お嬢様、唯我独尊な考えでございます。
「高宮!今何時!?」
高宮と呼ばれた執事はドアを開けてから腕時計を確認し、8時31分26秒でございますと己の腕時計に刻まれる正確な時間を告げた後に部屋の敷居を跨いだ。
「なんてこと!もうそんな時間!こないだ遅刻したばかりだから遅刻出来ないわ 。次に遅刻したらクビですわなんていつもと変わらない口調でさらっと言うあのメイド長は鬼よ」
そう喋りながら体を起こしてベッドの隣にある和風コタツに用意された朝食を食べるために箸に手を伸ばすと高宮にいきなり頭を叩かれた。
「お嬢様、まずお口を漱いでからでございます」
イッターイっと、叩かれた部分を左手で軽く撫でつつアヤメは、はいはいと言いながら飲み水とは別に用意されていたコップの水で口を漱いでフットマンが持っていた中くらいのバケツのようなものにっぺっと吐き出し、また箸に手を伸ばしてコタツの上に置かれているサラダに箸を伸ばした。
アヤメはまた叩かれないか不安だったが叩かれなかったのでそのまま食べ始めた。
食べやすいように一口サイズに切り分けられた菜食を慌てた様子で早々と口に運ぶアヤメ。慌てながらもその動作は優雅で美しい。
短く整った黒髪のショートボブを透き通る白い肌が映えさせ、綺麗に整った輪郭に乗っているこれまた整った目鼻立ちのパーツは一見、薄幸の少女的なイメージを感じさせるが目を見開いた時の大きめの瞳は光を宿した黒真珠のようでそれがアヤメの顔に強さを感じさせる。
っが、ところどころの寝ぐせと寝ていた時に出来た顔のシワ、そしてメヤニと寝ヨダレの痕で台無しである。
「ところでお嬢様、こないだ遅刻という表現には語弊が御座います。正確には昨日でございます。あと、その方はメイド長というよりハウスキーパーと呼称するのが相応しいかと。あとあと言わせてもらいますと、遅刻してクビを鬼と呼ぶよりはお嬢様がほぼ遅刻しかしてないのが悪いのでございます」
「・・・、うっさいわね。遅刻くらい何よ!たかが5分、10分程度・・・」
アヤメはバツが悪そうに口ごもりながらしゃべっていると高宮は首をかしげ5分、10分程度・・・?っと聞き返した。高宮のその行動でアヤメは逆に開き直り口を開いた。
「そうよ!たっかが1、2時間の遅刻でクビって、この白鳥アヤメ様がメイドしてやってんのよ!ありがたいと思いながら地べたに這いつくばって天に輝く一等星であるこのアヤメ様を見上げて感謝なさい!ってもんよ」
アヤメは仁王立ちをし、箸を握り閉めて高宮を指さす。それを聞いた高宮が口を開く。
「おお、お嬢様。なんと素晴らしい唯我独尊的な考え方、ではそれを四方堂家のハウスキーパー、冷宮マイアにそのまま伝えておきますね」
この高宮の発言が原因かアヤメは急激に顔色が悪くなり喉の奥に何かを詰まらしたような声で
「ゔ・・・、それだけはやめ・・・て・・・」っと言った。
このアヤメの反応に高宮と一緒に来た見習いフットマンは喉に何か詰まらせたのではと心配の言葉を掛けるがそれを高宮が平気だと手で止めた。
40話くらいまでは毎日18時に更新予定です。
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