、お前のためならリゲル恒星の蒼い光になりたいって言ってたよな?」
蒼い光!
半永久炉の中で燃え盛る炎。
「楽しい旅行が台無しだ。とっととヒカリの新しいボディ作ってやるから元気出せよ」
「本当?」
「もちろん!」
メイは頼もしい夫の後について行った。