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新型ゲーム機狂詩曲(ラプソディ)

惨劇!転売屋が新型ゲーム機を手にした時。

作者: ウォーカー

 これは、人気ゲーム機の転売で一儲けしようと目論む、ある若い男の話。


 夏が終わり、肌寒い日が増えて、年の瀬が近付く季節。

人気ゲーム機の新型機が発売される、という発表が行われた。

その新型ゲーム機は、

発売前から既に大人気で、

予約受け付けが開始されるやいなや、

すぐに完売してしまう程の盛況ぶりだった。

その新型ゲーム機で遊ぶ日を心待ちにするファンたち。

しかし、そんなお祭り騒ぎの中で、

それに乗じて一儲けしようと目論む人たちがいた。


 転売屋と呼ばれる人達がいる。

転売屋というのは、

人気商品を、

それを買おうとする人よりも早く、先回りして買い占めて、

正規の価格よりも高く売りつける人たちのこと。

人気商品の品薄を助長するとして、問題とされている。

転売屋にとって、

需要が供給を上回る商品は狙い目で、

新型ゲーム機などは、正に格好の商材。

5万円で買った物が、時には10万円、

あるいはそれ以上の価格で売れることもあった。


 その若い男は、いわゆる転売屋だった。

人気商品を先回りして買い占めて、

欲しがっている人に高く売りつける。

そんな転売を生業とする転売屋として、結構な利益を上げていた。

その日、

その若い男が、何かいい商材が無いかと、

自宅でインターネットサイトを眺めていると、

丁度いい情報が飛び込んできた。

その情報とは、

人気ゲーム機の新型機が発売されるというニュースだった。

そのニュースを目にして、その若い男はほくそ笑んだ。

「あの人気ゲーム機の、新型機が発売されるのか。

 しめしめ。

 今回も、転売で一儲けさせてもらおう。」

そうしてその若い男は、

もうすぐ発売される、新型ゲーム機で一儲けしようと、

まずは在庫確保のために、行動を開始した。


 新型ゲーム機を転売して儲ける。

そのためには、まず在庫を確保する必要がある。

その若い男は、在庫確保のために、

近隣の販売店に行く・・・のではなく。

インターネットを使って、

ゲーム販売店の通信販売サイトを確認することにした。

「新型ゲーム機の在庫を確保するために、

 実際に販売店に足を運ぶなんてこと、もう必要無いのさ。

 そんなことをしても、

 販売店の店員に顔を覚えられて、転売屋だと警戒されるだけだ。

 それよりも、インターネット通販の方が良い。

 インターネット通販なら、

 顔を合わせる必要はないし、身元も偽りやすいからな。」

そうして、ゲーム販売店の通信販売サイトを次々に確認していく。

新型ゲーム機は人気商品なので、

どの販売サイトも、抽選で予約を受け付けることが告知されていた。

「やっぱり、どの販売サイトも抽選販売か。」

どの販売サイトも、予約受付の方法は同じだった。

その内容は以下の通り。


予約受け付けは、抽選で行う。

住所氏名などを登録した人たちの中から抽選して、

当選者のみ予約を受け付けて販売する。

登録は、一世帯につき一人に制限する。


よくある予約販売の抽選方法だった。

その注意書きを見て、その若い男はニヤリと笑った。

「抽選予約の登録は、一世帯につき一人、か。

 よくある制限だな。

 でも、俺には奥の手があるんだ。」

その若い男は、部屋の中を見渡して口を開く。

「このアパートには、今は俺しか住んでいない。

 つまり、

 このアパートには、無人の空き部屋がたくさんあるんだ。

 その空き部屋を住所にして、架空の氏名を使って登録する。

 そうすれば、

 いくらでも抽選予約の登録が出来てしまうってわけだ。

 このアパートは、親戚の叔父さんが経営してる。

 その叔父さんから、

 空き部屋は自由に使っていいと言われているんだ。

 今までにも、

 空き部屋を住所にして抽選予約の登録をしたことがあるけど、

 問題になったことは無かった。

 このやり方で、今回も稼がせてもらおう。」

そうしてその若い男は、

アパートの空き部屋の部屋番号を使って、

何件も何件も、大量の抽選予約の登録をしていった。


 それから、新型ゲーム機の抽選予約が締め切られて、

さらに2週間後。

抽選予約の結果が発表された。

人気商品であり、

多数の人が登録したことで、

最終的にその当選倍率は80倍以上の激戦になっていた。

しかし、その若い男は、

アパートの空き部屋と架空の氏名を使い、

多数の抽選予約の登録をしたことで、

その当選数は、なんと数十件にもなっていた。

つまり、

新型ゲーム機を数十台、予約することに成功したことになる。

パソコンの画面を見ながら、その若い男がほくそ笑んでいた。

「しめしめ。

 在庫を数十台も確保できたぞ。

 新型ゲーム機の正規の価格は5万円。

 一台につき、5万円を上乗せして10万円で売れるとすれば、

 一台転売する度に5万円の儲け。

 つまり全部で、数百万円の儲けということか。

 あるいは、

 新型ゲーム機の人気が上がれば、もっと高く売れるかもしれない。

 実際には経費がかかるから、その分儲けは減るけど、

 そんなことは気にならないくらい、大儲けできそうだ。」

その若い男は顔を綻ばせた。

しかし、

転売するには、まだやるべきことが残っている。

その若い男は、緩んでいた顔を引き締める。

「いかんいかん。

 予約できただけじゃ、まだ転売は終わってないな。

 これから、

 この新型ゲーム機を買ってくれる人を探さないと。

 そのためには、

 インターネットオークションを使うのが良いだろう。」

インターネットオークション。

いわゆる、ネットオークションとは、

インターネットサイトを通じて、商品のオークションをすること。

出品者が商品を提示して、

それを欲しい人たちが、各々で落札価格を提示して競争する。

一番高い価格を提示した人が、その価格で商品を買う仕組み。

即決価格が決まっている場合は、その価格を提示した人が即落札する。

「ネットオークションなら手続きも簡単だし、

 同じ商品を一人で大量に売っても、問題になりにくい。

 俺のような転売屋には、ネットオークション様様だ。」

その若い男は早速、

インターネットオークションサイトを開くと、

抽選予約で当選した新型ゲーム機を出品していった。

その価格は、即決価格10万円。

つまり、

この商品を落札するには、最高10万円まで出さなければならない。

元の価格は5万円だから、最高価格は倍額ということになる。

そんな高額設定にもかかわらず、

その新型ゲーム機は、

即決価格10万円で出品した途端に、飛ぶように売れていった。

売れ行きの良さに、

その若い男の気が大きくなっていく。

「こんなに売れ行きが良いんだったら、

 価格は10万円じゃなくて12万円でも良いかもしれないな。」

試しに12万円に設定してみると、やはり飛ぶように売れていく。

13万円、14万円と即決価格を高くしても、やはり売れていった。

それを見て、その若い男は舌打ちをする。

「しまった。

 こんなに高くしても売れるなら、10万円ぽっちで売るんじゃなかったな。

 10万円で落札された在庫を、何とか取り戻せないかな。

 ・・・そうだ。」

その若い男は、

10万円で落札した人たちに、メッセージを送った。

「出品価格の表記に間違いがありました。

 手数料をお支払いしますので、この落札は取り消しさせていただきます。」

そうしてその若い男は、

僅かな手数料と引き換えに、

10万円で落札された取り引きを無かったことにして、

もっと高い価格で出品し直していった。

「悪く思うなよ。

 転売屋の世界は、魑魅魍魎が跋扈する世界なんだ。」

そうして高額で出品し直した新型ゲーム機たちも、

最終的には全て売り切れてしまったのだった。


 抽選予約で手に入れた、数十台の新型ゲーム機。

その若い男は、

用意した新型ゲーム機の在庫を全て売り切って、

インターネットオークションサイトを眺めていた。

そこでは、今でもなお、

新型ゲーム機の価格は上がり続けている。

そんな様子を見ていると、

その若い男に、欲が芽生えてきた。

「まだまだ価格は上がっているのか。

 早い段階で、安い即決価格で売ってしまって損したな。

 こんなことなら、

 即決価格を設定するんじゃなかったかな。

 そうすれば、価格はいくらでも上げられたのに。

 また間違いだったということにして、落札を取り消しにしようか。

 ・・・いや、それはまずいな。

 再度出品したとして、

 それをまた同じ相手が落札するかもしれない。

 そうしたら、

 価格を高くするために落札を取り消しにしたのがバレてしまう。

 もしも、

 ネットオークションの運営者に通報でもされたら、

 全ての出品が取り消されるかもしれない。

 それは避けなければ。

 でも、儲けるチャンスを見過ごすのは惜しい。

 何か良い方法はないだろうか。」

しばらく考えて、

その若い男に、あるアイデアが浮かんだ。

「価格が上がり続けている今なら、

 ネットオークションで新型ゲーム機を落札して、

 それをもう一度ネットオークションに出品しても、

 自分が落札した価格よりも高く売れるんじゃないか?」

そんなことを思いついて、

オークションサイトで新型ゲーム機の価格を調べてみる。

すると、

10万円よりも安い即決価格が設定されているものが複数あった。

その価格は、その若い男が最初に設定した価格よりも安い。

試しに、

即決価格8万円の出品を落札してみる。

すぐに取り引きは成立して、

落札した新型ゲーム機は、発売日に出品者から発送される手筈になった。

それから、

即決価格12万円で出品してみる。

するとすぐに、即決価格の12万円で落札されてしまった。

「やったぞ。

 8万円で落札した新型ゲーム機が、12万円で落札された。

 差額4万円の儲けだ。

 よし。

 この調子で、即決価格が安いものを落札して、

 もっと高い価格で出品していこう。

 価格が上がってる今なら、高い価格でも落札されるかもしれない。」

それから、その若い男は、

即決価格10万円以下で出品されている新型ゲーム機を、根こそぎ落札していった。

そして、

それをすぐに15万円ほどの価格で出品していく。

5万円分の価格の上乗せをしているにも関わらず、

出品した新型ゲーム機は、面白いように落札されていった。

そうしてその若い男は、

新型ゲーム機の価格が落ち着くまで、

オークションサイトで買っては売り、買っては売りと繰り返した。


 それから数週間が経過して、

いよいよ新型ゲーム機の発売日になった。

その若い男は、

インターネット通信販売サイトでは、架空の名義で多数の予約をし、

オークションサイトでは、それらに加えて、

自分で安く落札した商品に価格を上乗せして出品し、

たくさんの新型ゲーム機を高値で売り捌くことになっていた。

今日は、

家に配達される新型ゲーム機を、そのまま落札者の住所に転送するだけ。

そのはずだった。

その若い男は、次々に届く荷物を、

そのまま落札者の住所に転送していく作業に追われた。

そうしているとすぐに時間が過ぎていって、いつしか夜になっていた。

たいていの配送業者が、今日の配送を終えるくらいの時間になって、

その若い男は、おかしなことに気がついた。

「・・・おかしいな。

 今日届くはずの新型ゲーム機の、数が全然足りない。

 もう今日の配送時間は終わりの時間なのに。

 配送が遅れているんだろうか。」

そう思って、

配送時間が過ぎてからも、しばらく待つことにする。

しかし、いくら待っても配送業者は現れない。

結局、

その日に配送されるはずだった新型ゲーム機の、

半分以上が配送されずに一日が終わってしまった。

数を数えてみると、

配送されていない新型ゲーム機の数は、

その若い男がオークションサイトで落札した数とほぼ同じだった。

配送された荷物の発送元を確認してみて、確信する。

オークションサイトで落札した新型ゲーム機が、一つも届いていなかった。

「おかしい。

 ネットオークション落札分が、一つも届いていない。

 何かのトラブルかな。」

インターネットでメッセージを確認してみる。

作業をしていて気が付かなかったが、

そこにはたくさんのメッセージが届いていた。

大別すると、メッセージの要旨は同じだった。

差出人はオークションサイトの出品者から。

「出品価格の表記に間違いがありました。

 手数料をお支払いしますので、この落札は取り消しさせていただきます。」

つまり、

手違いなので落札を取り消しにするという内容だった。

その若い男は声を荒げた。

「落札を取り消したいだって?

 今更そんな無責任な!」

その若い男は、

そう返事をするメッセージを送ろうとして、手が止まった。

それは、

自分がオークションの落札を取り消すために言ったことと、

同じことだと気付いてしまったから。

自分がしたことと同じことを、自分がされてしまった。

因果応報。

それに、

売るつもりがない相手に、いくら文句を言ってもしようがない。

相手は、インターネットで繋がっただけの、

遥か遠くにいる人なのかもしれないのだから。

商品を送るように強制するのは難しい。

その若い男は、泣き寝入りするしか無かった。

「全部で数百万円の儲けのはずだったのに。

 オークションサイトで仕入れた分は、無駄になってしまった。」

がっくりと肩を落とす、その若い男。

しかし、その若い男の災難は、それだけでは終わらなかった。


 オークションサイトで落札したはずの新型ゲーム機。

それを、相手の都合で取り消しにされてしまったその若い男。

しかし、本当の災難はここからだった。

さらにメッセージが届いた。

その若い男は、また落札の取り消しかと、

うんざりしながらメッセージを見た。

しかし、その予想は外れていた。

届いたメッセージは、

その若い男から新型ゲーム機を落札した人からだった。

「落札した新型ゲーム機が届きません。

 早く送って下さい。」

メッセージには、そのように書いてあった。

そのメッセージを見ている間にも、同じようなメッセージが次々に届く。

「新型ゲーム機が届いていません。

 いつ届きますか。」

「早く送って下さい。

 楽しみにしています。」

それらのメッセージを読んで、その若い男は顔を青くした。

「そうだ。

 新型ゲーム機の落札が取り消されて、儲けがパァになっただけじゃ済まない。

 俺は、落札するはずだった新型ゲーム機を、

 そのままオークションに出品して、他の誰かに落札されているんだ。

 俺が落札した新型ゲーム機が届かないということは、

 その落札者に送る物が無い。

 急いで落札を取り消さないと。」

いつぞやと同じ様に、

出品価格の表記に間違いがあったので、落札を取り消す、

という旨のメッセージを送ろうとするが、考え直す。

昨日までなら、

これで落札を無かったことにできるはずだった。

しかし、

新型ゲーム機の発売の前と後では、その状況は異なっている。

既に発売日を過ぎてしまっているので、

手違いだったというには、時間が経ちすぎている。

その間に訂正する時間があったはずだから。

しかたがなく、

素直に事情を説明することにして、

何とか落札を取り消して貰えないか、メッセージを送る。

「こちらの手違いで、

 予約していた新型ゲーム機が手に入らなくなってしまいました。

 そのため、落札を取り消させて頂きたく思います。」

そのような内容のメッセージを送信した。

しかし、そのメッセージに対して、

落札者からは怒りのメッセージが届いた。

「手違いだなんて!

 そんな言い訳、今さら通用するか!」

「手元に商品が無いのなら、これから用意して送ってくれ。」

「オークションサイトに、悪質な出品者だって通報するぞ!」

怒りのメッセージは、どんどんエスカレートしていく。

「発送が遅れた日数分の利子を要求する。」

「オークションサイトに通報しておいた。

 お前はもう、オークションサイトを使えなくなるだろう。」

「オークションサイトから、詐欺事件として対応すると連絡があった。

 すぐにお前の家に行くからな。」

その若い男は、汗びっしょりになって、口を開いた。

「詐欺事件だなんて、大げさな。

 ちょっと予定が狂っただけなのに。

 それに、家に来るなんて、出来るわけがないだろう。」

その時。

人気のないアパートの中を、ドスドスと歩き回る足音が聞こえ始めた。

その若い男は、驚いてきょろきょろと辺りを見回す。

「どこかの住民が帰ってきたのか?

 いや、このアパートの住民は、今は俺一人だけのはずだ。

 じゃあ、この足音は誰だ?

 こんな時間に、来客か?」

扉を細く開けて、アパートの廊下を確認してみる。

するとそこには、

大柄で恐ろしい形相の、鬼たちがいた。

その若い男は、

扉の隙間に突っ込んでいた頭を引っ込めて、急いで扉を閉めた。

「何だ!?あいつらは。

 あれは鬼か?

 まさか、そんなものがいるわけがない。」

恐る恐る、もう一度外を確認する。

そこにいる恐ろしい形相の人たちは、確かに鬼だった。

赤鬼だったり青鬼だったり、頭に角を生やした大男たち。

筋肉隆々のその手には、重そうな棍棒を持っている。

まさしく鬼たちが、そこにいたのだった。

その鬼たちの内の一人が、その若い男に気がついて大声をあげる。

「あそこにいるぞ!

 捕まえろ!八つ裂きだ!」

慌てて扉を閉めるが、もう遅い。

大きな鬼たちがドスドスと近付いてくると、

閉じた扉を棍棒で粉砕して、その若い男の部屋の中に入ってきた。

「わああああ!」

その若い男は、

部屋に入ってきた鬼たちを見て、腰を抜かしてしまった。

床に尻もちを突いている、その若い男。

そのすぐ横に大きな棍棒を突き立てて、鬼たちが言った。

「お前!

 俺が落札した新型ゲーム機を、送ってこなかっただろう。

 さては、用意出来なかったんじゃないのか。」

他の鬼たちもそれに続く。

「よくも俺たちを騙してくれたな。

 鬼を騙すなんて、どうなるか分かってるんだろうな。」

「5万円の物を、その倍以上の値段で売るなんて、足元を見やがって。

 その体、八つ裂きにして挽き肉にしてやる。」

鬼たちが棍棒を振りかざして、その若い男の上に振り下ろそうとする。

その若い男は、体を床に伏せて懇願した。

「すいませんでした!

 お金が欲しくて、嘘の出品をしました!

 価格を吊り上げてごめんなさい!

 新型ゲーム機は、必ず用意しますから、だから殺さないで!」

鬼たちが、噛みつきそうな勢いで言い返す。

「用意するって、いつまでにだ!

 どこにも売ってないんだぞ。」

「それまで待っていられるか!」

また棍棒が振り上げられた。

その若い男は、

ひれ伏していた体を起こして立ち上がると、

押入れまで走っていって、その戸を開けた。

中から金庫を取り出して、鬼たちに取って返す。

「この金庫に!

 転売で儲けたお金が入ってます!

 これが俺の全財産です!

 だから、これで許してください!」

それを見て、鬼たちが顔を見合わせた。

それから、やけに優しい顔になって話しかける。

「なんだ、出すものあるんじゃないか。」

「最初っから、そう言えばいいんだよ。」

鬼たちが、その若い男から金庫を受け取る。

その若い男は、命だけは助かった。

・・・と、思ったのだが。

「これは貰っておく。

 しかし、お前は許さん。」

そんな言葉の後に、

大きな棍棒が、その若い男の上に振り下ろされた。


 人気がない、深夜の住宅街。

その若い男が住んでいるアパートの前で、

鬼たちが集まって、どこかに電話を掛けながら話をしている。

「はい、今回も上手くいきました。

 金を持って、今から戻ります。」

「しかし、転売屋の人間なんてチョロいものだな。

 商品を買い集めることができるくらい大金を持っていることを、

 わざわざ自分から教えてくれるんだものな。」

「この金庫、ずっしりと重いぜ。

 俺たちに奪われるために金を貯めてたなんて、哀れなものだな。」

「あいつ、

 オークションの落札も出品も、

 全部俺達がやってたんだって、最期まで気がついてなかったな。」

「人を騙そうとする人間ほど、

 自分が騙されてるって気が付かないんだろうな。」

鬼たちは、

その若い男から取り上げた金庫を弄びながら、

歯を剥いて下品な笑い声を上げていた。


 それから夜が明けて、次の日の朝になって。

その若い男が住んでいるアパートに、遅れて荷物が届けられた。

それは、

その若い男がたったひとつ、

自分の名前と住所で応募して当選した、

抽選予約で買った新型ゲーム機だった。

しかし、

せっかく届いたその新型ゲーム機を受け取る人間は、

もうそこにはいなかった。



終わり。


 新型ゲーム機の抽選予約に外れたので、この話を書きました。


こんな内容の話になってしまいましたが、

新型ゲーム機が品薄である主な理由は、

需要が供給を上回っているという、単純な品不足ではないかとも思います。


お読み頂きありがとうございました。


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